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ハッピーバースデー

  何気ない毎日、今日も過ぎ去る同じような日々・・・。

 俺は坂崎真也、大学を卒業してもう4年。

 「もう27歳か・・・。」月日が経つのは本当にはやい。

 

 ここ神戸には、生まれたころからずっと住んでいる。

 大学を卒業後、大手IT企業の営業とは名ばかりで、結局のところ自社の怪しい投資アプリだのコピーソフトだのと様々な物を、毎日電話やインターネットを駆使して企業や個人に売りさばいていく仕事だ。


「こんな毎日、生きていく意味はあるのだろうか。」

かすかにフルーツとミントの香りがする電子タバコを加えながら、片手に持ったスマートフォンで

次のアポイント先の企業の情報を収集する。


「お先に失礼します」

「おう坂崎、今日の・・・なんだっけ。あの有名な、なんとか棒っていうお菓子を作ってる食品会社はどうだった?」

と、支店長の藤堂力也が、スクエア形の眼鏡をした鋭い眼差しで、スーツの袖をまくる仕草をしながら

いつものように結果を求めてくる。

 

 藤堂力也は名前も神々しいが、その実力は確かで、入社して1年で新人売り上げナンバー3に入り、次期社長も射程圏内だと社内でも噂になるほどだ。

 

「あまり反応はなかったです・・・。ただ、資産運用には興味があるようで・・・。」

どこもかしこも欲にまみれ、どんなに成功してもまたさらにその上の成功を求める。

「そうか、じゃあ引き続き頼むよ。今日もお疲れさん。」

「はい。お疲れさまでした。」

 

 こうして毎日の定型文のやり取りが行われ、いつもと同じような毎日が終わるわけだが

今日はこの世に生を受けて27回目の日、少しだけいつもと違った日常を送ることができる、そう誕生日である。

俺は待ち合わせである海辺の近くにあるショッピングモールに急いで足を運んだ。

 

 午後6時30分。

「真くんお疲れ~。待った?」

 安藤真希。真希とは大学3年生の時、同じ軽音楽部で出会った。2歳年下である彼女は、音楽界隈では7色様々な色の髪型が流行っている中、漆黒ともいえる黒髪で、ラフなファッションが好みだ。

いつもデートの時には、GAPのパーカーを着てナイキのスニーカーを履くのがお決まりのスタイルだ。


「いや、俺もさっき着いたとこだから。真希こそ、どうした、その服装は。」

グレージャケットと白ブラウスの清楚感満載で登場した姿を見ると、さすがにツッコまずにはいられなかった。

「あぁ、これね。いや~実はさ、今日グループ会社の集まりがあってさ。私店長になったんだー。真希店長就任~。」

「あぁ、そういや卒業後は名古屋にある、あの駅前のアパレルショップに就職決まったって喜んでたよな」

「そうそう~。真くんと会うのは久しぶりだもんねー。神戸も久しぶりだなー。おかえり神戸!なんちゃって。」

俺たちは恋人と言いながらも真希の転勤で遠距離が続いていた。

「で、今日は私がバースデープラン組んでまーす。」

「あ、そうなんだ。いつも予定は全任せだったからなぁ。」

「も~。それはいつもあなたに付いて行くよ、の姿勢なんだよ~。」

「はいはい、ありがとありがと」と俺はニュースのアナウンサーのように感情を入れずに答えた。

 

 はたからみるとよくありがちな恋人同士に見えるだろう。普通に生きて、普通に命を全うする。

それが人生なんだと。俺は心の中でそうつぶやいた。

 

 こうして俺たちはショッピングモールに行き、真希の好きな雑貨店や洋服店を見回り、スポーツショップではお決まりのナイキのスニーカーを見に行った。

「本当好きだよなー。俺もナイキの靴昔から大好きで履いてるけど。」

「いいでしょいいでしょ~。あ、これとか真くんに似合うんじゃない!?」

そう言って、真希が手に取ったのは昔流行ったエアフォース1の復刻モデルだった。  

「めちゃめちゃ高いぞこれ。」

「でもこれほんとかっこいいよね!!」 

 またよくあるやり取りをしながら、店を後にして、歩いていくと定番とも言えるそこそこ豪華な客船の船着き場に案内された。

 

 午後7時25分。

「さーさー、着きましたよっと」

「おお、ナイトクルーズか。近くにはずっとあったけど、乗ったことはなかったなぁ。」

「だよねーだよねー。それでは出発進行ーー!」

「それ、いつの時代の言葉だよ。」

 

 何年振りかに聞いたその定型文を後に、船は神戸の宝石箱のような夜景をさらさらと進み、神戸の象徴とも言えるポートタワーの光が大きな砂時計型のランプのように淡い光を放っていた。


 そして約2時間程の航海を終え、元の船着き場に戻ってきた。

「いや~きれいだったねぇ。ライスのないご飯を食べたの久しぶりだよぉ。」

「そうだなぁ。神戸に住んでて神戸牛を食べたのは初めてかも、ありがとうな。」

「いえいえ~どういたしまして。そうそう、意外と神戸牛食べないんだよね~神戸人は。」

真希の口角が大きく上がり、いつもの大きな瞳が見え無くなるほど笑っていた。

「じゃあそろそろ帰ろっか。」そう俺が伝えると、「うん、そうしよっか。」と答える。

その声はどこか寂しそうな、そんな気がした。

「あ、ちょっとまって。お手洗い行ってくる。」


 真希が見えなくなるのを確認し、俺は一目散に喫煙所に向かった。いつものようにフルーツとミントの香りを嗅ぐと心が落ち着く。

これもルーティーンに慣れる人間の性なのだろうか。その時だ。


「ジリリリリリリ・・・・。」


高い音で耳をつんざく様な非常ベルが鳴る。


「ただいま4階にて火災が発生いたしました。危険はございませんが安全のため建物の外へ避難してください。なお、小さいお子様やー」


 周りの様子と、なにやら焦げ臭い匂いから事の重大さがわかる。俺は下層に降りる脱出ルートを検索した。

「そういえば、西側に下に降りる階段があったはず。」

命が助かりたい、人間は常にそう思うようにプログラミングがされているのだろうか。その時、瞬時に思い出す。ここまで、0コンマ数秒だっただろう。

「4階は真希が向かった場所だ。」


 急いで4階に向かう。心臓の鼓動が尋常ではないぐらいに動いている。そこにはフロア全体が太陽のプロミネンスのようにうねり、まるでゲームで見た地獄の火炎ともいえる、この世の終わりとも感じられる景色が広がっていた。

 

「お客様、ここはもう危険なので下へ降りてください。」

さっきの雑貨屋の従業員だろうか。額には汗びっしょりでさっきまで笑顔で送ってくれた様子はまるでない。


 そして、ふと目線をフロアの先に送ると、スポーツショップのナイロン袋に入った中には、ブーメランのロゴでオレンジ色に包まれた箱が落ちている。


「ここを通してください!俺の大切な人がそっちに!!!」

「ここからは私たちに任せてください。早く外へ。」


 俺は一歩も引き下がらず、押し問答を続けていると、男性の警備員らしき人物に取り押さえられ、仕方なく下層へ連れて行かれた。


 真希・・・どうしてこんなことに。

これは現実か?さっきまでよくあるいつものとある日常だったはず。


 意識が朦朧としながらも、足を進めた。振り返って見ると炎に包まれた建物はもう別次元の物体へと変わっていた。するとナイトクルーズ船のあった船着き場に着く。

 

「船が泊っている。」


その船の奥には青白く輝く光が見えた。

真也はその光に吸いよせられるように近づいた。


「誰もいないな。」


中に入ると、その時だ。

 

突然周りが青紫の煙になる。と同時に虹色に光りだした。

重い重力が身体を蝕んでいく。

「う・・動けない・・・。」

そう心の中で呟くと、意識は完全に消えてしまった。

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