第33話 君と家族
平日の学校が終わり、世はゴールデンウィークの折り返し地点に入った祝日の日。
「あー暇」
遥はやはり部屋でごろごろしていた。
「ひまひまひまー!
あ! そうだ!」
それから遥はおもむろに立ち上がりとある決心をした。
「花嫁修行の一環として料理を練習しよう!」
そう言って遥は早速買い物へと向かうのだった。
一方静夜はと言うと。
「ただいまー」
「おかえりー。
疲れたでしょ? お昼作ってるからちょっと待っててね」
岐阜の実家へと帰省していた。
「昼飯何ー?」
「炒飯と唐揚げ。食べる前に手洗いうがい済ませてよー」
「分かってるって」
静夜は荷物を居間に置いて洗面台へ行きパパッと手洗いうがいを済ませた。
そしてすぐに戸棚からポテチを取り出してソファに腰掛ける。
「腹減ったからポテチ食べるね」
「やめなさい。
お昼もう出来るわよ!」
母親が止める言葉を無視して静夜はポテチを開けて食べ始めた。
「朝食わずに出てきたから腹減ってんだよ。
お昼も入るからへーきへーき」
「もーあんたは家帰った途端にすぐそんなだらけて!」
「久々の実家なんだから少しくらい羽伸ばしたっていいじゃん」
「ああ言えばすぐこう言う!」
母親に文句を言われながらも静夜は無視してポテチを食べていない方の手で携帯を取り出し、LINEを打ち始めた。
静夜「実家着いた」
陽太「今こっちは昼休憩中ー」
静夜「こっちは唐揚げとチャーハン」
陽太「いいなー俺も唐揚げ食べたい」
陽太の返事を見て静夜は揚げ物途中の母親の背中に大声で声をかける。
「母さーん、陽太も唐揚げ食べたいってさー」
「はいはい、明日の分も残してるからって言っといて。
後あんたはいい加減お菓子食べるのやめなさい」
母親がそう静夜に言うが、静夜は無視してポテチを食べながら陽太にLINEを打った。
静夜「明日の分もあるって。良かったな」
陽太〈グッドポーズのスタンプ〉
陽太からLINEが来たタイミングで母親はお皿に唐揚げと炒飯が盛られた皿を静夜の前にある机に置いた。
「ほら出来たから食べなさい」
「ちょっと待ってもうこっちも食べ終わるから」
「結局1袋食べたのあんた」
母親が呆れながらため息をついた。
「全く、あんた学校でもそんな風にしてるんじゃないでしょうね?」
ポテチを食べ終わり手を洗って戻ってきた静夜に母親は尋ねる。
「まさか。学校では普通にしてるよ。
いただきまーす」
「あっそう。
ところで学校では新しい友達とか出来たの?」
「うん」
「好きな子とか出来た?」
母親の唐突な質問に静夜は思わず炒飯を吹き出しそうになる。
「出来てねーよ別に!」
そうぶっきらぼうに言う静夜に母親は残念そうに口を開く。
「あらそう、つまんないわねー」
「まだ入学して1ヶ月だぞ?」
(まあ何故か好かれてる女子ならいるけど……)
静夜は母親に突っ込みつつ遥の事を思い出した。
「それと陽太も元気にしてる?」
母親に尋ねられ静夜は素っ気なく返事をする。
「元気だよってか明日帰って来るんだからそれで分かるだろ」
「まあそれもそうだけど一応聞いとこうと思っただけよ」
「一応ってなんだよ一応って」
母親の言葉に静夜は突っかかる。
因みに陽太は今日まで撮影が入っており、明日から帰省予定であった。
「ねえ母さん」
「何よ?」
お昼を食べ終えた静夜は食器を片付けに来た母親に質問した。
「ばあちゃんのヒラメの昆布締めないの?」
静夜の問いに母親は笑って答える。
「あんた本当にあれ好きよねー。
ちゃんと今晩の為にって用意してるから安心しなさい?」
「やった」
母親の言葉に静夜は小さく喜んだ。
「ほら食べ終わったんならいつまでもソファに座ってないで、転がってる荷物部屋に置いてきなさい」
「はいはい」
母親に言われて静夜はゆっくりソファから立ち上がり荷物を持って2階の自室へと向かいだした。
それから荷物を部屋に置いてベッドにそのままダイブした。
「はあ~実家楽~」
静夜は1ヶ月ぶりの実家を満喫していた。
一方遥はと言うと……。
「駄目です」
「どうして!? どうしてなのお父さん!?」
料理の材料を買って戻ってきた遥が台所へと入ろうとしたところに、父親が立ち塞がって遥の侵入を阻止していた。
「お前前に台所を火の海にしかけた事を忘れたのか?」
「そんなのもう2年も前の話じゃん!
私ももう高校生になった訳だし!
それにやっぱり女子として料理ぐらいは出来る様になりたいし!」
「今の世の中男だって料理する時代だ。
お前は諦めて料理上手な男を見つけるんだな」
そう言い切る父親に遥は訴える。
「いやお父さん、いくらなんでも諦めすぎじゃない!? 私だってまだまだこれから料理スキルが成長するんだよ! 今どん底という事は伸び代しかないって事だよ!?」
「お前のそのポジティブな考えは凄く良いと思うが、まだローンが残ってるこの家を失いたくないんだ」
「お父さんそんな生々しい現実娘に言わないでよ!
というか娘の頑張りを応援してよ!」
遥の懇願に父親は頑なに首を横に振った。
「頼むから諦めてくれ」
「お願いだから諦めさせようとするのを諦めてよお父さん!」
両者の激しい攻防の末、遥はなんとか父親の見張り付きでの台所の立ち入りが許可された。
「やったーこれで料理が作れるぜー!」
「はぁ……。
ところで何を作る気なんだ?」
ため息をつきながら渋々聞いてきた父親に遥は笑顔で答えた。
「ヒラメの昆布締め!」
そう言いながら遥がウキウキでまだ捌かれていないヒラメを取り出した。
「いや待て、ちょっと待て」
早速ヒラメを捌こうと包丁を手に持つ遥を父親が止めに入る。
「何で急にヒラメの昆布締めなのかはひとまず置いとくとして、何で切り身じゃなくて本体を買ってきたんだ?」
父親の問いに遥は笑顔で答えた。
「え~だって切り身だったら簡単そうじゃん!」
「お前は超がつくほどの料理初心者だって自覚がないのか?
無理せず簡単な方でやりなさい」
父親の言葉に遥は真顔で答える。
「でもそれじゃあ何か料理してるって気にならないじゃん。
なんかこう、苦労して作った方がやり甲斐があるというか」
「怪我する前にやめなさい」
そうしてヒラメ(本体)は父親に奪われてしまった。
「うわーん何するのお父さん!
折角豊洲まで行って粋の良いヒラメ買ってきたのに!」
「わざわざ料理の練習の為に豊洲まで行ったのか!? 一体いくらしたんだこれは!?」
「貯めてたお小遣いで買ってきたよ!」
「全くお前は本当に……!」
父親は遥の行動力に呆れつつも、動画を見ながらヒラメを捌きだした。
「わあお父さん上手ー」
「遥、何事も無理は良くない。
今度から出来る範囲でやりなさい。
分かったな?」
「はーい」
その後父親が捌いたヒラメの切り身を使って遥が昆布締めを作り出そうとしたのだが……。
「あ、昆布千切れちゃった」
「遥、それは塩じゃなくて砂糖だ」
「あれ?」
結局ほぼ父親が手伝ってやっとヒラメの昆布締めが形になった。
「後は冷蔵庫で置いとけばいいのかー。
お父さん、明日が楽しみだね!」
「ああ……。
(物凄く疲れた……だけどこれからヒラメを捌いたせいで汚れたところもしっかり掃除しなくては……)」
満足そうに笑う遥の横で遥をフォローし続けていた父親はこれからの台所の掃除の事を考えて肩を落とすのであった。




