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第38話 君と風邪

「あ、教室にノート忘れた」


 家に帰ろうとランドセルを背負い学校を出ようとしていた静夜は、忘れ物の存在を思い出し自分のクラスである6年1組の教室へと戻った。


 静夜が教室のドアを開けようとしたちょうどその瞬間、中からクラスの女子の声が聞こえてきた。


「えー? 明日東弟に告白すんのー?」


「!?」


 唐突なセリフに静夜はドアを開ける手を止めた。


「でも舞ちゃん、陽太くんが好きって言ってなかった?」

「うん。陽太一筋だよ」

「じゃあなんで東弟に告んの?」


 他の女子に尋ねられた女子は笑いながら答える。


「そりゃ勿論陽太に近付く為だよー。

 それに東弟ならチョロそうだからすぐに付き合ってくれそうじゃん?」

「あー確かに、女子に告白とかされた事なさそーだしね」


 高らかに笑う女子達の中から、1人の女子が教室の時計を見て口を開いた。


「あ、私そろそろ塾の時間だ」

「じゃあそろそろ帰ろっかー」


 そう言って数人の女子が教室から出て行ったのを確認した後、廊下の角に隠れていた静夜は静かに教室へと入る。


「はあ、最悪……」


 --東弟と言われるのは慣れてる。


 --俺に近付く女子が陽太狙いなのも分かってる。


「いっそ、1人っ子だったら良かったのに……」


 1人きりの教室で静かに静夜の呟きだけが響き渡った。






「……や、静夜……!」


「ん……?」


 朝の6時過ぎ。小鳥遊学園芸能科の寮の1室にて。

 陽太に呼びかけられて静夜はゆっくりと目を覚ました。


(何か身体だる……疲れが溜まってんのかな……)


 のそのそと起き上がる静夜に陽太は声をかける。


「何かうなされてたけど大丈夫かー?

 って、お前顔赤くね?」


「え?」


 陽太にそう言われて静夜は洗面台へ行き鏡で自分の顔を確認した。


「うーん、そうか?」


 いまいち自分の顔を見てもピンときていない静夜に陽太は言い切る。


「絶対熱あるってお前。

 体温計どこしまったっけ?」


「そこの棚の1番上……」


 陽太は棚の中を漁り探し出した体温計を静夜へと渡した。


「ほら測ってみ? 絶対熱あるから」

「分かったよ……」


 渋々体温計で熱を測り、静夜は画面の数字を確認した。


「37.8……」

「ほらやっぱり熱あるじゃん。

 俺寮長に行ってくるから静夜は休んでろ」


 そう言い残し部屋を出て行く陽太の背中を見て静夜はしみじみと思う。


「俺熱出す度に毎回陽太に言われてから気付いている様な……?」


 静夜はそんな陽太に半分感謝、半分気持ち悪いと思いつつも、ベッドへと腰掛けて陽太の帰りを待つ。


 それから間も無く保健教諭を連れて陽太が部屋へと戻って来た。


「入るわよー」

「はーい、どぞー」


 白衣を着た女性の保健教諭は念の為もう一度測ってと言って持ってきた体温計を静夜へと渡す。


 再度静夜がそれで熱を測ると、今度は「38.0」と表示された。


「あー、ばっちり熱あるね。

 うん。取り敢えず今日は学校は休んでね。

 これから病院に予約取るから」

「え、病院行かなきゃいけないんですか?」


 嫌そうに尋ねる静夜に保健教諭は真面目に答えた。


「こういうご時世だからウイルスの検査もしなきゃだからね。それにゴールデンウィーク中に県を跨いで実家とか帰省した?」


 保健教諭に聞かれた事に横から陽太が答える。


「しました」

「なら尚更病院行ってね。

 こっちで予約しておくから」


 そう言って保健教諭が戻ろうとするところに陽太が質問した。


「あのー、俺は濃厚接触者で休みになったりしませんか?」


「君は元気そうだから、マスク着用で取り敢えず学校行きなさい?

 あ、でも念の為みんなとちょっと距離とってね」

「えー……分かりました」


 もしかしたら休めるかもと淡い期待をしていた陽太はその望みが打ち砕かれて少し不貞腐れつつも返事をする。


「あ、因みに食欲はある?

 朝ごはん食べれるなら後で持ってこさせようか?」


 保健教諭に訊かれて静夜は小さく頷く。


「あ、じゃあ少し食べます……」

「分かったわ。それじゃあ病院とかも決まったら後で伝えに来るから」


 静夜の返事を聞いてその後保健教諭は足早に去って行った。


「はーあ、休みになると思ったのに、残念」

「お前は学校行く準備しろよ……」

「分かってるよ。お前は寝とけ」


 嫌々ながらも学校へ行く準備をする陽太にそう言われて、静夜は大人しくベッドに横になった。


「それじゃあ俺朝食べに行ってくる」

「はいはい」


 陽太の言葉に静夜は力なく手を振った。


 程なくして陽太が出て行った部屋で1人、静夜はぽつりと呟く。


「はあ、嫌な夢見るし、風邪引くし、最悪……」


 それから静夜は布団を被って朝ごはんが来るまで二度寝する事にした。



 

「え!? 東くん風邪で休みなの!?」


 徹人と太一から北海道のお土産を渡されながら静夜の風邪の事を聞いた遥は大声で聞き返していた。


「なんか熱があるからって寮長が言ってた。葵さんどんまい」

「はいこれお土産。そしてどんまい葵さん」


「そ、そんな……! 私は今日一体何の為にわざわざ学校まで来たというの……!?」

「勉強しにだろうが」


 項垂れて意気消沈している遥にユウは当たり前の言葉を投げかける。


「だって4日間も……例え途中LINEのやり取りがあったとはいえ4日間も会えなかったのに……! それなのにまだおあずけをくらうなんて……! 神様は一体なぜ私にそんな過酷な試練を課すの……!?

 私前世で何かした……!?」

「前世というより、今世で何かしでかしそうではあるけどな」


 遥の嘆きに冷静にユウが答える。


「つーか過酷な試練はどちらかと言うと風邪引いて寝込んでる東の方じゃねーの?」


 遥の言葉にお土産を貰いに来ていた明宏も突っ込んだ。


「わあ白い恋人に白いブラックサンダー? 美味しそう! ありがとう!」


 項垂れる遥をよそにハルは太一と徹人にお礼を言っていた。


「鈴木も渡辺もサンキューな」

「うう、あ、ありがとう鈴木くん、渡辺くん……」


 ユウがお礼を言ったのに続いて、遥も悲しみつつ礼を言った。


「ああうん、無理かもしれないけど葵さんも元気出してな?」

「頑張れ葵さん!」


 太一と徹人の声かけに遥は力なく頷く。


「うん……ガンバッテミルヨ」


(こりゃあもう駄目かもしれないな……)


 遥の力ない返事に、一同は同じ事を考えていた。


 そしてみんなの予想通り1日中遥は心ここに在らずの状態だったという。

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