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第52話 君の過去話3

 千鶴と会ってから、陽太に少しずつ変化があった。


「母さん! 何か手伝う事ある?」


 陽太の言葉にソファに座ってくつろいでいた母親は目を丸くした。


「は? ……今あんたなんて言った?」

「だーかーらー! 何か手伝う事ない?」


 陽太の台詞に母親は今度は何か勘付いた様に頷く。


「ははーん。さては陽太、あんた何か欲しい物でもあるんでしょ?

 小遣い稼ぎの為に手伝いを申し出てるのね?」


 そう問いかける母親に陽太はケロッと答えた。


「流石母さん! 話が早いなー。

 実は本買いたくてさー」

「本? 漫画でしょ?」


 やれやれと呆れながら聞き返す母親に陽太は首を横に振る。


「違うよー。普段静夜が読んでるみたいな本が欲しいの!」

「……静夜じゃなくてあんたが本をねだるなんて……まさかあんた熱でもあるの?」


 陽太の額に母親が手を当てると、陽太はぷりぷりと怒って答えた。


「至って健康だよ! 全く……」

「あんたが本買う為に手伝いなんて、一体どういう風の吹き回しよ?」

「何だって良いだろ! とにかく、何か手伝える事あったら教えて!」


 母親に勘ぐられまいと陽太は急かす様に母親へとまくし立てる。


「はいはい分かったわよ……それじゃあ皿洗いでも頼もうかしら」

「よっしゃ、任せろ!」

「早く終わらせようとしないで、丁寧にやってよね。

 洗い残しがない様に」

「分かってるってー」


 そう陽気に答えて皿洗いを始める陽太の背中を見て、母親はそっと2階の静夜の部屋へと上がった。


 そして静夜の部屋のドアをノックすると同時に入る。


「入るわよー」

「だから母さん、ノックしてから入れって」


 静夜はベッドで寝ころびながらゲームをしていた体を起こしつつ母親へ文句を言う。


「あら、ちゃんとしたわよ」

「なら返事を待ってから入ってよ」


「そんな事より静夜。

 陽太が突然買いたい本があるからって手伝いを申し出て来たんだけど、何か知らない?」


 神妙な顔をして探りを入れてくる母親に静夜は表情1つ崩さず首を横に振った。


「知らない」

「……あんた何か知ってるわね?」


 母親の更なる追撃に静夜は呆れながら答える。


「本当に知らないって。

 欲しい漫画でもあるんじゃねーの?」

「いや、そう聞いたんだけど、陽太はあんたが読んでるみたいな本が欲しいって言ってきたのよ」

「それなら俺が前に勧めたからじゃない?」

「でもそれならもっと前にあんたが本読む様になってから欲しがるんじゃない?

 何で今更……」


 そうぶつぶつと不思議がる母親に静夜は語気を強めながら答える。


「とにかく俺は知らねーから!」

「……はいはい。分かったわよ」


 静夜の様子を見て母親はガッカリしながら口を開いた。


「てっきり陽太に好きな子でも出来て、その子が読書好きな子なのかと思ったけど、違うみたいね……つまんないわ~」


(何で当ててくるんだよこの母親……)


 母親の予想の言葉に静夜は内心突っ込む。


「それじゃあ静夜、夕飯までにはゲーム終わらせなさいよね?」

「はーい」


 そう言い残し母親は静夜の部屋を去って行った。


「……危なかった~」


 静夜は母親が出て行った後ドサリとベッドに横たわった。


「陽太の奴、後で感謝しろよ……全く」


 そして静夜は1人部屋で小さくそう呟いた。


 一方母親は静夜の部屋を出た後、ニヤリと笑った。


「静夜のあの様子……私の推測通りね。

 全く、私に隠し事なんて10年早いわ……!

 さーて、しばらく気付いていないフリして様子でも見ましょうかね~?」


 母親は鼻歌混じりにご機嫌で台所へと向かった。


「あ、母さん、終わったよー」


 1階に降りると、陽太は既に洗い物を終わらせたと宣言しソファにくつろぎながら携帯をいじっていた。


「もう終わったの?」


 そんな陽太の様子に母親は嫌な予感を覚える。


 そして洗い終わったとされる食器類を見て母親の嫌な予感は的中した。


「陽太! この皿ふちに汚れが残ってる! フォークの間にも! 後こっちの皿は泡がきちんと落ちてない!」

「えー? そのくらい大丈夫でしょー」


 携帯をいじりながら答える陽太に母親は冷静に答える。


「そう……ならお小遣いは無しね」

「えー!? せっかくやったのにー!?」


 ぶーぶーと文句を言う陽太に母親は淡々と言葉を続ける。


「私は丁寧に洗い残しがない様にと言ったわよね?

 ちゃんと頼んでいた事が出来てないならお小遣いを貰う資格無し!」

「えー!?」

「それが嫌なら、言われたところをきちんと洗い直しなさい」

「……はいはい、分かったよー」


 渋々と重い腰を上げて洗い物を再度始める陽太をよそに、居間ではテレビから陽太が食器洗いの洗剤の宣伝をしているCMが流れていた。


「ベタベタな油汚れもこれ一本!」


 そうキラキラと眩い笑顔でCMに出ている陽太と現実で文句を言いながらダラダラと皿洗いする陽太の横顔を母親はそっと見比べた。


「……あのCMの子がうちに来てくれないかしら」

「母さん、それ俺ー」

「母さんあんな素直に洗い物してくれる息子なんて知らないわ」

「まあ言わされてるだけだからね」

「現実は無常ね……」


 はあ、とため息をつく母親に陽太は明るいCMの様なキラキラとした笑顔で声をかけた。


「今度こそ終わったからお小遣いちょーだい!」


「こんな時だけ現金な子よね本当……」


 やれやれと呆れながらも母親は陽太にお小遣いをあげた。


「やりー!」

「はあ、今度はやり直しにならない様にもっと丁寧に洗いなさいよ?」


 母親にそう言われた陽太はケロッと答える。


「ああ、洗い物は面倒だからもういいや。

 次から別の手伝いにして」

「あんたって子は本当に……!」


 母親の心労は絶えないのであった。

 




「じゃーん! 静夜、ついに買ったぜ!」


 その後、陽太は何個か手伝いをした後そのお小遣いで千鶴にお勧めされた「雪野流アンソロジー」を買ってきて静夜へと見せつけていた。


「はいはい。良かったな。

 後、本買っただけで満足してないでちゃんと読めよ?」


 静夜にそう忠告され陽太は唇を尖らせながら答える。


「ちゃんと読む為に買ったに決まってるだろ! せっかく小野さんが勧めてくれたんだし……」

「あ、読み終わったら俺にも貸してくんない? 俺その本読んだ事ないからさ」


 静夜にそう言われて陽太はふいっとそっぽを向きながら答える。


「嫌だよ。この本の為に手伝いも頑張ってきたのに、ただで読もうとするとかズルいだろ」


 陽太の言葉に静夜は残念そうに口を開いた。


「そうか……折角なら小野さんが好きだって言ってた雪野先生の「ダンジョンぶらり旅」とか「初恋の音がなる」とか貸してやろうと思ってたのになぁ」

「俺が読み終わったら貸してやるから是非そっちの本も貸して下さい」


 陽太が敬語で頼んできた事に静夜はくくくと笑った。


「えー? どうしようかなー?」

「もったいぶるなよ静夜! 俺とお前の仲だろ!?」


 本気で頼み込んでくる双子の兄の姿を見て静夜はやれやれと呆れながら答える。


「仕方ないな~。ただし、そのアンソロジーちゃんと読み終わったらな」

「分かった! サンキューな静夜!」


 それから陽太はすぐさま本を読む為部屋に戻っていった。

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