第59話 君と相合傘(サイドB)
「ふう、先生間に合って良かった~」
全力で必死に先生を呼びに行っていた遥が息を切らしながら図書室に戻ってきた。
「葵さん、大丈夫だった?」
その後再度戻ってきた陽太に声をかけられ遥は笑顔で答える。
「はい! こんなの全然余裕です!
そっちこそ大丈夫? 怪我はない?」
遥は瑠奈に視線を向けると、瑠奈は相変わらずのポーカーフェイスで答えた。
「ええ。貴女と東くんのおかげで助かったわ」
(陽太に腕を引っ張られて一緒に逃げるなんて、なんてドラマチックな展開なの!?
こんな経験2度とは出来ないわ!
絡んできた奴らはムカつくけどむしろ逆にお礼が言いたいくらいね……。
最後に葵遥さえ出なければまさしく完璧だったけど……!)
瑠奈は表情を崩さず1人感動を噛み締めていた。
「大橋さんも寮住みだっけ?
また変なのに絡まれたら危ないだろうし、俺で良かったら女子寮の前まで送るよ」
突然の陽太からの申し出に瑠奈は内心飛び上がりそうになる気持ちを抑えつつ冷静に答える。
「(陽太と一緒に帰れるチャンス!?)
この学園にああいう人達は少ないしもう絡まれる心配はないと思うわ。
それに女子寮は男子寮とは真逆だから遠いわよね?
(何断ってるの私の馬鹿ー!)」
内心一緒に帰りたいと思いつつ断ろうとする瑠奈に陽太はいつもの笑顔で話す。
「真逆とはいえ学校の敷地内だし、そんな大変な距離じゃないから気にしなくても良いよ」
「送ってもらった方が良いよ、ええと、大橋さん!
また変な奴に絡まれるかもしれないし危ないよ!」
陽太の言葉に更に遥までアシストする。
(な……! あ、葵遥……なんて、なんて良い人なの!?
私だけなら確実に断ってたかもしれないけど、そうまで言われると断りにくさも出てくる。
つまり……このまま私は陽太と帰れるという事……!?)
遥の何気ない台詞に感謝しながら瑠奈はいつも通り表情1つ変えずに答えた。
「そう、じゃあお願いするわ。東くん」
「オッケー。あ、それじゃあ葵さん、俺このまま大橋さん送ってくから、じゃあね!」
「はい! また今度機会があれば静夜くんの事聞かせて下さい!」
遥の言葉に陽太はあっけらかんと笑った。
そんな陽太の横顔を見て瑠奈は内心またモヤモヤとする。
(葵遥、良い人ではあるけど、そのせいで陽太が惚れないか心配だわ!
私も彼女ほど頑張らないといけないかしら……?
でも彼女の行動は真似をするにはあまりにもバレバレ過ぎだし……)
そんな事を考えながらも瑠奈は一切顔色変えずにスタスタと陽太と並んで女子寮に向かって歩きだした。
「こっち側初めてくるなー。なんかドキドキするわー」
そう軽口を叩く陽太に瑠奈は当たり前の様に返す。
「女子寮の近くだからそうでしょうね」
(あーー!! 何でそんなに素っ気ない言い方しか出来ないの私の馬鹿馬鹿馬鹿!
もっと他に良い言い方いくらでもあるでしょうっ!!)
顔色変えずに1人反省する瑠奈に陽太は気付くはずもなかった。
「あ、そういや傘忘れた」
陽太の言葉に瑠奈は冷静に聞き返す。
「教室に? 取りに帰りましょうか?」
「いや寮に。
学校から寮まで外歩くとは言えそんな距離ないからいつも雨の時走って帰ってたんだ。そんで静夜にちゃんと傘持てって怒られてたんだけどさ」
そう笑いながら話す陽太に瑠奈は自身の持っている傘を差しながら声をかけた。
「その……良かったら一緒に使わない?」
瑠奈は表情を崩してはいなかったが問いかける声は少し震えていた。
「いやいや、そんなん大橋さんが濡れちゃうし俺はちょっと走れば大丈夫だから」
「でも……! 折角送ってもらってる手前濡れて帰らせるなんて悪いわ」
瑠奈の主張に陽太は少し考え込んだ後それじゃあと口を開く。
「せめて俺が傘は持つよ。
大橋さんが持ったら腕しんどいだろうし」
「ええ、分かったわ」
陽太にそう言われて瑠奈は陽太に傘を渡す。
陽太は薄ピンクの傘を開いた後瑠奈に傘を被せる様に差した。
「歩くの速かったら言ってな?」
「分かったわ」
それから陽太は瑠奈の歩幅に合わせてなるべくゆっくりと歩いた。
校舎から女子寮までは500メートルにも満たない距離なので実際は5分程の距離なのだが、瑠奈にとっては永遠の時間に感じられた。
「東くん、結局殆ど濡れてないかしら……?」
女子寮の前に着いてから瑠奈は陽太の左半身が濡れているのを見やる。
そんな瑠奈の顔はいつものポーカーフェイスが崩れ心配そうな表情だった。
「あー、大丈夫だって。普段は全身濡れてるし」
笑いながらそう答える陽太に瑠奈はそっとハンカチと先程まで使っていた傘を差し出した。
「良かったら使って。風邪引いたら仕事に支障が出るでしょう?」
瑠奈に差し出されて陽太は笑いながら口を開く。
「送ったのに逆に迷惑かけちゃって何か俺だせーな」
「全然ださくなんかないわ。
むしろ助けてくれた時格好良かったくらいで……」
そこまで言って瑠奈はハッと我に返った。
「だ、だから全然ださくはないという意味で!」
「はは、大橋さんってそんな焦る事もあるんだ?」
普段と違う様子の瑠奈に陽太は笑いながら問いかける。
「き、今日は色々あって気が動転してるだけで……」
「まあ確かに大変だったよな」
「と、とにかく、これはお礼として貸すから使って!」
そう言って瑠奈は陽太に半ば強引にハンカチと傘を差し出した。
「そこまで言うなら、分かった。
今度洗って返すよ」
ハンカチと傘を受け取った陽太はハンカチで軽く濡れてる部分を拭き取った後瑠奈に手を振った。
「それじゃあまた明日な!」
「ええ、また明日」
瑠奈はいつもの表情に戻り小さく陽太に手を振りかえした。
そして陽太は瑠奈から借りた薄ピンクの傘とハンカチを持って急いで男子寮へと帰宅した。
「ただいまー」
「おー、お帰り陽太。
遅かったな」
陽太が寮に戻ると、静夜はベッドに寝ころびながらゲームを堪能していた。
「つーかお前また傘忘れてただろ……。
てかその傘どうした? クラスの女子から借りたのか?」
静夜が横目に入った薄ピンクの傘の事を尋ねると、陽太は戸惑いながら答える。
「ああ、実は色々あって、大橋さんから借りたんだよ」
「大橋さんって、あの大橋瑠奈?」
「そう」
陽太の言葉に静夜は驚く。
「へぇ、陽太って大橋瑠奈と仲良かったんだ」
「まあ前に数学教えて貰ったくらいの仲だけどさ、たまたま大橋さんが男子に絡まれてるのを助けたんだよ」
「何かドラマみたいだな。役者も相まって」
静夜の突っ込みに陽太も笑いながら頷く。
「いやマジそれな。
あ、後葵さんがお前の事探してたからもう帰ったって伝えといたぞ」
陽太の言葉に静夜はため息混じりに答える。
「ああ、そういや葵さん今朝から俺と相合傘したいとか言ってたからそれ関係かも……」
「何だよ、相合傘くらいしてやりゃあいいじゃん減るもんじゃないし」
ニヤニヤ笑いながらそう話す陽太を静夜は睨みながら答える。
「俺より葵さんの方が背高いのに相合傘とか何かカッコ悪いだろ?」
「お前たまに変なとこ気にするよな。
お前と葵さんそんなに言うほど身長差あったっけ?」
「2センチ負けてる」
「2センチくらいならお前が頑張って少し腕あげれば良いだけじゃん」
「嫌だよ」
頑なに拒む静夜に陽太はからかう様に笑いながら話す。
「それなら頑張って身長伸ばさないとな?」
「うるせー、伸ばしたいけど伸びねーんだよ」
怒りながら返事をする静夜の頭を陽太はポンポンと叩いた。
「ま、頑張りたまえ〜」
「叩くな! あーもうムカつく!」
静夜はその後陽太の言動にイラつき陽太の相手をしない様ゲームへと逃げたのだった。
「相変わらず可愛くない弟だな〜」
「……(無視)」
後日、芸能科にて。
「大橋さん! 傘とハンカチありがとな!」
教室で陽太はいつもの調子で明るく瑠奈へと話しかけた。
(!! 陽太から声かけられた!
ありがとうって! なんて眩い笑顔なの!?
芸能人になるまで努力して本当に良かったわ! 私は今この瞬間を堪能する為に芸能界に入ったも当然--)
「おはよう。確かに返してもらったわ」
(だから素っ気なさすぎよ私!!
もっと愛想良く言えないの私!!?)
「お前大橋さんから傘とハンカチ借りたの? そんな仲良かったっけ?」
傘とハンカチを瑠奈に返した陽太に同じ芸能科の空が横から尋ねてきた。
「ああ、こないだ大橋さんが変な奴らに絡まれててさ。
それで大橋さんを女子寮まで送ったんだけど雨降りで傘借りたんだ」
陽太の言葉に後ろにいた蓮も反応し口を開く。
「お前全然傘持って来ないもんなー。
ま、俺もだけど」
陽太と蓮に呆れながら空は口を開いた。
「お前らの忘れ物は最早わざとだもんな」
「「まーな」」
そんなワイワイと話す男子達を横に瑠奈は返されたハンカチを両手で持ってじっと見つめていた。
「おっはよー! 瑠奈ちゃん!
なーんか今日はやけにご機嫌だねー?」
教室に後から入ってきた優歌が瑠奈の元へと駆けつけてニコニコと笑顔で尋ねる。
優歌がやって来て瑠奈はすぐにハンカチを鞄へと戻した。
「おはよう。
……そうね、今日は気分が良いかもしれないわ」
「そっか! 瑠奈ちゃんが嬉しそうで私も嬉しい~♡」
瑠奈に抱きつく優歌に瑠奈は顔色変えずに話す。
「私も優歌が嬉しそうで何よりだわ」
「えへへ~♪」
そうこうしてる間に朝のホームルームの時間になり、また賑やかな1日が始まるのだった。
番外編。
もし静夜が寮住みでなかったら。
「静夜くん! 私傘忘れちゃって……一緒に入れてくれない?」
雨降りに学校の玄関でそう尋ねられた静夜は持っている傘とは別に折り畳み傘をそっと遥に手渡した。
「これ貸すから良かったら使って」
「あ……うん、ありがとう静夜くん……」
静夜が用意周到なあまり結局相合傘出来ない遥なのであった。
いやお前らが相合傘するんかーい。




