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第十六話 来訪者

「Eランク、Eランク、Dランク、Eランク……あかん、ロクなもんがあらへん……」

 わーんと叫びながら、バッツは手に持つ魔宝具を放り投げると、頭を抱えベッドに倒れ込んだ。

「唯一使えそうなのは、この『切り裂きのブレスレット』ぐらいか……。せやけど、所詮これもCランク魔宝具やからなぁ。しかも、全部そろってないし……。またあの女に、安く叩かれそうや……」

 手に持つ魔宝具、切り裂きのブレスレットを眺めながら、バッツはハァと深い溜息をついた。

 部屋には、足場に困るほどの魔宝具が散乱している。それらは全て、あのパンパンに膨れ上がったリュックに入っていたものだ。

 部屋の一角に山積みにされている魔宝具の中から、ペケがニョイと顔を出した。

「こんなコモン魔宝具ばかり持って帰ったら、またスタンプ一個とか言われるニャ。一体、いつになったらこのスタンプ帳は一杯になるニャ……」

 パラパラとスタンプ帳をめくりながら、ペケはガックリと項垂れた。

 あのミラノとの戦いが終わってから、すでに一週間が過ぎていた。

 酒場の給士であるステアの強い希望もあり、あれからバッツたちはスクエア亭の二階でお世話になっている。

 ステアは、ラーメンが大好きなバッツのために、毎日日替わりで極上のカップラーメンを用意してくれていた。その気持ちは嬉しいのだが、いくら極上とは言え毎日カップラーメンなのは流石に飽きるし健康にも良く無いだろう。それに、ここに居ても肝心の魔宝具を手に入れることが出来ない以上、残っていても意味が無い。だが、思ったよりも収穫が無かったバッツたちは、なかなかその重い腰を上げられずにいた。こんな内容では、帰ってもあの一人と一匹に馬鹿にされるだけだ。

 バッツは、ガバッと起き上がると、ベッドに拳を叩きつけた。

「大体、あの女の査定が厳しすぎるのが、そもそもの問題やねん! どうせ『またこんなくだらない魔宝具を集めてきて、バッツちゃんも暇人ねぇ』とか言って、馬鹿にされるのがオチや。大体、AランクやSランクの魔宝具が、ホイホイ道端に落ちているワケじゃあるまいし、そんな簡単に手に入るワケがあらへんねん! あのクソアマ、どんだけ欲の皮が突っ張っていれば気が済むんや!」

「聞いたでチュか、マール。バッツったら、あんなこと言っているでチュ」

「……ふぅ。ごめんねぇ、バッツちゃん。こんな欲の皮が突っ張っている女で……」

 その時、突然バッツの背後から声がした。

 慌ててベッドから飛び降りたバッツが振り向くと、そこには……。

「マ、マール! それに、サークルも! な、な、なんでこんな所に!」

 目が飛び出るほど驚いたバッツの後ろにいたのは、マールとサークルだった。

 ウェーブがかった髪をかきあげ、マールは部屋を見渡すと、短い溜息をつく。

「ふぅ……それにしても、良くもまぁこれだけくだらない魔宝具を集めたものねぇ。ほんと、バッツちゃんも相当な暇人よねぇ……」

「見て見てマール、このショボイ金槌! こんなコモン魔宝具、いったいどこで拾ったのかチら?」

 部屋に散らばる魔宝具を見ながら、マールとサークルは好き勝手なことを言っている。

 予想通りの台詞を吐く一人と一匹に、バッツとペケはうんざりと言った顔を見せた。

「あのなぁ! そもそもワイは、マールに言われてこの場所に来たんやで? 一生懸命汗水垂らし、苦労して集めたっちゅうのに、なんでそんなに文句を言われなあかんねん! ……ったく、一体ここへ何しに来たんや?」

 怪訝な表情でマールを見つめながら、バッツは吐き捨てるように言った。

 その言葉を受け、マールはドレスの袖を目にあて、ヨヨヨと崩れ落ちる。

「……クスン。バッツちゃんたら、冷たいわぁ。可愛い弟子の動向が気になって、わざわざ様子を見に来てあげたんじゃない。なのに、そんな言い方って無いわぁ……ヨヨヨ」

「あーあ、泣かしたでチュ」

 泣き崩れるマールの頭をサークルはヨシヨシと撫でた。

 そんな一人と一匹の三文芝居を見て、バッツは呆れた顔で言った。

「ったく、アンタがそんなことで泣くタマかい。泣いたフリしたって無駄や」

 マールは、ペロリと舌を出した。

「ふぅ……バッツちゃんったら、ノリが悪いんだから……」

「心配せんでも、そろそろ帰ろうと思っていたところや。見ての通り、今回の収穫はここにあるので全部やからな。もうこの国に残ってもしゃーないやろ」

 バッツがそう言うと、マールは妖しい笑みを見せた。

「これで全部ですって? ……フフフ、本当にそうなのかしら?」

「あん? それってどう言う……」

 そうバッツが言いかけた時、突然部屋の扉がバタリと開いた。

「ねぇ、バッツいる? あんた、今日の試験……って、うわ! なんなのこの部屋!」

 部屋に入ってきたのは、トライだった。

 トライは、足場も無いほど部屋中に散乱している魔宝具を見て、丸い目をさらに真ん丸にして驚いている。

「これって、全部魔宝具? アンタ、あの戦いで、どんだけ魔宝具をガメてきたのよ」

「なんや、トライか。そんなに慌ててどないしたんや」

 トライはハッとした表情になると、まくしたてるように言った。

「慌てるも何も今日じゃないの、騎士団の編入試験! バッツこそ、そんなにのんびりしててもいいの? みんなに先を越されちゃうよ!」

「ああ、そんな話もあったなぁ。せやけど、ワイは騎士なんてなるつもりなんて、これっぽっちも無いから関係あらへんわ。トライ一人で行ってきーや」

 まるで興味が無いと言った様子で、シッシと手を振るバッツに、トライはクフフと意味深な含み笑いを見せた。

「あらそう? じゃあ、私一人で魔宝具をガッポリ手に入れちゃおうかな~?」

「何? 魔宝具をガッポリ?」

「一体それは、どう言うことニャ?」

 その言葉に、バッツとペケが目の色を変えてトライに駆け寄る。

 トライは、フフンと勝ち誇った表情で、胸を張りながらバッツたちを見つめた。

「それがね、騎士団の編入試験って、ミラノ遺跡に残っている魔宝陣の駆除なんだって!」

「魔宝陣の駆除?」

「ホラ、前に話したじゃない? あの地底界と繋がっていると言われている魔宝陣のことよ! あれから遺跡は、また結界によって封印されたけど、あの魔宝陣がある限り無尽蔵にモンスターが召喚され続けちゃうから、国としては気が気じゃないらしいのよ。で、私たちの出番ってワケ。ミラノ遺跡に潜入し、見事魔宝陣を破壊した者を騎士として召抱えるって、街の広場に立てられた看板に書いてあったわよ」

「ほほう……」

「ニャるほど……」

 バッツとペケは、お互いを見合わせながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ミラノ遺跡の魔宝陣を駆除するってことは、ミラノ遺跡に入れるってこと。私も今のところ、騎士になるかどうかは決めかねているけど、ミラノ遺跡にはまだ魔女が残した魔宝具がいっぱいあるって話だしね! それを手に入れてから考えてもいいかなって思ってさ」

「そうか、そう言うことか。マール、アンタの言ってた意味分かったで」

 トライの話を聞き、全てを察したバッツは後ろを振り向いた。だが、そこにマールとサークルの姿は居なかった。

「どしたの、バッツ? 誰かいるの?」

 不思議そうに部屋を見渡すトライ。

「……いや、なんでもあらへん」

 バッツはフゥと溜息を吐くと、ボソリと呟いた。

「……ったく、ほんま人使いの荒い女やで……」

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