第55話 君の過去話6
「おい静夜! 何で俺がずっと電話してたのに取らなかったんだよ!
説明しろ! 何があったんだよ!」
祝日の月曜日の夕方家に帰って来た陽太は静夜の部屋に勢いよく入って開口一番そう尋ねた。
「何があったも何も、電話で話した通りの事だけど?」
静夜はそんな陽太の方へと振り向く事なくベッドの上でゲームをしながら答える。
「ふざけてんのかお前!?
何があったって聞いてんだよ!!」
怒りながら陽太が静夜の胸ぐらを掴みかかると、静夜はため息をつきながら冷静に口を開いた。
「離せよ。失恋したばかりの弟に当たるなよな」
「お前いつから小野さんの事好きだったんだよ!
聞いてねーぞそんな事!」
「聞かれてもいねー事何で答えなきゃいけねえんだよ?
双子なら隠し事もなしってか?
冗談じゃねーよ」
静夜の言葉に陽太は怒りで歯を食いしばる。
「何でだよ!? ずっと俺に遠慮してたってのか!?
ふざけんなっ!! 俺だってお前が小野さんを好きだって言うなら……!」
「応援したってか? 自分の気持ち隠して?」
「……!」
静夜に言われて陽太は言葉に詰まる。
「俺はもう自分の気持ちを誤魔化したくなかった。
転校するって聞いて、居てもたっても居られず気持ちを伝えた。
その事の何がいけねぇんだよ?」
静夜の正論に陽太は掴んでいた静夜の服からそっと手を離す。
「それは……! そう、だけど……」
「俺はちゃんと言ったぞ。
後は陽太が勝手にすればいい」
投げやりに答える静夜に陽太は俯きながら口を開く。
「静夜。お前、もし告白が上手くいったら小野さんと付き合ったのか?」
「前にも言ったろ? 俺小野さんから嫌われてるって。
だから付き合える見込みなんてなかった」
静夜の答えに陽太はもう一度苛つきながら尋ねる。
「だから! もし! もし上手くいったらの話で……!」
「そんなもしもの話しても意味ないだろ」
「意味あるだろ! もしお前が小野さんを好きだって言うなら、俺は付き合えなかった」
そう話す陽太に静夜はため息をつく。
「はぁ……。
そんなの気にせず付き合えば良いだろ?」
「じゃあお前も答えろよ!
もし同じ人を好きになったとして、お前なら付き合えるのかよ!」
「付き合える」
真っ直ぐと答える静夜に陽太は目を見開いた後、舌打ちした。
「ちっ、そうかよ。分かったよ!
俺の考えが間違ってたっ!」
それだけ言い残した陽太は静夜の部屋のドアを勢いよくバタンッと閉めて出て行った。
その後陽太がドスドスと怒りながら階段を降りる音が鳴り響き母親に注意される声とそれに反抗的に返す陽太の声が聞こえた後、静夜のドア越しから静かにノックの音が鳴り静夜は問いかける。
「何?」
「入るわよ」
珍しく返事を待った後入って来た母親は静夜の顔を見てため息をついた。
「喧嘩でもしたの?」
「……別に。勝手に陽太がキレてるだけ」
冷静に答える静夜に母親は呆れながら口を開く。
「キレさせたの間違いでしょ?
何を言ったのか知らないけど、ちゃんと仲直りはしなさいよ?」
「……仲直りも何も、俺別に悪い事してねーし」
「別にどっちが良い悪いかはどうでもいいけど、この家にはあんたら2人以外にも住んでるんだから、そこのところはちゃんと考えなさい?」
母親にそう諭される様に言われ静夜は面倒そうに答える。
「母さんだって父さんとたまに喧嘩する癖に」
「母さんは父さんと喧嘩してもあんたらの前ではいつも通りでしょ?」
「全然いつも通りじゃないよ。めっちゃ不機嫌そうじゃん」
静夜に言われて母親は頭を抱えた。
「はぁ。とにかく、一緒に住んでる人の気分まで害さない様に」
「……分かってるよ」
「何が分かってるだか」
小言を残しつつ出て行く母親を見送った後、静夜はベッドに落ちていたゲーム機そっとを拾い上げた。
「……ごめんな陽太。
こうでも言わなきゃお前はきっと動かないだろ?」
静夜の懺悔ともとれる声は、誰の耳にも届く事はなかった。
祝日明けの火曜日。静夜は千鶴に朝の挨拶もせずクラスの友達と喋っていた。
千鶴は相変わらず教室の隅の自分の席で読書をしている。
「……」
「なあ静夜知ってるか? こないださ……」
「え? 何の話?」
そんな千鶴の様子をチラッと静夜は一瞬見た後、すぐさま友達の会話へと戻った。
時間が経ち放課後になった後も、静夜から千鶴に声をかける事はなかった。
その後静夜は友達と帰り、他の生徒達も帰り1人教室に残った千鶴も帰ろうとしたところへ陽太が教室へとやって来て千鶴に声をかけた。
「小野さん!」
「!」
陽太の突然の声かけに千鶴は驚いてビクッと肩を振るわせる。
「あ、突然ごめん! どうしても聞きたい事があって」
陽太の必死な様子に千鶴は驚きつつも問い返す。
「えと、何……?」
「この前、静夜に告られて、それで振ったって本当?」
突然の内容に千鶴は混乱して頭の中が真っ白になった。
「え? え、と……?」
「金曜日に静夜から聞いたんだ。
小野さんが来月転校するって。
そんで告って振られたからもう小野さんとは話さないって。
本当なのか?」
陽太の説明を聞いて千鶴は段々と事態を掴めてきた。
「……静夜くん、そんな事言ったんだ」
千鶴が小さくぼそりと呟いた言葉は陽太には聞き取れなかった。
「え? 小野さん何か言った?」
「ううん、何でもない……。
……うん。そう。静夜くんの言う通り、告白されて、振ったの」
はっきりと陽太にそう伝えた千鶴を見て、陽太は痛くなる頭を抑えた。
(正直、静夜の嘘だったんじゃないかって疑ってたけど、本当だったんだ……)
陽太の顔色を見て慌てて千鶴は陽太の元へと駆け寄った。
「あ、陽太くん、顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ。大丈夫。心配させてごめん……」
(静夜はどうしても俺から小野さんに告白させたかったのかもしれないけど、俺はやっぱり……)
「小野さん」
「何?」
陽太は千鶴に精一杯の笑顔を見せた。
「転校先でも頑張ってな!
後、俺もしばらく仕事入ってるから多分もう一緒に話したり出来ないけど、短い間楽しかったぜ!
友達になれて良かった! ありがとうな!」
陽太にそう応援されて千鶴も笑顔で答える。
「陽太くん……こちらこそ短い間だったけど友達になってくれてありがとう。
私、頑張るね」
千鶴のその言葉を聞いて陽太は満足そうな笑顔で手を振って千鶴の元を去った。
千鶴もそんな陽太の背中に小さく手を振って呟く。
「ばいばい、陽太くん……それと、静夜くんも」
それからしばらく日が経った後、千鶴は宣言通り転校していった。
世間はクリスマスですね。3ヶ月後までどれだけのリア充が生き残っているのか見ものですね。




