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第54話 君の過去話5

 千鶴と正式に友達になった陽太と静夜は、それ以降陽太の仕事が休みの日は放課後に3人で集まり本の話をするのが日課になっていった。


「しかしまあ、まさか陽太が本を読み出すとはな……」


 感心する様に呟く静夜を陽太は睨みつける。


「うるせー。別に俺だって本くらい読めるし!」

「陽太くんはあんまり本読まないんだっけ?

 その、無理して私達に合わせて読まなくても大丈夫だよ?」


 心配して声をかける千鶴に陽太は明るく答える。


「いやいや! 元々機会があれば読んでみたいと思ってたからさ!

 それに職場でも本なり映画なり色んな作品に触れるのは大事だって言われたし!」


 笑顔で話す陽太に千鶴は少し安心した様に口を開いた。


「そっか。なら良かった。

 その、撮影とかって忙しい時はやっぱり大変なの?」


 千鶴の素朴な疑問に陽太は過去の撮影を思い出しながら話す。


「そうだな……学生は撮影時間が決まってるから、手早く撮らなきゃいけないからって結構急がされる時とかあったり……でも現場によってはぜんぜん雰囲気違うんだよなぁ。

 ピリピリしてる現場もあれば、わいわい賑やかな時もあるし、その時その時で違うというか……なあ静夜?」


 陽太に突然振られてその日の宿題をしている途中だった静夜が顔を上げた。


「なんで俺に振るんだよ?」

「お前だって前は現場によく来てたから知ってるだろ?」

「え? 静夜くんも撮影スタジオとか行った事あるの?」

 

 陽太の言葉に千鶴は驚きつつも静夜に尋ねる。


「まあ、昔はよく撮影現場で陽太が終わるの待ってたりしてたな。

 その待ち時間が暇で本読む様になったんだけどさ」

「そうだったんだ……」


 静夜がふいに千鶴の方を向くと、千鶴と目が合った。


 が、しかし千鶴はすぐに目線を陽太の方へと向ける。


「え、えと、撮影で1番大変だった事とかある?」

「んー、新年の体当たり企画とかでお笑い芸人の人と一緒にドカ食いしたり、走り込んだり、山に入ったり……なんかその辺が大変だったな……」

「け、結構重労働なんだね……!」


 和気藹々(わきあいあい)と話している陽太と千鶴を静夜は横から満足そうに眺めていた。


(俺やっぱり小野さんに好かれてはいないんだろうなー。

 とは言え他の女子みたいに陽太を追っかけて困らせたりしないし基本的に良い人だし、何より陽太の初恋だし、上手くいって欲しいな……)


 その後も静夜は2人の会話の邪魔にならない程度に口を挟みつつも、内心陽太の恋を応援していた。





 そんな事が続いたある日の金曜日。


 祝日も挟んだ連休に久しぶりに東京のスタジオでの撮影が入った為陽太は学校が終わると共にすぐに東京へと向かっていった。


(今日から撮影で3日間神奈川のおばさん家に泊まるって言ってたっけ……?

 て事はしばらくゆっくりゲームに集中出来るな)


 静夜は新作のゲームの事を考えうきうきしながら歩いていると、後ろから小さく女子の悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあ!」


「?」


 悲鳴と共にドサっと大きな物音も聞こえた為静夜は何事かと音のした方へと向かった。


「あんたさ、転校してきて調子乗りすぎじゃね?」

「陽太はみんなのアイドルなのに、何1人抜け駆けしようとしてる訳?」

「ちょっとは立場を(わきま)えなよね~?」


 そこには、廊下で座り込んでいる千鶴と千鶴に対して暴言を吐いている上級生の女子3人の姿があった。


「お前ら何やってんだ!?」


 静夜が千鶴の前に出て女子3人の前に出ると、1人が難癖をつけてきた。


「はあ? 誰あんた。

 私達そこの地味子に用があるんだけど」


 しかし、その他の2人は静夜の事を知っていたらしく、突っかかってきた女子を止めに入る。


「ちょっとやばいよ。こいつ陽太の弟だよ!」

「え? 嘘マジ?」

「やばっ! とりあえず逃げよ!」


 それから3人はバタバタと慌てて逃げていった。


「小野さん! 大丈夫?」


 女子達が去って行った後静夜はすぐに廊下にへたり込んでいる千鶴の元へと駆け寄った。


「う、うん、大丈夫……」


 そう話す千鶴の肩は微かに震えている。


「無理しなくていいから。怪我はない?」


 優しく問いかける静夜に千鶴はふるふると小さく首を横に振って答える。


「本当に大丈夫。ちょっと押されただけだから」

「そう? 立てる?

 とりあえず先生に事情話に……」


 静夜の言葉を聞いて千鶴は静夜の腕を掴んで首を横に振った。


「私は本当に大丈夫だから。

 だから、先生には言わないで」


 そう座り込んで懇願(こんがん)する千鶴に静夜はしゃがみ込んで目線を合わせて話す。


「でも、先生にはちゃんと言った方が……」

「言ったら余計に酷くなる」


 断言する千鶴の目は暗く、光がなかった。


「私、地味だし、とろくさいから、いじめられた事もあるの……。

 心配して、先生に話してくれた子が居たんだけどね。そしたら、もっといじめが陰湿なものになっちゃって……だから、先生には言わないで」


「……」


「それに、このくらいなら前の学校でもやられたし、慣れてるから」

「慣れちゃ駄目だろ、そんなの……」


 静夜が辛そうにそう答えると、千鶴はニコッと無理矢理な笑顔を作ってみせた。


「えへへ……そんなに心配しなくても本当大丈夫だよ。

 私、来月にはまた転校するの」


「……え?」


 千鶴の思いもよらない言葉に静夜は目を丸くする。


「お母さんに昨日言われたの。

 また転勤になっちゃったんだって。

 だから、ここにも後もう少ししか居ないから、だからお願い」


 千鶴は静夜に頭を下げる。


「友達としてお願い。残り僅かなここでの楽しかった思い出を汚したくないの。

 どうか、私にはもう関わらないで。

 平穏無事に居させて?」


 千鶴の言葉に静夜は頭を抱え、しばらく考えた後、短く返事をした。


「……分かった」


「ありがとう。せっかく友達になってくれたのに、ごめんね?」


 無理して笑う千鶴の姿を静夜は直視出来ずに視線を逸らした。


「ううん。俺の方こそ力になれなくてごめん」

「……静夜くんは十分力になってくれたよ。

 日直の時だって、今だって、私を助けてくれて、本当にありがとう」


「……」


 千鶴にお礼を言われた後、静夜は何も言い返せずに結局2人はその後何も話す事なく別れた。




 千鶴と別れた後、静夜はぐるぐると思考を巡らせ続けていた。


(あの時、どうすれば正解だった?)


(小野さんに黙って先生に言えば良かった?

 でもそれで小野さんがもっと酷い目に遭ったらどうする?)


(陽太には何て伝えればいい?

 陽太の過激なファンのせいで小野さんが傷ついたなんて知ったら、陽太はどう思う?)

(……絶対怒り狂うだろうな……)


(……陽太の想いは応援したい。

 でもそれはそうと、小野さんはどうだ?

 明確に2人が両想いならともかく、陽太に好かれるって事は、陽太のファンを敵に回すって事だ。

 小野さんにとってそれは良い事なのか?)


(俺、小野さんの気持ち全然考えられてなかった……陽太の恋ばっか応援して、それで逆に小野さんに迷惑かけて……)




(……でも、それなら芸能人は恋愛しちゃいけないのかよ……?

 人を好きになるのは悪い事なのか?)


(何が正解だったんだろ……?)



 答えの出ない答えを求め続ける中、静夜は家に帰ってすぐに部屋に入って陽太へと電話をかけた。


「……もしもし」

「……もしもし静夜?

 電話なんて急にどした?」


 電話口からはいつも通り明るい声の陽太の声が聞こえてきた。


 静夜は無意識に口元に手を当てて話しだす。


「俺、小野さんに告白した」


 静夜は間髪入れずにそう話す。


「……は? お前、急に何言ってんだ?」


 静夜の突拍子もない言葉に陽太は混乱しつつも問い返した。


「そんで振られた」

「いやだから! 何で静夜が小野さんに告白……」

「小野さん、来月には転校するってさ」


「はぁ!? 何で急に!?

 もう転校は最後だって……!」


 驚いて混乱している陽太に静夜は再度説明する様に言葉を続ける。


「また転勤が決まったんだと。

 だから告った。んで振られた。

 だから俺、気まずいからもう今後小野さんとは話さないから」


「いや、意味分かんねーよ……。

 静夜、お前も小野さん好きだったのか?」


 陽太の言葉に静夜は静かに答える。


「ああ。好きだった」

「いや嘘だろ、そんな素ぶり一度も……」

「そりゃあお前が小野さん好きなのに、俺も好きだなんて言い出せる訳ないだろ?」


 淡々と答える静夜に陽太は語気を荒げる。


「冗談だろ? お前何でそんな……」

「本気だよ。だから後は陽太に任せる。

 転校までに告りたきゃ告ればいい」

「いやだからそんなん急に言われても……!」

「俺が言いたいのはそれだけ。

 じゃ」

「おい待て……!」


 静夜は陽太が話している途中にも関わらず電話を強制的に切った。


 そして静かに携帯の電源を落とす。


「……はぁ」


 電源の落ちた真っ暗な携帯を片手に静夜は制服のままベッドに上がり壁にもたれかかる様に座り込んだ。


「これで良かった……のか?

 小野さん……」


 部屋の中、静夜の問いかけは静かに溶けて消えていった。

 正直ここまで静夜の過去話が長くなるとは思ってませんでしたが、次回で終わりで現代に戻ります。

 遥が出ないと何だか寂しいですね。

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