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第7話 君とケーキ屋

「お待たせしました~。

 こちらフルーツシャルロットです。

 他のケーキはバイキング形式になりますのでご自由にどうぞ」


「お! やっと来たよ東くん!」


 運ばれてきたフルーツシャルロットを見て遥は目を輝かせていた。


「キャー♡♡ おいしそうー♡!

 フルーツが溢れんばかりに乗せられているスポンジとクリームに超絶感謝が止まらない!

 見てるだけでもこの満足感は流石としか言いようがないですなー!

 ああ! 食べるのが勿体ない!

 でも食べたい!

 あ、その前にまずは記念すべき感動をカメラに収めなくては!」


 狂喜乱舞しつつスマホで連写をしている遥を静夜はやや引きながら眺めていた。


(葵さんって、ケーキの事となると人格変わるんだなぁ)


「は!? 私ってば興奮しちゃってごめんね東くん!

 私の事は気にせずどうぞ食べていいからね?」


「あ、うん。

 じゃあ、いただきます……」


 とりあえず運ばれてきたフルーツシャルロットを一口食べる。


「……!

 おいしい……」


 静夜が一言そう漏らすと、遥は更にはしゃぎ出した。


「本当に!?

 いやーどうしよう私好きな物は最後に残す派なんだけど、最初に一口だけ味見しちゃおうかなー? でもなー? うーん……!

 よし! 食べちゃお!

 いただきます!」


 そうして遥も勢いよく一口ぱくりとフルーツシャルロットを食べる。


 そして遥は一気にすん……と大人しくなった。


「……え? 葵さん、どうしたの?」


 突然の遥の変わり様に動揺しつつ静夜が質問する。


「う~~~~~ん……。


 なんっか、違うんだよなぁ……」


 遥はため息をつきながら残念そうな表情を浮かべていた。


「え? 美味しくなかった?」

「あ! いや全然美味しいんだけどね!?

 でもなんか、こう、思ってた味と違ったというか……」

「もしかして、期待し過ぎてハードル高くしすぎてたんじゃ?」


「ああ! そうかも!

 なんかたまにある「見た目凄い凝ってて美味しそうなケーキだけど食べたら味が見た目に追いついてなかった」って時の状況だ!」

「いや、その例えなんかよく分かんないけど……」


 それから2人はフルーツシャルロットを食べ終え、遥は追加のケーキを取りに行った。


「お待たせー!

 東くん、まだケーキ食べれる?」


 遥はトレーにケーキを沢山乗せて戻ってきた。


「まあ、まだ後1、2個くらいなら」

「良かった~!

 これ私のオススメ! アップルパイ!」


 そう言って遥はアップルパイの乗った皿をこちらに差し出してきた。


「私このお店に来たら絶対締めはアップルパイって決めてるんだ!」

「そうなんだ」


 静夜は出されたアップルパイを一口食べる。


「うま……っ!

 てかさっき食べた奴より普通にこっちのが美味いな」

「でしょでしょ!?

 ここのお店の1番人気はチョコケーキなんだけどさ、みんな分かってないなぁって思うよ。

 絶対アップルパイが1番美味しいのに、みーんなありきたりなのばっかり食べるからアップルパイの影が薄いんだよねー。

 でも私だけが知ってるってなんか優越感に浸ってるんだ!」


 得意気にニヒヒと笑う遥に静夜は冷静に質問する。


「そうなんだ。でもそれ俺も知っちゃったら優越感浸れなくないか?」

「あ、確かに!

 まあ自分の好きな物は布教したいし、それはそれでオッケー!」


 グッと親指を立てる遥を見て静夜は素直に感心した。


(なんか葵さんって基本ずっと明るいよな……。


 俺なんかよりもっと他に盛り上がれる奴とか居るだろうに……何で俺の事なんか誘ったんだろ……?)


(……やっぱり陽太狙いなんだろうなー)


 モヤモヤする静夜に遥は気づく事なく元気にケーキを食べ続けていた。


「……あ! そろそろ時間だ!

 お会計してくるね!」


 そんなこんなでバイキング終了時間になり、伝票を手に立ち上がった遥を静夜は手を引っ張って引き止めた。


「待って。

 ここは俺が払うから」


 突然の静夜の申し出に遥は全力で手を横に振った。


「え!? いやいや、今日私の為にここまで来させておいてお金まで払わせるなんて私そんな悪党みたいな事出来ないよ!」


「葵さん、ちょっと」


 静夜は遥に近付きボソボソと小さな声で話す。


「他のお客さん、みんな男が払ってるから」

「??

 それがどうかした?」

「だから、俺が払わないと、なんというか……そう、カッコつかないというか!

 だから、一先ず俺が会計するから、後でお金は貰うから」


 静夜の必至の説得に遥はうーんと考え込み、分かったよ、と了承した。


 それに対して静夜は安堵する。


 流石に遥の見た目に加えてはしゃぎ過ぎたのもあってか、周りからの視線がずっと集まっている。


(こんな中で更に俺が奢られてたらマジで顰蹙(ひんしゅく)もんだろ……)


 それから静夜は手早く会計を済ませて遥とともに店を出た。


「東くん、払ってもらってごめんね。

 今お金渡すから」


 お店を出た後遥は財布を取り出し、中身を確認する。


「あ、ごめーん、1万円札崩すの忘れてきちゃった!

 2人分で5千円くらいだよね?」


 遥が気にせず1万円札を渡そうとしたが、静夜はそれを遠慮した。


「別に1人分で良いし、お金も後日で良いから」

「え!? いやいや悪いよ!

 東くんほとんど食べてなかったんだし、私が無理してお願いしたんだし2人分出すよ!」

「いや、美味しいケーキ食べれたから、自分の分は自分で出すよ」


 そう言って静夜は静かに遥の提案を断る。


「うう……分かった!

 でもなるべく早くお金返すね、ありがとう!

 それじゃあ……」


(これで葵さんから頼まれた事は終わったし、ここでお別れだろうな……)


(やっと人の視線から開放される……!)


 内心静夜は安堵していた。


 しかし、遥の口からは静夜の思いも寄らぬ言葉が出てきた。


「今度は東くんの用事に付き合うよ!

 これからどっか行きたい場所とかある?」


「……は?

 何で?」


 目を丸くして聞き返す静夜に、遥は淡々と返す。


「いや~よくよく考えてみたんだけどね?

 せっかくの高校生という限られた短い期間の、日曜日という大事な休日を、私の用事の為だけに使わせるのは悪い気がしたんだよ。

 だから、東くんさえよければ東くんの行きたいとこに行こうと思って!」


 そう屈託なく答える遥に、静夜は疑問をぶつけた。


「葵さんさ……やっぱり陽太に近づきたいから俺と仲良くなろうとしてるの?」

「へ?

 いやだからそれは誤解だよ!」

「でも別に今日だって俺じゃなくても良かっただろ」

「それは……そうなんだけど……」


(ほらやっぱり。


 どうせ陽太目的……)


 そう結論づけようとする静夜に対して遥は冷静に話し出す。


「でも東くん、よく考えてみて?

 私がもし「ヨウタ」って人とお近づきになりたいなら、わざわざ試験の難しい普通科じゃなくて芸能科に入ると思わない?

 その方が勉強もしなくて済むし何よりすぐにヨウタって人に近付けるでしょ?」


「え? まあ、確かに……」


 遥の説明に、静夜は言われてみればと納得する。


「でしょ!? だから私は別にそのヨウタって人を狙ってる女子ではないって事は分かってもらえた?」


「いや、でも……。

 それなら何で今回俺を誘ったんだ?」


 遥の言葉にますます困惑している静夜に遥は気まずそうに答える。


「あー……。それはね……。

 た、頼みやすかったから……かな……?」


 遥は学校でむしろ脅しに近い様な形で誘った事を後ろめたく感じていた。


 しかし、その言葉に静夜は救われた気持ちになった。


(頼みやすかった……。

 まあ理由としては大して良い理由ではないんだろうけど……。


 それでも俺に……「陽太の弟」としてじゃなくて、「東静夜()」本人に……)


(なんかそれって、ちょっと……嬉しい……かも……)


 静夜はふー、と一息ついた後遥の方へと向き直った。


「あー、その、疑ってごめん」


 それから静夜は遥に軽く頭を下げて謝った。

 それに対して遥は手を横に振った。


「いやいや! 私こそ誤解が解けたんなら良かったよー」


 遥の笑顔に、静夜はふいにドキッとする。


「葵さんって、なんか変わってるね」


 静夜はそんな自身の心が悟られぬ様俯きつつ冗談めいて話した。


「えへへー、それ良く言われるー」


 しかし遥は割と素直にその言葉を受け入れるのだった。

 


 まだ大丈夫、壊れてないはず……。

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