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第7話『クライン村④ 事件名:コロネル男爵領クライン村における村長殺人事件』

登場人物


◎舞原 彰(まいはら あきら:アキラ)

 男性 59歳

 身長180cm超 バキバキの筋肉質 スキンヘッド まつ毛の長い、キラキラした瞳の女性のような目

 定年間近の某県警刑事

 剣道七段(練士)柔道五段

 逮捕術上級(全国大会準優勝の経験あり)

 雑学好きのうんちく親父

 素人童貞

 殉職後、異世界にエルフの美少女に転生


◎アキラ

 年齢16~18歳くらいの見た目

 白金色の長い髪

 緑色の瞳

 先の尖った耳

 巨乳

のエルフ美少女

 舞原彰の転生後の姿

 現在、異世界を彷徨い中


◎ケルン

 モンスターであるケルベロスの子(♂)

 3つの頭、尻尾は1本

 中央の頭に他のケルベロスには無い、赤い尖った角が生えている。

 火を吹く

 甘いものが好き


◎ノーラ

 女性 10歳

 圧政下にあるコロネル男爵領クライン村に住む少女

 身長130cm弱 痩せ型

 茶色い髪のオカッパ

 青い瞳

 厳しい状況下に置かれながらも夢を諦めない、明るく活発な少女


◎ルトヘル

 男性 34歳

 ノーラの父親


◎ミルテ

 女性 32歳

 ノーラの母親


◎ハルム

 男性 8歳

 ノーラの弟


◎サマンタ

 女性 60歳

 ノーラの祖母、ミルテの母


◎ボー

 男性 20歳

 コロネル男爵の三男

 コロネル男爵領クライン村の村長(むらおさ)

 ゲス野郎

「この死体は発見した時のまま?」


 アキラは、村長(むらおさ)ボーの死体を取り巻いている村人達に向かって尋ねた。


「見つけた時は、その布で顔を隠されていただ。」


 (ふむ…この布、何か書いて…ん?いや、刺繍(ししゅう)がしてある…)


「何故、死体をこのまま放置しているのですか?」


とアキラが更に尋ねたところ


 村長(むらおさ)の屋敷に家人達を呼びに行ったが、死体の多数の刺し傷と多数の刃物、そして既に集まっていた多くの村人達を見て、怖れたように逃げ帰ったという。


 (なるほど…単純に村長(むらおさ)は大勢の村人達に殺されたと思ったんだな。そして、自分達も()られるかもしれないと…

 普段から恨まれている自覚はあったのかよ。)


 しかし、昨日、村長(むらおさ)の屋敷に赴いた時に、ボーの(かたわら)にいた従者らしき、黒髪くせ毛の団子っ鼻の若者だけが現場に残っていた。


 アキラは、死体を取り囲んでいる村人達の輪の中に入り、一人、死体に近づいていった。

 アキラは死体の正面にしゃがむと、そばに落ちていた小枝を2本拾い、それぞれ片手に1本ずつ持って、それでもってボーの体の表面の傷を拡げるようにして見た。


「何をするか!」


 ボーの従者の若者が叫んだ。それに和して村人達も口々に


「そうだ、エルフさん。何をしておられるのか!?」

「御遺体に触っちゃいけない!」

「おやめなされ!」


等々、次々に言ってきたが、それに対しアキラは、その村人達の声を()き消すほどの大きな声で


五月蝿(うるさ)い!!このままでは、あんた達が真っ先に犯人と疑われるぞ!

 真犯人を見つけるための大事な作業だ!黙って見てろ!!」


と一喝した。


 村人達、そしてボーの従者の若者は、アキラの迫力に気圧(けお)されてしまい黙ってしまった。


 (いずれも浅い…)

 (しかも、こんなに何ヵ所も刺されている割には出血が少ない…)


 アキラは体表面の傷口を調べ終えると、木にもたれかかっているボーの死体の両肩を(つか)み、前のめりに傾けてみた。

 首が前に倒れず、体の角度と平行に傾く。


 (首が固まりつつあるな、体はまだ、柔らかさがだいぶ残っている…

 死後3~4時間、てとこかな?

 今の太陽の高さから判断するに、殺害されたのは、夜明け前か、夜明け直後あたりか…)


 死体の背中中心部に一ヵ所だけ刺し傷があった。

 その傷の周りの衣服が、ぐっしょりと血で濡れている。

 また、背中全体に土や砂、草切れなどが付いている。

 アキラが付近を見回すと、泉の(ほとり)辺りから、地面に血の跡が一本、筋のようについていた。

 アキラがふと気付くと、ケルンが落ちていた白い布や刃物の匂いをしきりと嗅いでいる。


「ん?ケルン、何してるの?」


 アキラがそうケルンに向かって尋ねた声に(おお)(かぶ)せるように


「お前!もう、いい加減にしろ!!」


と、従者の若者が叫びながらアキラに近づいてきた。


「ウオン!ウオン!!ウオン!!!」


 ケルンの3つの口が、近づいてきた従者の若者に激しく吠えかかった。

 しかし、それは気色ばんで近づいてきた従者の若者に対する警戒や威嚇(いかく)というにしては、少し様子がおかしかった。

 ケルンは、布や刃物の匂いを嗅いでは従者の若者に吠える。嗅いでは吠える。を繰り返したのだ。


「まさか…ケルン、君、判るの!?」


 アキラがそう言うと、ケルンは3つの首を大きく(うなづ)かせた。


 その時、怒声の入り交じった声が多くの足音と共にこちらに近づいてきた。


「だ、男爵さま!」


 村人の一人が


   40歳前後で中肉中背

   黒い羽根つき帽子をかぶ 

  った

   平凡な顔

の男に向かってそう言った。


 コロネル男爵は、息子のボーが殺された旨の一報を受けとると、()(さま)、武装した兵の一団を引き連れて、このクライン村に、急ぎやってきたのだった。


 コロネル男爵は、ボーの死体や辺りの状況を見るなり


「おのれ!ワシの可愛い息子を村人で寄ってたかって殺しおって!

 村人の主だった者を全員捕縛して、引き立てろ!」


といきなり叫んだ。


 村人達は


「私共じゃねえです!」

「既に殺されていたのを見つけただけです!」

村長(むらおさ)さまを殺すなんて、そんな大それた事、出きるはずがありません!」


などと口々に言ったが、コロネル男爵は聞く耳を持たず、連れてきた兵達に村人達を捕縛させようとした。


「お待ち下さい!!」


 アキラは大声で叫び、しゃがんだままの体勢から立ち上がって村人達の壁を()き分け、コロネル男爵の前に姿を現した。


「おっ!」

「エ、エルフだ!」

「本物のエルフだ!うおーっ!」


 コロネル男爵及び、その兵達は一様に驚きの声を上げ、少しばかりの間、言葉を飲んでアキラを見つめていた。


 やがてコロネル男爵が


「何だね、君は?この村の者ではないようだが。」


とアキラに尋ねてきた。


「はい。一昨日からこの村でお世話になっています。」


「村人でないのなら、何も言わないでもらおうか、エルフ殿。」


「いいえ、言わせて頂きます。何故なら、あなたの御子息を殺したのは、この人達ではないからです。」


「何?何故そう判る!?」


 コロネル男爵が問い返した言葉に少し怒気がはらむ。


「あなたが来られる前に御子息の遺体を調べさせてもらいました。」


「何だと!勝手に息子に触れたのか!?」


と、コロネル男爵は、今度は明らかな怒声をアキラに向かって放った。


 アキラは(にら)み付けてくるコロネル男爵を(にら)み返し、無言で「ん」という風に(うなづ)いてから


「はい。必要があったからです。」


と静かに、だが、強い意思を込めてそう言った。


 コロネル男爵が更に何かを言いかけようとしたが、アキラはそれに(かぶ)せるように


「まず、背中の傷をご覧になって下さい。」


と言った。


 アキラがそう言うと、コロネル男爵が引き連れてきた兵の中で、一際(ひときわ)大柄で、左目に黒い眼帯をした初老の男が、木にもたれかかったボーの死体の両肩に手を掛け、前のめりに倒し、コロネル男爵によく見えるようにした。


「その背中にある、一ヵ所の傷が致命傷です。極めて深く、多量に出血している。

 それに比べて身体の表面の傷はいずれも浅く、出血もあまり多くありません。」


 アキラがそう言うと、黒眼帯の男は、再びボーの死体を木にもたれさせ、今度は身体の表面をコロネル男爵によく見えるようにした。


「この、いくつもある傷は、おそらく亡くなった後から刺したものでしょう。死んだ後から傷をつけても、あまり血は出ないですから。

 それに、たくさん落ちていた刃物も不自然です。何故なら、この村の人達は貧しい…


 (男爵!お前のせいでな!!)


 なので、大切な生活道具をそのまま捨てるということは、まず考えにくいですし、その刃物達に付いている血、いずれも刃先の部分に少しだけでしょう?

 そんな浅さでは、全く致命傷にならないでしょう。」

「そして、その辺りの地面を…


と、アキラは死体の左手側の地面を指差し


 見て下さい。血の跡が付いているでしょう?その泉の(ほとり)まで続いています。おそらく、そこで犯人は御子息の背中を刺し、倒れたところをここまで引き()ってきたのでしょう。

 まあ、ここまで遺体を移動させた理由は判りませんが、犯人が大勢…いや、たとえ二人とかでも、複数の人間がいれば引き()る事なく運べるでしょう…」


 アキラはここで一旦言葉を置き


「なので、この殺人事件の犯人は単独!」


 アキラは「単独!」と言う部分を特に強く言った。


「そう、この殺人事件は単独犯の犯行と、私は考えます。」


         第7話(終)



※エルデカ捜査メモ⑦


 コロネル男爵家は帝国創立時から続き、現当主で8代目。

 先代は名君と呼べるほど、領民に対して寛大だった。

 息子である現当主に対して、領民を(いつく)しむことこそ、貴族としてあるべき姿と、常々教育していたが、息子である現当主には伝わらなかったらしい。

 現コロネル男爵の子は、男子ばかり3人おり、クライン村の村長(むらおさ)ボーが末っ子。

 妻も、この男の妻にふさわしく、性悪。

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