第57話 君とあの子
「ただいまー」
「おー、おかえり静夜。
時間かかってたな」
静夜が寮の部屋に戻ると、陽太が次に迫っている小テストに向けて国語を勉強している最中だった。
「あー……。
実は駅の近くで小野さんに会ったんだ」
静夜の言葉に陽太の勉強をしていた手がぴたりと止まる。
「……へぇ、そうだったんだ。
元気してた?」
「うん。早乙女高校の寮に入ってんだってさ。
新しい友達も出来てて元気そうだったよ」
「そっか。なら良かった」
振り向かずに話を続ける陽太の背中に静夜は意を決して口を開いた。
「なあ陽太」
静夜に呼びかけられても依然陽太は静夜に背を向けたまま机の上のノートから視線を外す事なく問いかける。
「何だ?」
「前に俺が小野さんに告白して振られたって話……。
本当は嘘なんだ」
静夜の言葉に陽太は勢いよく振り向いた。
そしてその勢いのまま陽太は盛大に静夜の頭にチョップした。
「いだっ!」
「お前なぁ! ていうか小野さんもだけど!! お前ら2人して俺の事騙しやがって本当に!!」
陽太が息を荒げて怒鳴っている中静夜は何とか痛みを堪えつつ頭を下げた。
「ごめん。本当に、ごめんなさい」
「はあ、今更遅いわ馬鹿静夜。
つーかお前らが嘘ついてる事なんか知ってたわ!」
「……やっぱバレてたか」
仁王立ちして腕を組み威圧的な態度で陽太は静夜に尋ねる。
「そんで? 何でそんな嘘ついたんだ?
まあ大方俺から小野さんに告らせる為だったんだろうけど、それ以外にも理由があるんだろ?」
陽太の質問に静夜は慎重に言葉を選びながら答える。
「……小野さんが、その、上級生の陽太のファンに逆恨みされて絡まれてたんだ。
先生に言おうとしたら、もっと酷くなるのは避けたいって小野さんに止められて……。
そんで小野さんから転校するまでの間は平穏に過ごしたいってお願いされて……」
静夜の言葉に陽太は深くため息をつく。
「はぁ~~……。
そんでお前は俺に気ぃ遣ってその事が言えなくて、告って振られたって事にしたと?」
「……まあ」
小さく返事をする静夜に陽太は怒りながら口を開いた。
「ばっっかじゃねーの!
先生頼れねーんなら、俺でもお前でも、クラスの連中でも、小野さんの事守ってやれる奴は誰かしらいただろ?」
陽太の言葉に静夜は意味が分からずきょとんとする。
「え?」
「だーかーらー!
俺の厄介なファンが絡んでくるって言うなら、俺とかお前とか、他の誰かでもいいから小野さん守れば良かったって話!
女子のいじめとかよく分からんけど、流石に俺や静夜の前で何か仕掛けるほど馬鹿な奴そうそう居ないだろ?
そうしたら小野さんの言った平穏に過ごす事も達成出来るし、俺達も小野さんが転校するまでの間も友達として仲良く過ごせたんじゃねーの?」
陽太の強引な解決策に静夜は目を丸くした。
「まあ、言われてみれば確かに……?」
「ていうか昔から静夜はこういうの小難しく考えるというか、相手の事を考えすぎるというか……まあ、それがお前の良いところでもあるんだろうけど、もっとシンプルに考える事だって大事だぞ」
諭す様に説教する陽太の台詞に静夜は感銘を受ける。
「シンプルに……か」
「どーせ今だって小難しい事考えてるんじゃねーのか?
あの時俺に話せば良かったかーとか」
「うっ」
陽太の言葉に静夜は図星を突かれ思わず声を出した。
「そういうとこだぞ本当。
今度小野さんに会ったらそっちにもガツンと言ってやらないとな!」
すっきりした様にあっけらかんと笑う陽太の言葉を聞いて静夜は今更ながらある事実を思い出した。
「あ……!
そういや小野さん携帯持ってたのに連絡先聞くの忘れてた」
「マジか、てか携帯買ったんだな。
まあでも早乙女高校に居るの分かったんなら近いしまたどっかで会えるかもしれないし、何ならこっちからドッキリで会いに行ってもいいしな!」
そうにこにこと話す陽太に静夜も釣られて笑いつつ陽太に声をかける。
「なあ陽太」
「何だ?」
「俺が小野さんに告白してないって分かってからテンション高いな?」
静夜の言葉に陽太はまた静夜の頭をこづいた。
「だからいてーよ!」
「うるせー! お前が変な事言うからだろ!?」
「でも実際のところ安心したろ?」
「うるせーあほ静夜!」
ひとしきりお互い色々と言い合った後、陽太が不思議そうに口を開いた。
「そういやお前さ、これまで頑なに話してくれなかった癖に何で今更俺に嘘ついてた事話したんだ?
小野さんに会ったから?」
陽太にそう尋ねられ静夜はやや悩みながらも答える。
「小野さんに会ったから、と言うよりは……小野さんの後に会った葵さんのおかげというか」
「葵さんって……ああ、あの可愛い子か!
へえ、何話したんだよ?」
にやにやとしながら訊いてくる陽太に静夜は呆れながら答える。
「別に面白い話はしてないぞ。
ただ、まあ、悩みを聞いてくれたというか、なんかまあそんな感じ」
「何だよそれ? どういう感じなんだよ?」
「別にどうだって良いだろそこは」
「そこが重要だろうが!」
それから就寝時間になるまでの間、静夜と陽太は仲良く言い合いを続けていた。
一方、時間は少し戻り千鶴とあかりが映画を見終わった後の事。
「面白かったねー!」
「そうだね、最後までハラハラしちゃった」
あかりと千鶴が映画の感想を言い合う中、あかりがふと思っていた疑問を口にした。
「今日のちーちゃんはいつになくテンション高かったね?
もしかして何か良い事あった?」
あかりにそう訊かれて千鶴は頬を紅く染めながら答える。
「え? ……分かる?」
「うん、すっごい分かりやすい」
「実は映画見る前に話してた友達……私の初恋の人なんだ」
千鶴の告白にあかりは目をキラキラと輝かせた。
「えー!? マジで!?
それなら私ももっと話しておけば良かった~!」
「そうしたら映画の時間間に合わないでしょ?」
「てか詳しく聞きたいんだけど!
ちょっとス◯バ寄って話そうよ!」
「えー……?
恋バナとかした事ないから恥ずかしいしどう言えば良いのか分かんないけど……」
戸惑う千鶴の手を引いてあかりは明るく答える。
「別に話したい様に話せば良いんだよ!
何があって好きになったとか、どういうところが好きとか!
よーし! それじゃレッツゴー!」
「わわ! ちょっと引っ張らないでよあかりちゃん!」
こうして千鶴とあかりはス◯ーバックスで恋バナを始めるのだった。
いつの間にか年明けてました。
被災地の一刻も早い復興を願ってます。




