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第4話 君と約束

「東くん、何の本読んでるの?」


「え?」


 放課後になり図書室で本を読んでいた静夜の元へと遥が声をかけた。


「な、なんでここに……?」


「夏休みにどうせ読書感想文とか出されるだろうから、一足先に書いちゃおうと思って本探しにきたんだ」

「まだ4月中旬だけど……?」


 遥の思いもよらぬ返答に静夜は動揺する。


「まあ単純に東くんが気になったってのもあるんだけどね!」


 ばちんとさながらアイドルかの様にウインクする遥を見て、静夜は一瞬で悟った。


(……あ、やっぱり。


 葵さんも陽太目当てか)



 教室で助けられた(?)一件からもしかしたら他の女子達とは違うのかも……と思ったが、今思えばあれも全部計算だったのだかもしれない。


 そう、結局彼女も他の女子と同じなんだ。


「その、東くんってさ、あのー、東ヨウタ? って人の弟なんでしょ?

 なんか大変そうだなーと思ってさ」

「……別に、葵さん程ではないよ」

「まあ私もめちゃくちゃ大変だったけどね!

 でも東くんは私と違ってさ、自分じゃなくて身内だから私とは違う大変さなんだろうなって思ってさ」


「それで?」


 笑顔で話しかける遥に若干イライラしながら静夜は聞き返す。


「それでね、この前助けたよしみ?

 いや私が助けてはいないか……?

 まあ似た様な境遇の者同士という事で頼みたい事がありまして……」


「陽太の情報が欲しいんなら、回りくどい事言わずにそう言えば?」


 静夜は冷たく遥を睨みながらそう言い放った。


「……え?」


 静夜の変貌に驚きのあまり遥はきょとんとする。

 そんな遥の様子を無視して静夜は話を続けた。


「所詮あんたも他の女子と同じで、陽太に近づきたいだけだろ?」

「いやいや! 違うよ!

 そもそも私ヨウタって人全然知らないし!」

「嘘つくならもうちょっとマシな嘘つけよ……。

 毎日CMだのテレビだのに出てるんだから知ってるだろ」

「あー、確かに顔くらいは見た事あるかも。

 知らないは嘘だったね、ごめんね」


 遥は手を合わせて軽く謝る。


 そのかわい子ぶりっこかの様な仕草に、静夜は心底イラついた。


「俺は騙されないから」

「へ? 騙す?」


 静夜の言葉の意味が分からず遥は不思議そうに聞き返す。


「俺くらいなら可愛こぶってれば簡単に落とせるとでも思ったんだろ?

 悪いけど……」

「ち、違くて!!」

「何が違うんだよ」


「私は、ただ……



 完全数量限定カップル様限定フルーツシャルロット付きケーキバイキングに誘いたかっただけなの!!」


「……は?」


 突然の予想外な遥の言葉に今度は静夜が面食らった。


「えーと、今、なんて?」


「だから、完全数量限定カップル様限定のフルーツシャルロット付きケーキバイキングに誘いたかっただけで……」



「ごめん、やっぱ意味分からん」


 聞き返してもう一度遥のセリフを聞いたが静夜には理解が不能だった。


 そんな静夜の様子を見かねて遥はゆっくりと説明し始める。


「えーとですね、私甘い物が好きで、ケーキ屋さんによく行くんだけどね」


「うん」


「そのケーキ屋さんで、たまに試作品をイベントで数量限定にして出す事があるんですよ」

「試作品……?」

「うん、そう。

 それでアンケートとって人気だったら商品化するんだ。

 でもそれが毎回カップル限定のイベントでね」

「何でカップル限定?」

「お店としては男性と女性の意見どっちも聞きたいっていう理由らしいんだけどね」


「なるほど」


 説明を聞いている限りでは一見よく出来てるシステムに思える。


「でも私、お恥ずかしい事にこれまで一度も彼氏出来た事なくて……」


「……は?」


 遥の台詞に静夜は目を丸くする。


 誰がどう見ても美少女である遥に恋愛経験がない事に素直に驚いていた。


(いやいや、どう考えても引く手数多だろうに……。

 いや、でもこれってよく考えたら偏見か?)


 変に驚いてしまって失礼にならないかと律儀に考えだす静夜をよそに遥は言葉を続けた。


「それでー、こういうイベントの時はいつも幼馴染のユウちゃんに男装してもらって行ってたんだけど……。


 今回はユウちゃんの家族旅行と日にちが被っちゃって……」


「はあ……」


 それから遥は勢いよく頭を深く下げた。


「なので今週の日曜日私と一緒にケーキバイキング行ってくれませんか!?」


「は!?」


 突然の遥のお願いに静夜が驚いていると、更に遥は畳み掛ける様に言葉を続けた。


「勿論お代は私が全額払います!

 ケーキも苦手なら食べなくても良いです!」


「え、ちょ、ま……」


 静夜が呆気に取られている中、遥はどんどん腰を落とし土下座一歩手前ほどの体勢になった。


「一生のお願いです!

 後生です! 何でもしますから!!

 土下座でも!!!」


「いやもういいから分かったからっ!

 !」


 ヒートアップする遥にかけより土下座を制止しにきた静夜に対し、遥は勢いよく顔を上げ満面の笑みで口を開いた。


「今分かったって言ったよね?」


「い、言ったけど?」


「じゃあケーキバイキング一緒に行ってくれるよね!」

「ま、まあ、それくらいなら……?」


 静夜の返事を聞くと遥は即座に立ち上がり全力でガッツポーズした。



「っっしゃぁぁ!!

 これでフルーツシャルロットは私のもんだぁ!!」


 いきなりの遥の発狂に静夜は目を丸くする。


「あ、葵……さん……?」


「あ、ごめーん私ったら嬉しさでついキャラ崩壊しちゃった!

 後これ私の連絡先!

 詳しい日程とか決めたいから後で連絡してね!

 じゃあね!」


 遥は自分の連絡先を書いたメモを静夜に押し付け、瞬く間に帰っていった。


「……は?



 ……は?」


 静夜は押し付けられたメモを片手に、しばらく混乱し続けるのであった。

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