第34話 君と実家
「あー疲れたー。何か本でも読もうかな……」
静夜はベッドから上半身だけ起こして部屋の隅にある本棚に目を向けた。
「あ、そう言えば……葵さんに本貸す約束してたっけ……」
本を選んでいる途中で静夜は遥との約束を思い出す。
(約束した以上貸した方が良いよな……こないだ少し気まずかったけどあの後は葵さんも普段通り普通に話してきてたし……友達として本貸すくらい別に良いだろうし……)
そう考えながらどんな本を貸したら良いか悩んでいると、ドアがコンコンとノックされ静夜の返事を聞くまでもなくすぐにドアが開いた。
「開けるわよー。ってあんたまた荷物も片付けんでだらだらして!」
「ノックしてから入ってよ母さん」
「したわよ」
「返事する前に入ってんじゃん」
荷解きせずそのままの荷物に文句を言いつつ母親は言葉を続ける。
「静夜、帰ってきてからまだばあちゃんに顔見せてないでしょ?
今起きてるから挨拶してきなさい」
「分かった」
母親に言われて静夜は母親とともに階段を降りて奥の和室へと向かった。
「ばあちゃんただいまー」
それからふすまを開けて布団に横になっている祖母に静夜は声をかけた。
「おお、静夜帰ってきてたんかー。
東京からここまで来るのえらかったろ?
(※疲れたろ?の方言)」
「まあ多少は」
そして祖母は布団から起き上がり棚から財布を取り出して1万円札を静夜に差し出した。
「ほれ小遣い」
静夜は祖母から1万円札を受け取ると、ほくほくとした表情で礼を言う。
「サンキューばあちゃん」
「ちゃんと挨拶したー?
ってお義母さん! 先月も東京行くからって5万ずつ渡してたのにもうあげなくて良いですよ!」
静夜がお金を受け取ったところで様子を見に来た母親がそれに気付き祖母に注意した。
しかし祖母はあっけらかんと笑う。
「もう私も孫の顔見るくらいしか楽しみがないんだからいいのよお金なんて別に」
「学校に沢山お金持ってってトラブルになるかもしれないじゃないですか!
静夜、そのお金はお母さんが預かっておくから」
そう言って手を差し出す母親に静夜は口を開く。
「明日健達と名駅まで遊びに行くからこれ使っていい?」
そう尋ねる静夜に母親は聞き返した。
「静夜、あんた前貰ったお小遣いは?」
「まだ残ってるけど、別に良いじゃん」
「良くない。足りなくなったら渡すからその時言いなさい。
分かったわね?」
そう言って結局お金は母親に没収されてしまった。
「ちぇー」
そう不貞腐れる静夜に祖母はそっと声をかける。
「静夜、もしお金が足りなくなったらいつでも言いなさい。
ばあちゃん出してやるから」
しかし、祖母が小声で話しているつもりの言葉はばっちり母親の耳にも届いていた。
「お義母さん、お金は本当に大丈夫ですから」
母親は祖母の言葉に小さく文句を言う。
「全くお義母さんはすぐに甘やかすんだから……」
そんな母親の小言を無視して静夜は居間のソファに横になり携帯から動画を見始めた。
「ちょっと静夜ー、テレビ聞こえなくなるから音量下げて」
「えー、別にいいじゃん」
「もう、ワイドショー見たいのに!
動画見るなら部屋でも見れるでしょ」
母親の言葉に静夜は面倒そうに言い返す。
「えー起き上がるの面倒」
「もうあんたはすぐにそうやって!」
それから静夜は母親の言葉を無視して動画を見続けていた。
一方遥はと言うと……。
「お父さーんヒラメの昆布締めまだ出来ないかなー?」
「一晩置いておくってレシピにも書かれてただろ?」
「はぁ、そっか~」
冷蔵庫をしばらく眺めていたが、途中から飽きて自室へと戻って行った。
「料理の修行は出来たけど、また暇になっちゃったな……」
遥は部屋のベッドに横になり携帯を取り出した。
「……東くん、今頃何してるのかな……。
岐阜の家にはもう着いたのかな?
確か新幹線で朝早く出るとか言ってたし……今頃お昼食べ終わってゆっくり休んでる頃合いかも……。
久々のお家だろうしゆっくりしたいよね……」
遥はそう推測(大体合っている)しながら静夜の連絡先を眺めていた。
「それはそうとして連絡しちゃ駄目かな~?
いや流石に今日は移動疲れもあるだろうし駄目だよな~。
きっと今頃ソファとかでごろごろしているかもしれないと思うとそんなリラックスタイムを私が電話してぶち壊しちゃいけないよな~。はぁ~」
そうして遥は携帯の画面を閉じた。
「駄目駄目、耐えるのよ私!
昨日まで沢山東くんとお話ししてチャージしたんだし、今日を抜いて後3日耐え切れば……後3日……」
遥は自分に言い聞かせつつため息をつく。
「長いよーゴールデンウィーク前半の3連休も長かったけどさー!
まあでもアクシデントで連休初日に東くんに会えたから実質2日耐えただけだけど! でもこの4連休は確実に会えないってはっきり分かってる訳じゃん!
望みがないのつらたんすぎる〜!」
遥は枕に顔を埋めて足をばたばたとばたつかせた。
「はぁ……こうなったら夢の中で東くんに会いに行こう。
明晰夢なんて見た事ないけどこの冷めやらぬ熱い想いがあればいけるはず! 待っててね東くん!」
そう言って遥が寝ようとした瞬間、母親が部屋に入ってきた。
「ちょっと遥、買い物頼みたいんだけど」
「お母さん、私今から夢の中で東くんに会いに行くから邪魔しないで!」
「あらそうなの?
でも今寝たら夜寝れなくなるわよ?」
「どうせ明日も学校休みだからいいもん」
「そうしたら昼夜逆転になるじゃない。
肌荒れの原因になるし健康にも良くないわよ?」
母親にそう言われて遥は首を横に振る。
「別に私美容とか健康とか興味ないし……」
「あらそう? でも東くんはどうかしらね?」
にこやかに話す母親の言葉に遥は衝撃を受けた。
「はっ!? た、確かに、東くんだって付き合うなら肌が綺麗で健康的な子の方が良いって思うかも……!?」
「なら今寝てないで、健康的に外に買い物に行ってきなさい?」
「分かったよお母さん!
私、買い物行ってくる!」
母親は遥の扱いが上手だった。




