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第3話 君と取り巻き

 昼休みに入ると遥の周りは瞬く間に陽気そうな男子生徒達で埋め尽くされていた。


「一目惚れしました!

 付き合って下さい!」

「ごめーん、流石に会ったばっかりの人とは付き合えないかなー」


 いきなり告白してきた男子生徒に対し遥は笑顔で対応する。


「やっぱりダメかー」

「いや告るの早っ!

 てか彼氏いるの?」

「いないよ」


 遥の返答に辺りが更にざわめきだす。


「マジか、彼氏居ないんだ?」

「どんなタイプが好き?」

「えっとねー」


 遥が丁寧に質問を返してはまた質問を繰り返す男子生徒達のやり取りを陰から他の男子達は恨めしそうに眺めていた。


 一方静夜は一目散に図書室へと逃げていた。


 




 その様な状態が数日続いていたのだが……。


「東くん昼休みすぐどっかに消えるよね?

 どこ行ってるの?」


「え? 図書室に行ってるけど……。

 何で?」

 

 授業の途中先生の目を盗んで質問してきた遥に静夜は驚きつつも返事をする。


 まともに遥と話すのは以前の自己紹介以来だった。


「いやー、なんか逃げ慣れてるなーって思ってて不思議でさ。

 もしかして東くんも人気者だったりしたのかなーって思って」


 遥の言葉にドキリとする。


「別に……そんなんじゃないよ」

「ふーん、そっか」


 因みに遥と話していても静夜は前ほど男子に睨まれる事はなかった。


(みんな俺は特に恋敵にはならないと安心してるんだな……)


 その様子にホッとしている間に鐘が鳴り、静夜はまたすぐに図書室へ向かおうとした。


 しかし、それは廊下にいた者によって妨げられてしまった。


「おーい、静夜ー」


 廊下から静夜に声をかけたのは、今をときめく大スター、小鳥遊学園芸能科1年の東陽太(あずまようた)だった。


「あ、陽太!?

 何でここに……!?」


 静夜が驚いている中、教室からも驚きの声が飛び交う。


「え!?

 東陽太くん!?」

「うわー本物の陽太くんだー」

「男から見てもかっこいいなーやっぱ」

「すげー」

「東陽太って確か双子じゃなかったっけ?」

「双子の弟って……もしかして東くん!?」

「えー! 東くんのお兄さん陽太なの!?」


 教室から漂う視線を浴びて、静夜は諦めた様に軽くため息をつき、陽太に声をかける。


「昼休み始まってすぐ普通科に来るなんて、どうしたんだよ?」

「前の授業自習だったから早目に教室抜けたんだー」

「いや鐘が鳴るまでは教室に居なきゃ駄目だろ」

「まあちょっと急いでてさ……次数学なんだけど寮に教科書忘れちゃって取りに戻ろうかと思ったんだけど、そういや静夜に借りた方が早いと思って」


 陽太から事の次第を聞いた静夜は、机から数学の教科書を取り出して廊下にいる陽太に窓越しに差し出す。


「はぁ……相変わらず抜けてるよな全く。

 はい数学の教科書。返すの寮帰ってからでいいから」

「おお、サンキュー」


 静夜から教科書を借りた陽太は笑顔でお礼を言った後芸能科の教室の方へと戻っていった。


 その後、今度は一部の女子達が一気に静夜の元へと集まりだした。


「ねえ東くん!

 陽太の弟なの!?」

「あの、東くん、私陽太くんのファンで……」


 そんな人だかりの中、一部のクラスメイトは陰でひそひそと話し出す。


「てか全然似てないよね」

「本当に双子なのかな?」

「二卵性? だっけ。

 お兄ちゃんに全部持ってかれちゃってるよねー」

「ねー、なんか可哀想……」



 クラスメイト達が騒ぎ色々な言葉が行き交っている中、静夜は冷静に現状を眺めていた。


(まあいずれバレるとは思ってたし……)


(また「ただの東静夜」から「東陽太の弟」に戻っただけだ)


(いつも通り女子は適当にあしらって……)


「あの」


「こらー!

 そこの女子達ー!」


 静夜が寄ってきた女子に声をかけようとしたら、横にいた遥が静夜の前へと進み出た。


「そんなに質問攻めしたら東くん困っちゃうでしょ!」


 そう真面目に注意する遥に女子達が苛立ちながら話す。


「は? 別に良いじゃん」

「てかあんた何様のつもり?」

「可愛いだけでなーんも取り柄なんてない癖に」

「男にちやほやされてるからって調子に乗ってさ」

「かわいこぶってんのキツいわー」


 静夜に群がっていた女子達は前から遥を毛嫌いしていた為、ここぞとばかりに遥に暴言を浴びせた。


「おい、いい加減やめ……」


 静夜が女子達を止めに入る前に、遥は口を開く。


「そうだよ?

 可愛いのが取り柄だよ? 悪い?」


 堂々と言い切る遥に一瞬女子達は面食らってしまい言葉が出なくなる。

 その隙に更に遥は言葉を続けた。


「そもそも可愛いのも才能の1つだし?

 全っ然悪口にすらなってないから!」


「……はぁ!?

 可愛いからって調子乗んなこの……っ!」


 言い返す言葉が思いつかず1人の女子が遥に手をあげようとするが、それを背後から来たユウが手を掴み阻止する。


「なっ! 離せよ!?」


「おめー今遥に手ェあげようとしたな?」


 ユウは掴んだ女子の手を更に力強く握った。


「痛っ!」


「私の幼馴染に手ェだすんなら、私も容赦しねぇぞ」


「ひぃ!」


 ユウは睨みながらドスの低い声で静かにそう宣言する。


「謝れ」


「ご、ごめんなさい!」


「もう2度とすんな」


「は、はいぃ!」


 女子は手を離されると他の女子達とともに走り去っていった。


「きゃーユウちゃんカッコいい!

 ……痛っ!」


 ユウに抱きつこうとする遥の頭をユウが軽く小突く。


「お前も煽るんじゃない」

「私別に煽ったつもりないよー。

 事実を言ったまでで……」

「分かったからもうこれ以上口開くな。

 面倒事増やすな、いいか?」

「はーい……」


 そんな2人のやり取りを静夜は呆然と眺めていた。


(何か声かける前に色々と終わってしまった……。

 というか俺助けられたんだよな?)


「あの、葵さん、河合さん、ありがとう……」


 静夜が礼を言うと、遥は得意気に話しだした。


「いやいや~それほどでもないよ~」


「お前は更に状況悪化させただけだろ。

 東、別にこいつが勝手にしゃしゃりでただけだから、お礼なんて気にしなくていいよ」

「ええ~? そんな事なくない?

 ……ってもう席戻ってるし!」


 遥が言い終わる前にユウはさっさと席へと戻っていった。


(河合さんってカッコいいな……)


 そんなユウに少し憧れる静夜なのであった。


 そうしている間に鐘が鳴り慌ただしかった昼休みは終わりを告げた。


 その昼休み以降、ユウを恐れた女子達は誰も遥と静夜に近寄らなかった。

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