第40話 君と付き添い
(……?
何だろう、暖かくて心地良い……それに甘い匂いもする……夢か……?)
静夜が夢見心地のまま目を開けると、気づいたら薬局の椅子に座っていた。
そして、右隣に座っていた遥に自身がもたれかかっていた事に気付く。
「!?
うわ! あ、葵さん、ごめん!!」
完全に目が覚めた静夜は遥から身を離して謝った。
「あ、東くん起きたの?
私は全然気にしてないしまだ呼ばれてないからむしろもう少し寝ててもいいよ?」
にっこにっこと満面の笑みの遥に対して静夜は手と首を全力で横に振る。
「いや本当に大丈夫だから! 本当寄りかかっててごめん!
……てか俺いつの間に薬局に?」
「東くん外で話してたらぐったりしだして、私が肩貸して一緒に歩いてきたんだけど、覚えてないの?」
「ごめん、全然記憶無くて……」
そう謝る静夜に遥はそっかーと呟いた。
「俺、さ……何か変な事言ってなかった?」
静夜は直前の記憶をうっすら思い出して遥に尋ねる。
「あー、そう言えば付き合わないーみたいな事言われて、一瞬付き添われるの嫌なのかなって帰ろうとしたんだけどね?
そしたら東くんどんどん顔色悪くなってそれで嫌かもしれないけど無理矢理付き添ったの。
……えっと、今更だけど、もしかして私いない方が良かった?」
今度は遥が恐る恐る静夜に質問すると、静夜は首を横に振った。
「ごめん、ちょっと夢みたいなの見てて変な事言っちゃって。むしろここまで連れて来てくれてありがとう」
静夜に礼を言われて遥はほっと胸を撫で下ろす。
「良かった~。
それに東くんさっきより顔色も良くなってるね?」
「え? そう?」
「さっきはもっと死にそうな顔してて本当びっくりしたんだよ?
でも今少し寝たから良くなったのかな?
あ! もっと寝れば良くなるかも!?
今度は膝枕してあげようか!?」
目を輝かせてぐいぐいと提案する遥を静夜は全力で否定した。
「別にしなくていいから」
「ええ!? 試すだけの価値はあると思うよ!? ほらほら遠慮せずに!」
ぽんぽんと自身の足を叩いて催促する遥に静夜は首を横に振る。
「嫌だよ恥ずかしいし、それに葵さん風邪うつっちゃったら困るだろ?」
「いやいや東くんからのウイルスだなんてむしろご褒美……じゃなくて人にうつした方が早く治るって言うじゃん!!」
「今ご褒美って……」
「と、とにかく! 私は全然普段風邪引かないし、そこは気にしなくていいから本当!!」
遥は失言を誤魔化すべく早口でそう答えた。
「とにかくもう一度だけでも寝た方が……」
「東静夜さーん」
「あ、呼ばれた」
遥が静夜に寝る事を勧めている間に、静夜は薬剤師から呼ばれてそちらへと向かった。
(ちぇー後もうちょっと東くんと一緒に過ごしたかったのに……)
それから静夜は会計を済ませて薬を受け取った後、学校へと電話して迎えを呼んだ。
「5分後くらいに先生着くって」
「そっかー。それじゃあ迎え来るまで座って待ってよっか」
にこにこと笑顔でそのまま薬局に居座り全く帰る気のない遥に静夜は声をかけた。
「葵さん、もう外暗くなってきてるけど、帰らなくて大丈夫?」
「いやいや私は全然大丈夫だよ!
家近いし!
それに病身の東くんを1人置いてなんて行けないよ!」
そう笑顔で答える遥に静夜は改めて礼を言う。
「今日は本当にありがとう。正直まさか気を失うとは思ってなかったから本当助かった」
「いやいや! こっちこそ良い体験が出来た……じゃなくて! 久しぶりに東くんの顔が見れて良かったよ!」
(今良い体験って言った……)
遥の失言を静夜が脳内で突っ込んでいると、遥はそのまま言葉を続けた。
「でも、今度会う時はちゃんと元気な時に会いたいから、無理せず治してね!」
「分かったよ」
「後出来れば早目に迅速に治してくれるとありがたいな♡」
「まあ、それは俺だって早く治りたいけど……」
遥の要望に静夜は苦笑混じりに答えた。
その後学校車がやって来て迎えに来た教師が静夜と一緒にいる遥の姿を見て驚く。
「あれ? 葵、お前も居たのか」
「東くんに付き添ってました!」
「そうか……葵、お前って寮だったっけ?」
教師に訊かれて遥は首を横に振る。
「家はすぐ近くです」
「はあ、分かった。
じゃあお前も送るから2人とも車乗れ」
「え!? いいの先生?」
教師の申し出に遥は目を輝かせた。
「そりゃあもう暗いのに女子高生1人帰すのもなぁ。
仕方ないから送るだけだ」
「わーいありがとう先生!」
それから静夜と遥は教師の車へと乗り込んだ。
「家まで道案内しろ」
「はーい! えーと、まずこの道を左に行って……」
それから程なくして学校車はすぐに遥の家へと着いた。
「先生ありがとうございました!
東くん! またね!」
一軒家の前で降りて遥は2人に大きく手を振る。
「はいはい、また明日な」
「葵さん、また……」
明日と言いかけて静夜は口を閉ざす。
(明日には風邪治ってたら良いけど……)
それから静夜は教師とともに学校へと帰って行った。
その後静夜が寮に戻ると、もう既に陽太が帰って来ており勉強している最中だった。
「ただいま」
そんな陽太の背中に静夜が声をかけると、陽太は振り返って返事をする。
「おかえりー。病院どうだった?」
「ただの夏風邪だって」
「そか。てか、お前朝より顔色大分良くなったな」
陽太に言われて静夜は不思議そうに答える。
「え? そうか?
まあ確かに朝よりは良いかも……」
「それなら明日は学校行けそうだな。
良かったな!」
にっと笑う陽太に静夜は思考を巡らせた。
(陽太がそう言うんなら本当に明日には熱が下がるんだろうな……)
それから少し時間は過ぎ、消灯時間の少し前。
「陽太、俺先に寝るわ」
「おう、おやすみ」
仕事の台本を読んでいる陽太に向かって静夜はそう言ってベッドへと潜り込んだ。
それから静夜は陽太に小さく声をかける。
「なあ」
「ん? どした?
あ、明るくて寝れないか?」
「いや……やっぱ何でもない」
そう言って何かを言うのをやめた静夜は陽太に背を向ける様に寝返りを打った。
そんな静夜の元へと陽太は近づいておもむろに静夜の頭を撫でる。
「!?
何すんだよ気色悪ぃ!」
静夜が怒りながら陽太の手を払いのけると、陽太はけらけらと笑いながら答えた。
「えー? てっきり風邪で甘えたくなったのかと思ったからさ」
「んな訳ねーだろ!」
未だに怒っている静夜の背中に陽太はその調子のまま問いかける。
「そんで? 本当は何聞きたかったんだよ? 途中でやめられたら気になるだろ?」
「別に……」
「言わねーならもっと頭撫で回してやろうか?」
「それはやめてくれマジで……はあ」
それから観念した静夜は陽太に背を向けたまま口を開く。
「……陽太はさ、1人っ子になりたいって思った事……ある?」
静夜の問いに陽太は少し悩みながら答えた。
「うーん……あんまないかも」
「そっか」
予想通りの返答に静夜は素っ気なく返事する。
「でも静夜はあるんだろ?」
ふいに陽太に訊かれて静夜はガバッと上半身を起き上がらせて答えた。
「いや、別に俺陽太が嫌いとか居なくなって欲しいって訳じゃねーからな! ただどんなのだろうって憧れというかないものねだりというか……!」
そう慌てて話す静夜に陽太は笑いながら答える。
「そんな必死に言わなくても分かってるよ。
それより静夜、聞きたい事聞けたならもう寝とけよ? 明日に響くぞ?」
「……分かった。おやすみ」
「はいはいおやすみ」
陽太に促されて静夜はまたベッドで横になり、やがてすやすやと眠りについた。
そんな静夜の寝ているところを眺めながら陽太は小さく口を開く。
「俺はお前の方が羨ましいよ。
お前は俺が欲しいもの持ってるじゃん」
陽太はそう呟いてスケジュール帳を開き目を通す。
そこには「CM撮影」「雑誌の写真撮影」「オーディション」など色々な仕事の予定が書かれていた。
「……俺も頑張らないとなぁ」
スケジュール帳をパタンと閉じて陽太はまたそばに置いてあった台本を読み始めた。




