第10話『クライン村⑦ ノーラとの別離れ~帝都へ』
登場人物
◎舞原 彰(まいはら あきら:アキラ)
男性 59歳
身長180cm超 バキバキの筋肉質 スキンヘッド まつ毛の長い、キラキラした瞳の女性のような目
定年間近の某県警刑事
剣道七段(練士)柔道五段
逮捕術上級(全国大会準優勝の経験あり)
雑学好きのうんちく親父
素人童貞
殉職後、異世界にエルフの美少女に転生
◎アキラ
年齢16~18歳くらいの見た目
白金色の長い髪
緑色の瞳
先の尖った耳
巨乳
のエルフ美少女
舞原彰の転生後の姿
現在、異世界を彷徨い中
◎ケルン
モンスターであるケルベロスの子(♂)
3つの頭、尻尾は1本
中央の頭に他のケルベロスには無い、赤い尖った角が生えている。
火を吹く
甘いものが好き
◎ノーラ
女性 10歳
圧政下にあるコロネル男爵領クライン村に住む少女
身長130cm弱 痩せ型
茶色い髪のオカッパ
青い瞳
厳しい状況下に置かれながらも夢を諦めない、明るく活発な少女
◎ルトヘル
男性 34歳
ノーラの父親
◎ミルテ
女性 32歳
ノーラの母親
◎ハルム
男性 8歳
ノーラの弟
◎サマンタ
女性 60歳
ノーラの祖母、ミルテの母
◎ボー
男性 20歳
コロネル男爵の三男
コロネル男爵領クライン村の村長
ゲス野郎
◎アールト
男性 20歳
ボーの従者
◎コロネル男爵
男性 44歳
帝国創立以来の名門貴族の当主
現当主で8代目
領民に重税を課し、圧政を敷くクソ野郎
◎セバスティアーン
男性 61歳
身長195cmの大柄
先代から仕える、コロネル男爵家の執事
食べたキノコの中にはヤバい物は入っていなかったらしく、無事、何事もなく出発の時を迎えることが出来た。
アキラがノーラ一家の家から出ようとしたところ
「エルフさん、これ持っていきなさい。」
と、ノーラの父、ルトヘルが大きな包みを1つ呉れた
「帝都へは歩いてだと7日ほどかかるから、その分の食糧だよ。ちと少ないけど。」
中身はパンとチーズだった。
「こんなに!?」
ルトヘルは「少ない」といったが、かなりの量だったので、アキラが驚きの声を上げると
「ケルベロス君の分もあるよ。中身は鹿の干し肉さ」
とルトヘルは言い、2つの袋を縄でくくりつけた物をケルンの背に置いた。
ケルンの両脇にちょうど袋が1つずつ付く形になった。
「私からは、これとこれと、これ。」
と、ノーラの母、ミルテが1本の小さなナイフと、小さな革の袋1つ、木靴を1足差し出した。
革の袋には木製の飲み口が付いている。どうやら水筒のようだ。
「旅をするのに、小さくても刃物があると便利だよ。
あと、エルフさんの靴、ところどころ焦げてるし、サイズも合っていないようで…エルフさん、私と背丈が一緒くらいだから、サイズが合うんじゃないかな。」
「ボクは、これあげる!」
ノーラの弟、ハルムは長さ1メートルほどの木の棒を差し出した。
棒の一方の端は丸いが、もう一方は折れた後のようになっている。
ハルムの横からミルテが
「折れた鍬の柄でね。この子が振り回して、遊びに使っていたものよ。
杖がわりにでも使って。」
と説明してくれた。
「アタシは、これ!」
とノーラは、白い、しかし薄汚れている布製の肩掛けカバンを取り出した。
「小さい時にお爺ちゃんから貰った、お爺ちゃんのお古なの。だから、ちょっと古くてよごれちゃってるけど…」
とノーラは少し申し訳なさそうに言い
「昔は、このカバンを持って、街まで勉強を習いに行ってたのよ。
…でも、今はもう必要なくなったから…」
と悲しげに言った。
「ノーラ駄目だよ、これ、大事な物じゃないか!受け取れないよ。」
「いいの!お姉ちゃんに貰って欲しいの。
また勉強が出来るようになったら、新しいカバンを用意するわ。
今の私の一番大事な物を、一番大好きなお姉ちゃんに貰って欲しいの!お願い。」
「判った、ノーラ。このカバンは、大切に預からせて貰う。
そして、近いうちに必ず返しにくるからね!」
アキラはノーラからカバンを有り難く受け取った。
「私からは、これだよ。」
と、祖母のサマンタが小さな黒い巾着袋を差し出した。
受け取ったところ、ずっしりと重い。
「開けて見てごらん。」
中身を見ると、コインがたくさん入っていた。多量の銅貨の中に、幾枚か銀貨も混じっている。
「コツコツと臍繰りしてたものさ。」
「こ!これは、さすがに受け取れません!どうか、ご家族でお使い下さい。
私、別に何にもしてないのに、こんなご厚意…」
「何を言っていなさる!エルフさんが村長殺しの犯人を見つけてくれてなかったら、村人が大勢捕まって、みんな死刑にされてたかもしれないんだよ、私も含めてね。」
と、ルトヘル
「そうですよ。エルフさんは、このクライン村の、多くの村人の命を救ってくれたんですよ。」
と、ミルテ
「お姉ちゃん、ありがとう!
うん!ありがとう!」
と、ノーラとハルム
「本当にエルフさんは、神様が遣わしてくれたのかもしれないねえ…この村を救うために…」
と、サマンタ
「…皆さん…」
アキラの両目から、止めどなく涙が流れていた。
なんという、温かい良い家族だろう。
この異世界で最初に会ったのが、この家族であったことこそ、神様の思し召しではないかと、アキラは思った。
ルトヘルから貰った、食べ物が入った包みに紐を付けてもらって背負い、肩掛けカバンにナイフと水筒、お金が入った巾着袋を入れ、右手に杖がわりの棒を持ってアキラは出発しようとしていた。
履き替えた、ミルテから貰った木靴もピッタリだ。
家の玄関前にノーラとその家族が立ち、アキラを見送ろうとしていた。
「本当に、何とお礼を言ってよいのか…」
アキラが頭を下げて言うと
「だから、お礼を言うのは、こっちなんだってば!」
と、ルトヘルが言い返し、それを聞いた他の皆が
「ハハハハハッ」
と大きく笑った。
「ここで受けた御恩は決して忘れません。
また、必ずこのクライン村に戻ってきます。そして、頂いた物、頂いたご厚意のお礼を、必ず返しにきます。」
「お姉ちゃあぁんっ!」
ノーラが泣きながらアキラに抱きついてきた。
「お姉ちゃん、ありがとう!大好き!!」
「ありがとうノーラ。私も大好きよ。」
アキラは優しくノーラを抱き返した。
アキラとノーラは暫く抱擁し、やがて名残を惜しむように、ゆっくりと離れていった。
この時、アキラの全身が微かに光っていたのだが、太陽の日差しが強く、誰もそのことに気が付かなかった。
「このまま北へ向かうと、すぐにウェイデン侯爵様の御領地に入るのさ。
帝国きっての大貴族様の領地だから街道もよく整備されていて、いつも兵隊さん達が見回っているから、女の子の一人旅でも安全だよ。
侯爵領の本街道をまっすぐ抜けると、そこはもう帝国本領よ。帝都までもあと少しよ。
街道沿いには大きな街もあるから、宿屋に泊まったり、料理屋で食事したりしなさいね。」
とサマンタが教えてくれた。
「はい。ありがとうございます。
…では。」
アキラは歩きだした。そして、何度も振り返った。
アキラが振り返ると、その都度、ノーラの家族は手を振って応じてくれ、それは、距離が離れてお互いが見えなくなるまで続いた。
空には雲一つなく、頭上の太陽が暑かった。
第10話(終)
※エルデカ捜査メモ⑩
帝国は教育制度においても力をいれており、小さな農村でも、読み書きや簡単な算数程度を教える教育施設がある。(農村にあるような所の教師は専門職ではなく、村人の中の物識りの老人とかではあるが)
高度な教育を受けるには、街にある学校に行かねばならず、ノーラはクライン村から片道2時間ほどかけて、コロネル男爵領都である、バースタという街まで毎日通っていた。
もちろん、街にある学校には誰もが入れる訳ではなく、バースタの学校には、コロネル男爵領内の各村選りすぐりの秀才児達が通っていた。(ノーラはクライン村一の秀才児であった)
ノーラは更に帝都の幼年学校の入学試験にも合格してたが、当代コロネル男爵のせいで家が貧しくなって行けなくなり、また、当代コロネル男爵が決めた制度によって、10歳になると納税義務が生じ、働かなければならないため、バースタの学校にも来れなくなった。
クライン村の子供教育施設も、老人とかも働かなければならなくなったため、教える者がいなくなり、現在は閉鎖されている。