第9話『クライン村⑥ コロネル男爵と執事セバスティアーン』
登場人物
◎舞原 彰(まいはら あきら:アキラ)
男性 59歳
身長180cm超 バキバキの筋肉質 スキンヘッド まつ毛の長い、キラキラした瞳の女性のような目
定年間近の某県警刑事
剣道七段(練士)柔道五段
逮捕術上級(全国大会準優勝の経験あり)
雑学好きのうんちく親父
素人童貞
殉職後、異世界にエルフの美少女に転生
◎アキラ
年齢16~18歳くらいの見た目
白金色の長い髪
緑色の瞳
先の尖った耳
巨乳
のエルフ美少女
舞原彰の転生後の姿
現在、異世界を彷徨い中
◎ケルン
モンスターであるケルベロスの子(♂)
3つの頭、尻尾は1本
中央の頭に他のケルベロスには無い、赤い尖った角が生えている。
火を吹く
甘いものが好き
◎ノーラ
女性 10歳
圧政下にあるコロネル男爵領クライン村に住む少女
身長130cm弱 痩せ型
茶色い髪のオカッパ
青い瞳
厳しい状況下に置かれながらも夢を諦めない、明るく活発な少女
◎ルトヘル
男性 34歳
ノーラの父親
◎ミルテ
女性 32歳
ノーラの母親
◎ハルム
男性 8歳
ノーラの弟
◎サマンタ
女性 60歳
ノーラの祖母、ミルテの母
◎ボー
男性 20歳
コロネル男爵の三男
コロネル男爵領クライン村の村長
ゲス野郎
◎アールト
男性 20歳
ボーの従者
◎コロネル男爵
男性 44歳
帝国創立以来の名門貴族の当主
現当主で8代目
領民に重税を課し、圧政を敷くクソ野郎
◎セバスティアーン
男性 61歳
身長195cmの大柄
先代から仕える、コロネル男爵家の執事
村長の屋敷の家人達が、大きな板でボーの死体を運び去った後、現場には村人とアキラ以外はコロネル男爵とセバスティアーンだけになった。
「そなたのおかげで…」
コロネル男爵がアキラに何かを言おうとしたが、その言葉が終わるのを待たず
「まず、村人達に謝って下さい。男爵。」
とアキラが言葉を被せて言った。
「何?その必要はない。」
「何故です?村人達に無実の罪を着せるところだったのに。」
「そいつらはワシの領民だ。どうしようがワシの勝手だ。」
アキラは、ムラムラと沸き上がってくる怒りの感情を抑えきれず
「この親にしてこの子ありだな!」
ついにアキラは叫んでしまった。
「そもそも、この事件も、日頃から人に恨まれるようなことをしていた、あなたと村長である御子息が原因だろう?
重税もそうだが、あなたの息子が、この村でどんな振る舞いをしていたのか知っていたんだろう?
何故諌めなかった!?
何故止めさせなかった!?」
「何を!貴族が平民に対して何をしようが構わないではないか!!」
「そうして、子を正さなかったから、あなたの子は殺されたのだろうが!?
子を正さずして、何が親か!!」
傍らでコロネル男爵とアキラのやり取りを見つつ、セバスティアーンは過去の記憶を回想していた。
それは、先代のコロネル男爵が晩年にセバスティアーンに対して申し伝えたことの記憶だった。
先代コロネル男爵は、その時既に病床にあった。もはや先は長くない。
そばにセバスティアーンだけが居る。他に人は居ない。
「セバスティアーン…腕利きの傭兵だったお前が我が家に仕えて、もう何十年になるかな…長い間、有難うな…」
「何をおっしゃいます、旦那様。
戦で負傷して、傭兵として使い物にならなくなった私を拾ってくださったのに…感謝するのは私の方です。」
「ふふふ…長年、共に居てくれたお前は、もはやワシと一心同体だ。それ故、お前に申し遺したいことがある。」
「は?」
「伜のことだ。
あやつ、些か人への思い遣りが欠けているように思う。
特に平民や身分が下の者へは横暴ともいえる態度を取るようじゃ。
ワシが生きている内は大人しくしていようが、ワシが死んだら箍が外れて、とんでもないことをやらかすかもしれん。
そこでじゃ、ワシの死後、伜のヤツが間違った行ないをしたら、お前が正してやってくれないか?
親であるワシが居なくなった後、お前が親代わりともなって…」
「旦那様……」
「その、伜の間違いを正すことによって、このコロネル男爵家が絶えることになっても構わん。」
「旦那様!!」
「伜のやつは、貴族が、なんで貴族でいられるのか、全く判っておらんのじゃ。
それは領民のおかげじゃ。
領民が頑張って働いてくれて、税を納めてくれているからなのじゃ。
領民が貴族を支えてくれているのじゃよ。」
(このお方が名君と呼ばれる所以は、このお考え方に拠るもの…)
セバスティアーンは、沁々とそう思った。
「伜のやつは、領民を単なる従属物、所有物だとしか思っておらん。」
「………」
「頼んだぞ、セバスティアーン。
ワシが大好きじゃった領民達を守っておくれ。
お前がワシの代わりとなって…」
「ええい!この、エルフの小娘が!!」
セバスティアーンは、コロネル男爵の叫び声で我に返った。
「貴族であるワシに向かって、何たる無礼な口をきくか!」
コロネル男爵は、腰の佩刀に手を掛け、アキラに対して抜こうとしていた。
(前に出した足の爪先が外を向いて…これでは強い踏み込みが出来ないし、剣の柄を握っている方の腕も、脇が大きく空いている…こんなんじゃ速く抜けないよ。
コロネル男爵、こいつ全くの素人だな)
アキラは前世で培った剣道七段の腕前により、コロネル男爵が大した使い手でないことを瞬時に見てとって、反撃すべく徒手に構えた。
(剣を抜こうとした瞬間、顎にでも正拳をくらわしてやる!)
コロネル男爵とアキラが動きだそうとした瞬間
「若!いけません!!」
セバスティアーンが、凄い剣幕でコロネル男爵に叫び、血相を変えて男爵とアキラの間に入ってきて阻止した。
セバスティアーンの、男爵を睨み付ける視線に凄まじい殺気がこもっている。
(何だ?この男にとって、コロネル男爵は主君だろう?
この態度は異常じゃないか?)
暫くコロネル男爵とセバスティアーンの睨み合いが続いたが、男爵が剣の柄から手を放して構えを解いた。
コロネル男爵の方が折れた形だ。
「セバスティアーン、そういえば、お前はエルフを信仰する習慣のあるヴィセン島の出身だったな?」
と、コロネル男爵がセバスティアーンに言った。
(それで、今の態度だったのか…
さっき、ボーの傷を男爵に見せるのを何も言ってないのに手伝ってくれたのも、それが理由か…)
コロネル男爵は、次にアキラに向かって
「小娘、ワシの執事に免じて、今回だけは堪えてやる。
だが、これ以上我が領内に留まることは許さぬ。今日中に村から立ち去れい!」
と強く言ってきた。
アキラがセバスティアーンを見ると、セバスティアーンは無言で頷いた。
この男爵の言葉には従うしかなさそうだ。
ノーラの家に戻ったアキラは、ノーラの家族と遅めの朝食を摂るため、テーブル席についていた。
(不謹慎な考えだが、死体を見た後って、なんか、腹が減るんだよなぁ…
オレだけじゃなく、警察の同僚も、同じことを言うヤツは多かった。
目前に死を見ることによって、己の生存欲求が強く刺激されるからだと言った人もいたが、本当のところはどうなんだろう…?)
などとアキラが思っていると、アキラの前に
薄い小麦粉の生地に
細かく切った干し肉と
チーズやキノコを乗せて焼いた
料理が置かれた。
キノコは一昨日、ノーラが森で採ってきたものだろう。
この料理は、現在のこの村の経済状況からすれば、かなりのごちそうに違いなかった。
本日限りで村を去るアキラの為に特別に用意してくれたのだろう。
「美味しい?お姉ちゃん。
この料理はパンネクックって言うのよ。私も食べるの久しぶり。」
「うん。すごく美味しいよ!」
とアキラはノーラに返事をし、次にノーラの父母ルトヘルとミルテ、祖母のサマンタに向かって
「こんなごちそう、本当にありがとうございます。」
と礼を言った。
「なあに、今の男爵様の代になる前は、毎日食べてたものだよ。一般的な家庭料理さ。
おかわりもあるから、遠慮せずにたんと召し上がれ。」
と祖母のサマンタが言ってくれた。
「で、どうなさるつもりだね?これから何処にお行きなさる?」
と、ノーラの父ルトヘルが尋ねてきた。相変わらず、アキラの胸の谷間をチラチラと見てくる。
(オレも元は男だから気持ちは判るけど、もうちょっと然り気無くにして欲しかったな…)
などと思いつつも表情には出さず
「はい。帝国の首都?そこに行って、コロネル男爵よりも偉い人にどうにかして会って、この村などで行われている圧政のことを訴えようと思います。」
とアキラは質問に答えた。
そのアキラの言葉に家族一同呆気に取られた様子だったが、やがて祖母のサマンタが
「ありがとうね。その気持ちは有り難く受け取っとくよ。
でも、帝都に行くのは良いと思うわ。たくさん人が居るし、もしかしたら、その中にあなたのことを知ってる人が居るかもしれないわ。」
と言い、続けて
「この帝国で一番偉いのは皇帝陛下だけど、ほんのひと月前に亡くなった先帝の跡をお継ぎになられたばかりの、まだ5歳の子供でね…先帝さまの姫様が摂政をなさっているけど、この摂政さまも、まだお若いのよ…」
と説明してくれた。
「先帝さまは女帝であられたけれど、本当に偉いお人じゃった…」
と、サマンタは懐かしむように目を細めて言った。
色々と話を聞きつつ食事を終えたアキラがノーラに向かい
「本当に美味しかった!特にキノコが良い味出してたよ!
一昨日、採ってきたものでしょう?」
と尋ねたところ、ノーラは明るい声で
「うん。そう!
この前にキノコを採ってきた時はね、食べたらみんな暫く笑いが止まらなくなったんだけどね、今回は、そのキノコ入ってないから大丈夫だと思うよ!」
「ブーーッ!」
アキラは食後に頂いていた白湯を吹き出した。
(だ…大丈夫かいな?)
アキラは不安になってきた。
第9話(終)
※エルデカ捜査メモ⑨
コロネル男爵の執事セバスティアーンの出身地であるヴィセン島は、帝国の北方の海を隔てた場所に位置し(帝国領)、漁業が盛ん。
島民は、太古の昔からエルフを神格化して信仰している。(そのような地域民族は、この世界には多数存在し、ヴィセン島もその一つ)
また、かつて武装海上勢力の本拠地であったため、武を尊しとする思考習慣が島民の中にあり、男子は幼き頃から戦闘術の修練をし、傭兵として雇われる者も多い。