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第60話 君と買い物

 とある日の休日。


「遥~。ちょっと買い物行って来てくれない?」


 遥の部屋へとやって来た母親はベッドでゴロゴロとしている遥に向かって頼むが、一方の遥は母親に見向きもせず面倒そうに答えた。


「え~? 今から~?

 もうちょっと後でも良い~?」

「後でも良いけど、行ってきてくれたら良いものあげるわよ?」


 母親の言葉に遥は大きくため息をつく。


「はぁ〜良いものったってどうせ新作のお菓子とかでしょ~?

 そんなもので簡単に釣られる私じゃ……」

「じゃーん!

 職場の伝手(つて)で貰ったグランドホテルスイーツビュッフェペア招待券!」


「是非おつかいへと行かせて下さいませ」


 母親の手にある2枚の招待券を見た遥はベッドの上で手をついて深々と母親にお辞儀をした。


「それじゃあこのメモに書いてある物全部お願いね。はいエコバッグとお金」

「御意。ありがたく行かせて頂きます」


 そして遥は鞄に財布とエコバッグを入れて颯爽と旅立っていった。


「相変わらず扱いやすくて助かるわ~」


 母親はニコニコと遥の背中を見送った。





 こうして遥は近所のスーパーまで意気揚々とやって来たのだった。


「まずは牛乳に食パンと……」


 普段から買い物を頼まれる事が多い遥はカートを押しながら迷う事なく順々に頼まれた物を取って買い物カゴへと商品を入れていく。


「シャンプーどの辺だろ……?」


 順調に買い物を進めている遥の耳に、ふと聞き覚えのある男子の声が聞こえてきた。


「この声は……静夜くん!」


 遥は買い物の手を止め一目散に声のする方へとカートを押しながら駆けつけた。


「おーい! 静夜くーん!♡♡」


 片手をブンブンと振りつつ勢いよくやってくる遥に気付くと、静夜はやや驚きつつも片手を軽く上げて挨拶した。


「静夜くんも買い物? 偶然だね~!」

「葵さん? 偶然……だね……?」

「本当に偶然だからそんな疑問符つけなくてもいいよ!」


 遥の台詞に静夜は違和感を覚える。


「にしてはこれまでも休日ばったり会ったり病院でも会ったり偶然にしては会いすぎてる気がする……」


 これまでの度重なる偶然の出会いを怪しむ静夜に遥は何かに気付いた様にハッとする。


「これだけの偶然が重なるという事は……やっぱり私達は運命の赤い糸で結ばれている!?」

「違うと思う」


 遥の言葉をバッサリと否定する静夜の元へともう1人マスクと眼鏡をかけた人物が近付いてきた。

 その人物は遥を見つけるやいなやすぐ明るく声をかけた。


「おー、葵さんじゃん! こんにちは」

「はッ! 静夜くんのお兄さんもいらしたんですね!? いつもと雰囲気が違うので気付かなかったです!」


 相変わらず敬語で答える遥に陽太は笑いながら答える。


「まーね、外では変装してるからさ」

「そうなんですね! 何か大変そうですね!

 ところで静夜くん、シャンプー探してなかった?

 そういう声が聞こえてたんだけど……」


 遥の問いに静夜はやや引きつつ逆に尋ねる。


「俺そんなに大声で話してたつもりないんだけど聞こえてた?」

「うん! 私の耳は誤魔化せないからね! スーパーの店内くらいなら余裕だよ!」


 キラキラと輝く笑顔で答える遥に静夜は突っ込むのも諦めた。


「そっか……。まあシャンプー探してたのは本当だけど」


「シャンプーの棚はこっちだよ!

 後歯磨き粉はこっちでティッシュはこっちで洗剤はこっちで……」

「え? 何で俺達の買いたい物把握してんの?」


 遥の案内に静夜が尋ねると、遥はキラキラとした輝く笑顔で答えた。


「寮生活で何が必要なのか一通り調べたからね!」

「寮生活でのしおりって寮に住んでる人にしか配られてないよな?」


 静夜の疑問に遥はドヤ顔で答える。


「ネットで調べれば出てくるよ!

 いや~ネット文化は本当偉大だね!」


「へ~、調べれば出てくるんだ。知らんかった」

「そんな事調べるか普通……?」


 遥の言葉に陽太が感心してる横で静夜は遥の行動力にいつも通り引いていた。


「ところで葵さんってよくこのスーパー使ってるの?」


 何気なく陽太が尋ねると、遥はにこにこと答える。


「まあ、家から1番近いスーパーがここだからね! たまにおつかいで来るよ!

 静夜くん達はここ来るの初めて?」


「うん、家から持参してたものがそろそろ切れてきたからね。

 葵さん色々と詳しいみたいだし、良かったら一緒に回らない?」

「良いんですか!? 是非是非お願い致しますっ!!」


 陽太からのお誘いに遥は食い気味に答えた。


「おい陽太! 何勝手に誘ってんだよ!」

「何って、葵さんと一緒なら商品探さなくて済むしスムーズだろ?」

「それは……そうだけど……!」


 ニヤニヤとしながら正論を言う陽太に静夜が反論の言葉を探していると、遥が横から涙目で訴えてきた。


「静夜くん、私と一緒に回るのそんなに嫌だった……?」

「いや、そんな訳じゃなくてただ陽太の提案なのが嫌というか……」


 困りながら答える静夜に遥は畳み掛ける様に質問した。


「それなら私から提案したら一緒に回ってくれる?」

「えっと……」

「私ならこのスーパーで何処に何があるか把握してるから割とすぐに買い物終わるよ?」

「ほら、断る理由もないだろ?」


 遥と陽太に見つめられ静夜は大きくため息をつきながら答えた。


「……まあ、良いけど」


「やったー!」

「良かったな葵さん!」


「「いえーい!」」


 喜んでハイタッチしている遥と陽太に静夜はやれやれと呟く。


「何か2人とも急に仲良くなったな……?」

「え? もしかして静夜くん、嫉妬してくれた……?」


 遥がドキドキしながら静夜へと質問すると、静夜は即座に口を開いた。


「いや全然」


 即答する静夜に遥は残念そうに呟く。


「ですよねー」


「頑張れ葵さん、俺は応援してるぜ!」

 

 陽太に励まされ遥はまた笑顔になる。


「ありがとうございます静夜くんのお兄さん!」


「というかさっさと買い物終わらさない?」


 静夜の一言で遥達は買い物を再開した。


「シャンプーコーナーはこっちだよ!」

「おお、種類結構あるんだな~」

「その隣の棚に洗剤とかも並んでるよ!」


 遥は棚を案内しつつ陽太と静夜の買い物の様子を見守っていた。


(静夜くんが普段使うシャンプーや歯磨き粉とかをナチュラルに把握出来るチャンスが来るなんて……!!

 今日この瞬間を生きてて良かった!!

 神様ありがとう!!)


 ……見守っている時の遥の脳内はあまりにも不純だった。


(何か商品取る度に物凄い視線を感じる……)


 一方静夜はそんな遥の視線に寒気を覚えていた。


 そして遥の宣言通り2人の買い物はスムーズに終わった。


「葵さんのお陰であっという間に終わって良かった~!

 ありがとな!」


 会計後に買い物袋を持ちながら陽太はマスクと眼鏡越しでも分かるほどのキラキラとした笑顔で遥へとお礼を言った。


「いえいえ! お役に立てて良かったです!

(私も情報大量に仕入れられて光栄です!)」


 ニマニマと笑顔の遥を不審に思いつつ静夜も口を開く。


「でも実際葵さんのお陰で助かったよ。

 こいつと一緒にいると店員さんにも声かけ辛いしさ」

「相変わらず俺の扱い酷いな~」


 静夜に指さされ陽太はあっけらかんとした笑顔で突っ込む。


「そっか、芸能人だから店員さんとかにバレたら面倒だもんね」

「うん。それなのに「暇だから俺も買い物ついてく」とか言い出してさ」

「まとめ買いするなら人手がある方が良いだろ~?」


 陽太の台詞に静夜はやれやれと呆れた表情をした。


「まあそんな訳で、今日はありがとう、葵さん」


 静夜に感謝され遥の脳内は毎度のことながら無事破壊された。


「(静夜くんに感謝された……!!

 ありがとう言われた……♡♡)

 いえいえ! こちらこそありがとうございます!!」


「……何が?」


 静夜の素朴な質問は脳破壊されている遥には届かずスルーされた。


 こうして静夜と陽太はまとめ買いの袋を持ち寮へと帰って行き、遥も家へと帰った。


「ただいまー!」

「おかえりー、卵今使うからこっち持ってきてくれるー?」

「はーい……あ」


 遥は母親の言葉でとある事実を思い出した。


「自分の買い物途中だったー!!」


「あんたこれまで何やってたのよ?」


 こうして遥はスーパーへと残りの材料を買いに再び向かったのでしたとさ。

 訳あって入院してますが元気です。

 久々に文章書きました。

 投稿頻度は相変わらず低いかもですがよろしくお願いします。

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