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第37話 君と挨拶

 そんなこんなで時は過ぎ、ゴールデンウィーク後半の連休3日目の夜。


「ああああーー~~……」


 遥は部屋で1人項垂れていた。


「明日まで耐えれば東くんに会える明日まで耐えれば東くんに会える明日まで耐えればああああーー」


 そして静かに1人で壊れていた。


 

 一方、陽太と静夜はそれぞれ明日の帰る準備を始めていた。


「なあ静夜ー。俺のイヤホン知らね?」


 静夜の部屋を訪ねてきた陽太がそう質問すると、静夜は呆れながらそれに答えた。


「お前店で忘れそうになってたぞ」

「え? マジで? サンキューな」


 静夜からワイヤレスイヤホンを受け取った陽太はそのまま静夜の部屋でイヤホンの充電を始めた。


「いや何で俺の部屋ですんだよ?」

「いやー俺今部屋でスマホとSwi◯chどっちも充電しててコンセント空いてなくてさ」


 悪びれずにそう答える陽太に静夜はため息をつく。


「はあ、それじゃあ充電してていいから、そっちも部屋戻って明日の荷物まとめろよ」


 しかし静夜にそう言われても陽太は無言で静夜の部屋から動かなかった。


「……手伝わねーからな?」

「えー?

 どうしても駄目か?」


 陽太は準備をしている静夜の前に行き静夜を覗き込む様に上目遣いをして頼んできた。


「なーなー、駄目か?

 双子の兄の一生の頼みだからさー」


 それに対して静夜は冷ややかな視線を返す。


「一生の頼みをこんなところで使うな。

 いくら頼んでもやらねーから」

「ちぇーケチ。

 自分の分のついでにやってくれても良いじゃん!」

「嫌だよ」


 陽太の頼み込みに全く動じない静夜の態度に陽太はやがて諦めて出て行った。


「全く、あいつ昔から面倒事俺に押し付けようとしてきやがって」


 文句を言いつつ静夜が荷物をまとめていると、部屋の本棚を見てふと遥との約束を思い出した。


(そういや葵さんに本貸す約束してたのすっかり忘れてた……)


 それから静夜は本棚からどの本を貸そうかと本棚と睨めっこを始めた。


(どうしよう……前回無難に恋愛小説とか勧めたけど、次はどうするか……。

 葵さんに連絡しても多分何でもいいって言われそうだしな……まあダメ元でどんなジャンルが良いか聞くだけ聞いてみるか)


 それから静夜は遥に連絡を入れた。


 一方遥は静夜からの突然のLINEに目を疑った。


「東くんからLINE!? な、何故急に!?

 あ、も、もしかしてまた前みたいにグループLINE!?」


 恐る恐る遥がLINEを確認すると、今回はちゃんと静夜からの個人LINEだった。


「わ、私にだけ!?」


「前に本貸すって約束したけど、どんなジャンルが良い?」と書かれた静夜からのLINEを見て遥は感動して涙を流す。


「東くんから個人LINE……!

 しかも本貸してくれる約束ちゃんと覚えててくれてたんだ……!」


 遥は興奮しながらもLINEの返信をした。


「何でも良いよ!

 東くんのオススメなら何でもオッケー!!(≧∇≦)b」


 一方遥からの返信を見て静夜はやはりなと落胆していた。


「まあそう言うと思ってたけどさ……」


 さてどうしたものかなと静夜はまたどの本を持っていこうかと悩み出した。


 一方遥は返信した後、よくよく静夜のLINEを見返して深読みし始めた。


「つい勢いで返事しちゃったけど……東くんが私に好きなジャンルを聞いてきたのって、私の事をもっと知りたかったからとか……? も、もしかして私に興味を持ち始めた……? そういえば学校でも勉強会でも私が一方的に東くんに質問したり自分の事勝手に喋ったりしてたけど、こうやって東くんの方から私へ質問してきたのって初めてでは……?


 も、もしかして……脈あり? だったりして!?


 い、いや、流石にそれは気が早い……? 多分東くん的に本当にどんな本を渡せばいいかを悩んだ末連絡してきたとか……? でももしそれなら私の「何でもいい」という回答は1番東くんを困らせる回答だったのでは?

 一緒にご飯行く時に何にする? って聞かれたのに「何でもいい」って答えられてちょっと萎えるみたいなあの現象の事だったら、さっきの私の返事はむしろマイナスだったのでは!?」


 遥は熟考した後、静夜に更にLINEを送った。


「因みに私は雑食なのでどんなジャンルでもいけます!

 もし本を選んでるのに悩んでるなら、東くんが特に好きな本読みたいです!!」




 一方本棚の前でまだ静夜が悩んでいると、遥から再びきたLINEを見てふっと小さく笑って呟いた。


「何でまた急に敬語なんだよ」


 それから静夜は特に気に入っている本を数冊取り出して荷物に詰めた後、遥に返事をした。


「分かった。シリーズ物でもいいなら、俺のお気に入りの奴貸すよ」


 すると遥からすぐに返事が来た。


「やったー! ありがとう!

 大切に読ませて頂きます!(*`・ω・)ゞ」


 遥の返事を見て静夜もLINEを打ち返した。


「それじゃあまた明後日学校で。

 おやすみ」


 LINEを打ち終わって静夜は静かに携帯を閉じた。


「ふぅ、これで荷物もまとめたし、後は明日の朝出発するだけかー」


 実家を出る事を少し名残惜しく思いつつも、静夜は今日はもう寝るかとベッドへと横になった。



 一方遥は静夜から来たLINEの返事に心臓を持ってかれていた。


「お、おやすみって!! おやすみの挨拶のLINEが来たってこれもうカレカノじゃん!!

 リア充のやり取りじゃん!!

 わ、私も返信していいのかな!?

 ♡とかつけたら引かれるかな!?

 え、ど、どうしよう!? どうおやすみと打てばいいんだ!?」


 悩んだ末、遥がやっとの思いで「おやすみなさい( *ˊᵕˋ)ノ゛))」と打てたのは、静夜からLINEが来た1時間後だった。


 勿論静夜はもう既に寝ており、そのLINEに気づくのは翌日の朝だった。




 次の日の朝。

 陽太と静夜はまとめた荷物を玄関に持ってきていた。


「忘れ物はないわよね?」


 母親に尋ねられて陽太と静夜がそれぞれ返事をする。


「そんな確認しなくたって大丈夫だって」

「相変わらず母さんは心配性だな」


「あんたらそう言って忘れ物の常習犯でしょうが」


 母親がそう文句を言うと、横から父親が朗らかに声をかけた。


「まあまあ、またしばらくは会えなくなるんだしそう怒らなくともいいだろ?」

「あなたはそんな他人事みたいに言うけど、毎回この子達の忘れ物を届けてたのは私なのよ?」


 母親から怒りの矛先を向けられた父親は冷や汗を流しながら話す。


「ま、まあもう高校生にもなって少しはしっかりしてきただろうし」

「何度言ってもお菓子のゴミは捨てないし帰って来てもカバンは投げっぱなしだし……あなたもだけど」


「あ、ほらそろそろ家を出ないと、新幹線の時間に間に合わなくなったら大変だろう? な?」

「そ、そうだよ母さん」

「早く行こうぜ!」


 母親の怒りムードに男3人は母親の気を逸らそうとてきぱき動き出した。


「全く、最初からそうやって動いてくれればいいものを……」


 母親は文句を言いつつも化粧をし始めた。


「なんやかんや母さんが1番準備するの遅いよな」

「なー」


 陽太と静夜がそう口にすると化粧中の母親が口を挟んだ。


「あんたらの準備を手伝ってたから自分の準備が後回しになってるの、分かってる?」


「静夜これ以上何か言うのはよそう」

「そうだな」


 それからしばらくして、母親の準備も終わり家を出る時間になった。


「それじゃあ準備出来たから行こうか。

 母さん、行ってきます」

「お義母さん、行ってきます」


 父親と母親は玄関に見送りに来ていた祖母に声をかける。


「ばあちゃんまたな」

「元気でなばあちゃん」


 陽太と静夜もそう言って手を振ると、祖母も2人に手を振った。


「はいはい、また来てな。

 東京は色んな人いるからな、気をつけるんだよ」


「「はいはい、分かってるって」」


 祖母の忠告に陽太と静夜は揃ってそう返事をした。


 それから4人は荷物を乗せた車にそれぞれ乗り込む。


「はーあ、また学校かーだるいなぁー」

「休み短かったなー」


 静夜と陽太は名残惜しく思いつつも、父親の運転で名古屋駅までやって来た。


「それじゃあ本当に忘れ物はない? お土産とかちゃんと持った?」

「大丈夫だよ母さん」


 名古屋駅で陽太と静夜はそれぞれ荷物を取り、心配している母親に返事をした。


「東京で何かあったらすぐに連絡してよ? ただでさえあんた達普段連絡来れないんだから」

「まあ、高校生ともなれば勉強に遊びに忙しいんだろう。それじゃあ2人とも気をつけてな」


 母親と父親に陽太と静夜はそれぞれ手を振った。


「分かったよ。それじゃあ父さん母さん、またな」

「そんな心配すんなって、それじゃあまた」


 こうして2人は東京へ帰る為新幹線へと乗り込んだ。



 一方その頃遥は……。


「後もうちょっとで東くんが東京帰ってくる後もうちょっとで東くんが東京帰ってくる……ヒャッハー明日が待ちきれないぜー!!」


 ようやくの登校日に心躍らせていた。

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