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第71話 君と進路 サイドB

 遥が進路希望に悩んでいる同じ頃、もう1人進路希望に悩んでいる者がいた。


「うーん……」


 芸能科1年の東陽太である。


「よーっす! あれ、お前まだ進路希望悩んでんの?」


 陽太の後ろから元気良く声をかけた蓮は、陽太の机の上に置かれている真っ白な進路希望のプリントを見て質問した。


「将来の夢くらい書いとけよ。どうせ俳優だろ?」


 2人の会話を横で聞いていた空も会話に混じった。


「いやまあ、それはそうなんだけどさ……他の進路希望なー……」


 陽太はプリントを睨みつけながら呟く。


「蓮と空は何にしたんだよ? 進路」

「俺は文系大学進学ー」

「俺は理系大学進学」


 蓮は軽く、空はしっかりとした対照的な口調でそれぞれ答えた。


「なるほどなー、まあ無難に大学進学が良いよな……」


 そんな時、たまたま登校して来て陽太の席の前を通った瑠奈に陽太は声をかけた。


「おはよー大橋さん、進路希望調査票ってもう出した?」


 陽太からの突然の声かけに脳内の瑠奈はパニックに(おちい)る。


(な、な、朝から何事っ!? 陽太が私に進路を訊ねてる!? いっ、一体何の為に……!? まさか私と同じ進路へ進みたいとか!? いえ待つのよ私、早とちりしては駄目よ! 今陽太は「進路希望調査票を出したか?」と質問したのよ。つまり私の進路を聞いてるのではなくあくまで提出したかしてないかの確認ってだけ!)


 そんな事を考えながらもしかし表情には全く出さずに瑠奈は端的に答える。


「おはよう東君、それならもう提出したわ」

「そっか、流石大橋さんだなー。因みに進路希望はやっぱ大学進学?」


(陽太が私に興味を持ってくれている!? 今までの挨拶だけの関係から、勉強を教える存在、そして前回ヤンキーに絡まれた所を助けられ相合傘という特殊イベントを経て私への好感度が上がったという事っ……!? そんな、こんな個人的なやり取りまで出来る様になっただなんて……ん?)


 瑠奈はふと陽太の机の上にある真っ白な進路希望調査票を見つけて質問した。


「東君はまだ進路希望調査票書いていないの?」

「まあね……俳優の他になりたいものとかもないし、どうしようかなーって」

「東君なら成績だってそんなに悪くないし、大学へ進学しておいて損はないと思うわ。もし仮に芸能界でやっていけなくなっても、高卒と大卒とではそもそも働き口に差があるし」


 瑠奈の真っ当な意見に陽太はそうだよなぁと呟く。


「因みに大橋さんは何処の大学行く予定?」


 横から蓮に訊ねられ、瑠奈はすっぱりと答えた。


「どうせ目指すなら東大かしら。東大出身ってだけでも女優業に箔がつくし、クイズ番組とかにも呼ばれやすいしね」


「流石小鳥遊学園始まって以来の芸能科主席の大橋さんだなー。しかも自分のキャラ付けまで考えてるのすげーや」


 瑠奈の意見に空は感銘を受けた。


「すげーな、俺達普段の授業についてくのだけで必死だもんな、なあ陽太」

「そうだな、将来の事そんなに考えてるなんて、大橋さん本当凄いよ」


(陽太に褒められた……陽太に褒められた……!!)


 陽太に褒められた瑠奈は脳内で思いっきり照れていた。


「そんな事ないわ。私は生まれ持った天才でもないし、ただ日々コツコツと努力してきただけよ。努力の方向性さえ間違えなければ努力は報われるものだから」


 瑠奈のその言葉が陽太の胸に刺さる。


「そっか、そうだよな。努力次第だもんな。ありがとう大橋さん」


 言葉とは裏腹に少し落ち込んだ様子の陽太に瑠奈は更に脳内がパニックになった。


(え? 陽太が落ち込んでる? 私何か失言したかしら? 励ますつもりで言っただけなのに、返って説教臭く聞こえてしまったかしら!? どうしようそんなつもりで言ったんじゃないのに! これで嫌われちゃったらどうしよう、私、私--!)


「おっはっよ~! 瑠奈ちゃん⭐︎」


 瑠奈が静かに脳内パニックを起こしていると、教室へ入って来た優歌が突然瑠奈の背後からハグをした。


「おはよう優歌。急に抱きついてきてどうしたのかしら?」

「みんな何の話してるのかなーって気になっちゃって! あれ、陽太くん進路希望まだ出してないんだ?」


 優歌は瑠奈の後ろから顔を覗かせながら陽太の白紙の進路希望調査票を見て質問する。


「ああ、まあ進路希望は大学進学にしようかなって思ってたところ」

「わぁ立派だな~私なんて進路希望全部アイドルと歌手と女優で埋めちゃったよ~」


 優歌の話に瑠奈は心配そうに声をかける。


「優歌、芸能界でやっていけなくなったらどうするつもり?」

「え~、今更芸能界でやっていけなくなった後とか考えられないし~その為に今荒稼ぎしてるんだよ~。老後までのお金をさっさと貯めて後はご隠居生活すればオッケーでしょ⭐︎ 」


 ピースにウインクしながらそう話す優歌に瑠奈は頭を抱えた。


「……優歌、これから私と一緒に勉強しましょう」

「ええ!? 何で!?」

「あなたの未来の為よ」


 そして瑠奈は優歌を引き連れて席へと戻っていった。


「優歌ちゃんも何かすげーな、考え方が」

「あれで許されるの立花さんくらいだろ」


 蓮と空がそれぞれ優歌の事を話してる間に、陽太は進路希望調査票を書き出した。


 それから時は過ぎていきその日の夜。


 仕事を終えて寮に帰った陽太は、先に帰ってきて携帯をいじってくつろいでいる静夜に問いかけた。


「なあ静夜」

「あ、おかえり」

「お前進路希望何にした?」


 陽太に訊ねられ静夜は本日2度目の質問に携帯から目を逸らす事なく面倒そうに答える。


「はぁ……大学進学」

「大学出た後は?」

「まだ考え中。特に将来の夢とかないし」


 静夜の答えに陽太は真剣な表情で訊ねた。


「お前さ、俳優とか興味ないの?」


 陽太にそう聞かれた静夜は頭をかきながらきっぱりと答える。


「1ミリもねーよ。つーかさ、蓮や空もそうだけど、何で俺を芸能界に勧誘してくるんだよ?」


 不思議そうに問う静夜に、陽太は口を開いた。


「そりゃあ、お前……!」


 それから一瞬言葉に迷った陽太は再度話を続けた。


「母さんが、お前も芸能界で働いたら的な事言ってたよな?」

「まあ、マネージャーとかなったら安心だけどねとは言ってたな」

「でも静夜、お前も多少現場見たりしてちょっとは分かるだろ? 裏方は正直ブラックなとこばっかだ。大事な弟をそんなとこに放り込む訳にはいかないだろ!」


 心配そうに話す陽太の言葉に静夜は思わず小さく笑った


「くくっ」

「な、何がおかしいんだよ! こっちは割と本気で心配してるんだぞ!」

「ごめんごめん。何か今日葵さんも同じ様な事言ってたなと思って」


 静夜から葵さんという名前が出てきた事に陽太は即座に話を切り替えた。


「へぇー、なーんだ、もう将来の事とか葵さんと話してる仲なのかー」


 にやにやと話す陽太を静夜は若干ウザがりつつも答える。


「将来の夢を聞かれたから答えたらそんな事言われただけだから。何か葵さんも進路決まってなくて悩んでたっぽい」

「まあ悩むよなー進路って。まだ高一なんだし遊んでたいけどなー」


 陽太がやれやれと呟くと、静夜は陽太に質問した。


「そんなお前こそ何にしたんだよ? 昨日まで机の上にプリント置きっぱだったじゃん」


 静夜に問われて陽太は吹っ切れた様な笑顔で答えた。


「秘密」

「何だよそれ。まあお前の場合どうせ俳優一択なんだろうけどさ」


 静夜にそう言われて陽太は笑いながら答える。


「まあな! だから静夜、俺は1人で芸能界でも平気だから、お前はお前でやりたい事探せよ。大体母さんも心配性だよな。俺1人だけじゃ不安だなんてさ」


 陽太の言葉に静夜は頷く。


「まあ、俺だって流石に大人になってまで陽太の世話なんてやりたくないし」

「俺だってお前に世話なんてされたくねーよ」


 やや怒り気味の陽太を無視して静夜は携帯に視線を戻しながら返事をする。


「俺も俺でやりたい事見つけるよ」


 それから陽太と話し終えた静夜は携帯で小説を読み出したのだった。

進路って大事だなって大人になるとつくづく思います。

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