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第78話 君と海 3

「お待たせー!」


 女子一同が海の家の前に着くと既に待ちくたびれていた男子達が女子達の方へと振り返った。


「アキくん、この水着どうかな?」


 美菜はすぐ様彼氏である明宏に近づき自慢気に問いかける。


「おぉ、すっげー可愛い」


 爽やかにそう答える明宏に美菜は満更でもなさそうに笑う。


「マジで? ちょっと照れるんですけど~」

「いや、こっちも照れるんですけど?」


 美菜と明宏の惚気を見て太一は恨めしそうに明宏を睨んだ。


「なぁ静夜、世の中って不公平だよな?」

「何を今更」


 太一と静夜が話してる所に遥が駆け足で静夜の側へとやってきた。


「静夜くーん! どうかな私の格好!? 似合ってる??」


 遥はビキニに長めの巻きスカートを結んでおり、普段より大人っぽい出立ちをしている。


「うわぁ、すげー美人」


 太一は思わずポロッと本音が漏れた。


「えへへぇ。ハルが選んでくれたんだー。髪もね、ハルが結ってくれてさ、花飾りも可愛いでしょ?」


 遥はそう言いながら静夜の水着をちらりと見やる。


 静夜は上に白のアウターを身にまとい黒い短パン型の水着を着ていた。


(アウターを着ている……だとっ!!? な、なんて防御力が高い……いやでもむしろ静夜くんの柔肌を間近で見て耐えれる訳もないし私としてもギリギリこの距離で理性を保つ為にもアウターは必要だけど……でも! 許されるのならば静夜くんの上裸をこの目で拝みたかった!!


 ……いや待て、むしろアウターで隠されている事によってそれはそれで興奮する要素では!? シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーのアウター! あのアウターを脱ぐまでは静夜くんの上半身がどれくらいの肉付きか、手足と比べてどれくらいの色合いかなど分からない事がまた良い味を出しているのでは!?)


 遥が静夜のアウターへと思いを馳せている中、妄想の被害者である静夜はそっぽ向いて歩き出した。


「俺先に海で泳いでくる」


「え!? 静夜くん!?」


 それから静夜は何も言わず海へと走り出した。


「お!? 静夜もう海行くのかよ!? 俺も行くー!!」


 その後徹人も静夜の後を追って海へと走り出した。


「そんなぁ~感想聞きたかったのに……。

 ま、まさか!? 私が静夜くんに(よこしま)な事考えてるのバレた!?」


 取り乱す遥に太一がそっとフォローする。


「いや、多分静夜の奴照れてるだけじゃねーかな?」

「でも静夜くん今まで照れてたら表情に出てたのに今日は顔色一つ変わってなかったよ? この水着好みじゃなかったのかな……」


 珍しくしおらしく落ち込んでる遥に太一はキュンとしつつもフォローを続ける。


「あー、じゃあアレだよ! あいつ海無し県で育ってるから一刻も早く海に入りたかったんだよ! 今日だって結構楽しみにしてたみたいだし!」


 あたふたしながら答える太一に遥は小さく問いかける。


「そうかなぁ……?」


「そうだって! 全くあいつも馬鹿だよなー葵さんの魅力に気付けないなんてよ!」

「私って魅力的?」

「そりゃあもちろん!! さっきから通りがかる人がみんな見てくくらいにはマジで可愛いから!」

「渡辺くん……ありがとう! 私、がんばるね!」

「おう! 頑張って!」


 太一に励まされた遥は笑顔で静夜を追いかけて海へと走っていった。


「……はぁ、なーんで俺じゃなくて静夜なんだよ……マジで不公平すぎる……」


 一方太一は遥の後ろ姿を眺めながら項垂れていると、突然後ろから誰かに左肩をぽんっと軽く叩かれた。


「どんまい渡辺」


 やり取りを後ろで終始眺めていたユウがそう太一へと声をかける。


「って河合さん!? ち、違くて! 俺今は葵さんの事は好きとかそんなんで落ち込んでた訳ではなく……!」

「ん? 今の落ち込み様はてっきりそうかと思ったけど違ったのか?」

「いや、好きというか憧れ? の存在だったというか……」


 驚きながらも弁明する太一にユウは涼しい顔で答える。


「憧れねぇ、まああいつも一目惚れされてもあんな性格だからそんな憧れも儚く散る事が多いしあんま気にすんなよ」


「あー、まあそりゃそうか……これまでに散った男子は沢山いるもんな」


 妙に納得する太一にユウは軽く頷くと海へと歩き出した。


「それじゃあ私も遥のところ行ってくるわ。

 1人にさせて変な奴に絡まれてたら面倒だし」

「あ、おう」


「あ、ユウちゃんも海行くの? 待ってー! 私も行く!」


 海へ向かうユウに対して海の家で飲み物を買ってたハルが慌てて出てきてユウの後を追って行った。


「……俺もサイダー買ってから行くか」


 太一は海の家へと1人静かに入って行った。




 一方その頃海では。


「食らえー!」


 徹人が自分に向かってきたビーチボールを思いっきりスマッシュした。


「痛っ!?」


 そのボールはよそ見していた静夜へと直撃する。


「おーい! 何ボサっとしてんだよ静夜ー!」

「やりやがったなー! おらぁ!」


 それから静夜もビーチボールを思いっきり徹人目掛けて打ち込んだ。


「へへっ! 甘いぜ! そいっ!」

「そう何度も食らうかよ!」


 徹人と静夜の激しいラリーを側から眺めていた美菜は関心する。


「男子達すご~い! アキくんは混ざんないの?」

「俺があの2人の間に入ったってコテンパンにやられるだけなのは目に見えてるからな」

「確かに~! てかボールもこの浮き輪も全部アキくんが持ってきたんでしょ? すごいね~」


 美菜は大きな浮き輪に体を浮かせ足を組んでプカプカと優雅に漂いながら浮き輪を軽く叩いてみせた。


「まあ、みんなで海へ来るならこれくらいはな」


 明宏はすまし顔でそう言いつつも内心はかなり楽しんでいた。


 一方海の前の浜辺では、パラソルの中でじっと遥が腰掛けてみんなの様子を眺めていた。


「良いな~みんな泳げて……」


 遥はいじけながら砂浜にハートの相合傘に自分と静夜の名前を書き出す。


「お前は相変わらず見学か?」

「あれ? ルカちゃんユウちゃん泳がないの?」


 後から追いついたハルは先に座り込んでいた遥とその隣に腰掛けるユウに声をかける。


「泳げたらとっくの昔に泳いでるんだけどね……。

 というかハルは泳げるの?」


 嘆きながらも問いかける遥にハルは頷く。


「泳げるよ?」

「くそっ! 同じカナヅチ同盟だと思ってたのに!! 裏切り者!」

 

 地面をダンっと殴る遥にハルは不思議そうに声をかける。


「泳げないなら山本くんから浮き輪借りれば? これ余ってる奴でしょ?」

 

 ハルは近くに置かれていた遊び道具の中にある浮き輪を指差しながら問いかけた。


 その質問に遥が答える前にユウが答える。


「こいつ浮き輪があっても溺れた事があるんだよ。それがトラウマみたいでさ」

「浮き輪なんて信じらんない。波が来たら反転するんだもん」

「重症だね~」


 ハルに憐れみの目で見られた遥は不貞腐れながら2人に話しかける。


「どーせ私は泳げませんよ~だ。

 2人とも私に構わず泳いできなよ」


「私は後から行くからハル先に泳いできなよ」

「ユウちゃんも泳がないの?」


 ハルに問われたユウは腕をぐーんと伸ばしながら答える。


「昨日漫画読みすぎて寝不足だから休んでからゆっくり泳ぐわ」

「そっか、じゃあ先に泳いでくるねー!」


 そう言ってハルは海ではしゃいでるみんなの元へと泳いでいった。


「ユウちゃん、私は1人でも大丈夫だから」


「変な奴に絡まれでもしたら対処出来るのか?」


 ユウの問いに遥は後ろにいる男性を指差して答える。


「いざとなれば警備員さんとこに行くから大丈夫だよ」

「まあそれもそうだろうけど……お前、いつも以上に落ち込んでんだろ?」


 ユウの言葉に遥はうるうると涙目になる。


「私……今日すごくすっっごく楽しみにしてたの……静夜くんの水着を拝む事」

「相変わらず不純だな」

「それと……ちょっとでも褒めて欲しかったのにすぐそっぽ向いて海に行っちゃうなんて……」


 遥はぷるぷると肩を振るわせながら叫んだ。


「海に負けたの!! 母なる海に!! ちくしょーっ! 海の馬鹿やろーーー!!」


 それから遥は海に向かって大声で叫び出した。


「叫ぶのは普通海じゃなくて山だろ」

「うるさい! 自然界に負けたこの気持ちが分かるまい!!」

「むしろ私ら人間が自然界になんて勝てる訳ないだろ?」


 ユウの問いに遥は冷静に答える。


「それも……そうか」


「そうそう、気にしすぎんなよ」


 ユウがぽんぽんと遥の頭を撫でる。


「ユウちゃ~ん……どおしてそんなにイケメンなの……私よりおっぱい大きいのに……」

「バストサイズは関係ないだろ。後抱きついてくんな鬱陶しい」


 遥が抱きつこうとするのをユウがいつもの如くあしらっていると、海から美菜が上がってきた。

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