第51話 君の過去話2
「おはよー小野さん」
「!?」
次の日の朝、静夜が教室に居た千鶴に朝の挨拶をすると、千鶴は驚いた顔をした後読んでいた本で顔を隠しながら静夜に挨拶を返した。
「お、お、はよう……静夜くん」
そんな千鶴の様子を見て静夜は思考を巡らせた。
(そういえば昨日も小野さんと話してる時全然目が合わなかったな……。陽太の方には普通に向いていたのに。
もしかして……昨日強引にノートとプリント取ったの気ぃ悪くさせちゃったか……?
確かにイケメンがやったらかっこいいかもしれないけど普通声かける前に持ってる物取られたら嫌か……?
いやまあ普通に考えたら嫌か。
重そうだから咄嗟に手が先に出ちゃったけど、普通に気持ち悪かったのかも……)
静夜がそう考えチラリと千鶴の方を見やると一瞬千鶴と目が合った。
そして千鶴は咄嗟にそっぽを向いた。
(あ、俺嫌われてるっぽい)
静夜はそんな千鶴の態度を見て確信した。
(うーん、せっかく陽太に初めて好きな人が出来たんだし、応援しようと小野さんの情報を集める為に俺もある程度仲良くなろうかと考えたけど……無理かもしれないな)
静夜は自分の席に着いて静かに今後の千鶴への対応を悩みだした。
それから昼休みは毎回陽太が静夜のクラスへと来る様になった。
「なーなー静夜ー!」
陽太は静夜の名前を呼びつつも、視線は千鶴の方へと向いている。
「はいはい。小野さんなら向こうに居るぞ?」
「!? い、いや!
俺別に小野さん目当てで来てる訳じゃねーから!!」
陽太は静夜にしか聞こえない様にそう小声で叫ぶ。
「……それに、俺事務所で女の子と付き合うなって言われてるし……」
そうぼそりと呟く陽太に静夜はケロッとした表情で返した。
「は? そんなんバレなきゃ大丈夫だろ。
現に蓮の奴だって彼女居るし」
静夜の発言に陽太は慌てる。
「いや蓮はそうだけど! 俺はそういうの無理!
どうせ付き合うなら、こそこそとじゃなくて、堂々と付き合いたいというか……」
途中からごにょごにょ話す陽太に静夜はニヤニヤしながら口を開く。
「そもそもまだ付き合えるかすら分かんねーけどな」
「そうだけど! いやてかまず俺小野さんが好きかとか分かんねーし!」
そう明らかにテンション高く話す陽太に静夜は冷静に返事をする。
「いや明らかに気にしてんじゃん。
人はそれを恋と呼ぶんだよ」
「いやいや! 俺はまだ認めてない!」
そんな感じで昼休みは賑やかに過ぎていき--。
放課後になり、静夜が再び千鶴へと声をかけた。
「小野さん」
「!?
な、な、何? 静夜くん……?」
明らかに驚き警戒している千鶴に静夜はひとまず謝る事にした。
「あー……小野さん、ごめん」
「!?」
急に謝られた千鶴はびっくりして固まってしまう。
「その、昨日俺の行動で小野さんの気分を悪くさせちゃったかなって」
「そ、そ、そんな事ない……!」
静夜の言葉に千鶴は小さな声で一生懸命否定した。
「そう?」
「うん! 昨日は本当に助かったから……! む、むしろ私の方が……うぅ、やっぱ何でもない……」
千鶴は途中まで何かを言いかけたが続きを言うのをやめた。
「? 何かあった?」
「いや、あの……あ!」
静夜が何事かと聞き返そうとしたら、千鶴は静夜が持っている本を指差した。
「雪野先生の本……! わ、私も読んでる……」
「え? マジで?」
それから千鶴は鞄から雪野先生の本を取り出した。
「これ……「ダンジョンぶらり旅」とか、「初恋の音がなる」とか大好きで……ファンレターも出したくらいには大ファンで……」
「マジか、俺もめっちゃ好きでさ。
でも周りに読んでる奴居なかったから普通に嬉しい。
てか、ファンレターまで出したのすげーな」
静夜が目を輝かせて話していると、千鶴は静夜から視線を外して下を向きつつ話を続けた。
「あ、やっぱりファンレターとかやり過ぎだったかな……?」
「え? 何で? 先生に読んだ感想伝えるのは全然良い事だと思うけど?
絶対雪野先生も喜んでくれたと思うぜ」
「よ、読まれてたら良いけど……」
「まあ人気だと全部ファンレター読むのは大変かもだけど、きっと先生の励みにはなってるだろうからさ」
静夜に明るくそう言われて千鶴は小さく頷いた。
「うん……そうだといいな」
千鶴がそう小さく微笑んだタイミングで、陽太が静夜と千鶴が残っている教室へとやって来た。
「おーい静夜ー! お前小野さんと何話してんの?」
そう言って静夜に後ろから抱きつく様な形で陽太は肩を回しながらやや威圧的に静夜へと質問する。
「小野さんも雪野先生の本好きなんだってさ。
陽太、お前もこれを機に読んでみたらどうだ?」
ウザ絡みする陽太に呆れつつも静夜が冷静に答えると、陽太は静夜から離れ千鶴に向き直って話しかけた。
「あー、それ静夜もたまに読んでる奴か!
小野さんもその本面白かったの?」
陽太に尋ねられて千鶴は陽太の方へ姿勢を正して答える。
「あ……うん、面白かったよ」
「へぇ! おすすめとかある?
俺普段忙してく中々本読めないんだけどさ、前から静夜が面白いって言うからちょっと興味があって!」
(嘘つけ、俺が勧めても時間ある時でも全然読まなかっただろ……)
陽太の言葉に静夜は内心呆れていた。
「えと、おすすめはやっぱり「ダンジョンぶらり旅」だけど、長編だから読むの大変かも……本読むのに慣れてないなら、「雪野流アンソロジー」っていう、雪野先生の短編集があるから、それだったら1話1話が短いし隙間時間でもサクッと読めると思う……」
「へぇ、そうなんだ!
小野さんありがとう! 今度読んでみるわ!」
ニコニコと満面の笑みで答える陽太に千鶴はおどおどと言葉を返す。
「いや、忙しければ無理しなくても……」
「あ、それは大丈夫! ついこの前ドラマの撮影終わってしばらく休みだからさ!」
「あ、そうなんだ……?
な、なんて言うか……ドラマ撮影とかやっぱり芸能人なんだね……」
陽太の言葉にそう感心する千鶴に陽太は謙遜しながらも答える。
「いやぁ、俺もただ運良く芸能界入れただけで、普段はめっちゃ普通に一般人だから! なあ静夜!」
陽太から突然話を振られた静夜は淡々と返事をした。
「まあそうだな……。
家では俺にスマブ◯で勝てないからって機嫌悪くなるくらいには普通に男子中学生だな」
「何で出す話題がスマブ◯なんだよ。
もっと良い話あったろ?」
不満気に答える陽太と静夜のやり取りを見て千鶴は小さく笑った。
「ふふ……」
「あー! 小野さん笑ったー!」
そんな千鶴の笑顔を見て陽太は顔を赤く染めながらはしゃぐ様に声を上げる。
「え? あ、御免なさい……馬鹿にして笑ったとかじゃなくて、仲良しなんだなぁと思って……」
「あ、いや、俺小野さんの笑った顔初めて見たからつい声出しちゃって……!」
夕陽に照らされる教室の中、千鶴と陽太が顔を赤くしながらお互い弁明しているのを横で静夜は冷静に眺めていた。
(お、何か良い感じじゃね?)
静夜がそんな空気を察してそっと教室を立ち去る準備をしようとすると、横に立っていた陽太に肩を掴まれた。
「静夜お前何帰ろうとしてんだよ?」
陽太に問われて静夜は涼しげに答える。
「見たいアニメがあって」
「お前普段アニメなんて見てないだろ」
「いやいや、何か神作画のアニメがあるから見てみろって健にこないだ勧められたんだよ」
「はぁ? 俺は聞いてないぞそんな事」
突っかかってくる陽太に静夜はこっそりと耳打ちする。
「折角小野さんと2人きりになれるチャンスだろ?」
陽太は静夜の言葉に顔を赤くしながら静夜にしか聞こえない様に反論した。
「いやいや、小野さんと2人きりはまずいって!」
「何がまずいんだよ?」
「何をどう話せばいいか全く分からん!
だから頼むから静夜、間に居てくれ!」
そう小声で頼んでくる陽太に静夜は呆れた様に呟く。
「このヘタレ」
「何とでも言えよもう」
陽太と静夜がヒソヒソと話している間に、千鶴がおどおどと声をかけた。
「あ、あの……」
「あ! ごめん小野さん俺と静夜ばっかり話してて!」
千鶴は陽太の突然の大声に一瞬びっくりするが、すぐに落ち着いて口を開く。
「その……私、なるべく早く帰りたくて……」
「え!? あ、ごめん!
もしかして小野さんも見たいアニメとかあったのか!?」
千鶴の言葉に陽太がそう尋ねると、千鶴は小さく首を横に振った。
「違くて……お母さんが帰ってくる前に、夕飯作っておきたくて」
そう話す千鶴に陽太と静夜はお互いの顔を見合わせた後千鶴に声をかけた。
「マジ!? 小野さん自分で料理してんの!?」
「すげーな、小野さん」
陽太と静夜が感心の声を上げると、千鶴は顔を赤くしながら答えた。
「か、簡単なのしか作れないし……それに、頑張ってるお母さんに私がしてあげられる事って、そのくらいだから……」
そう照れながら答える千鶴に陽太と静夜は明るく話す。
「そのくらいだなんて、充分小野さんのお母さんは感謝してると思うぜ!」
「そうだよ小野さん、俺達なんて家では全然手伝いなんてしてないし」
「俺はたまに手伝ってるぞ!
……仕事ない時、たまーに」
「……そうだな」
何が何でも見栄を張りたがっている陽太に静夜は苦笑しながらも肯定してあげた。
「あ! 急いでるのにまた引き止めてごめんな小野さん!」
陽太の声かけに千鶴は軽く会釈する。
「うん、えっと……それじゃあまた」
それから千鶴は2人に小さく手を上げて挨拶した。
「「またなー!」」
陽太と静夜が息ぴったりに挨拶すると、千鶴はそんな2人に少し笑って背を向けて教室を後にした。
「小野さん、料理出来るとかすげーなぁ」
陽太がボソッと本音を漏らすと、横で静夜は陽太をニヤニヤと笑いながら言った。
「陽太も頑張って家の手伝いしないとな」
「……! ま、まあ、たまには手伝いくらいしないとな! 静夜も一緒にやるぞ!」
「えー? 俺はパス」
「パスとかねーよ!」
こうして東双子も仲良く家へと帰って行った。




