第2話 君と自己紹介
「あんな可愛くて普通科とかマジかよ……」
「どうする? 話しかける?」
クラスの男子達の視線を集めている遥に対し、一部の女子達は面白くなさそうに遥の事を睨んでいた。
「うわー。あの子如何にも男子受け狙ってそう」
「性格悪そうだよね」
そんなクラスの様子にユウはやれやれと呆れながら遥に声をかける。
「全く、外野がうるさいね。
直接声かけない癖に陰で言いたい放題とか」
「ルカちゃん、大丈夫?」
ハルに心配されて遥は笑顔で答えた。
「うん! 慣れてるから!」
「……そっか。まあルカちゃんなら大丈夫か!」
「うん!
後ユウちゃんも周りを睨んじゃ駄目だよー、折角の別嬪さんが勿体無いよ!」
「別にベッピンじゃないし睨んでもいないから」
ユウはやや怒り気味にぶっきらぼうに答える。
因みにユウもかなりの美形であり、女性にかなり人気があるイケメン女子である。
それと本人は美人だの可愛いだの言われるのが苦手である。
反対にハルは小柄でほんわかとした見た目をしている。
……しかし、零関連の話になると興奮しやすい。
そして遥は誰が見ても羨ましい程の美少女であり、それは本人も自覚している。
「まあ、周りの視線を集めちゃうのは私が可愛すぎるのが悪いからね!
いや~可愛すぎるのも罪なものだよね!」
「本当ルカちゃんって鋼メンタルだよね」
てへぺろとわざとらしくポーズをとって見せる遥に対してハルは呆れながら突っ込んだ。
そんな遥に一目惚れした男子と、恨めしそうに睨みつつ実際本当の事なので何も文句が言えない女子の中、本を片手にその状況を静観している少年がいた。
(あんな可愛い子でも普通科に入るんだな……。
芸能科なら顔だけで一発オッケーもらえそうなのに……)
そこまで考え東静夜は視線を遥から手に持っている本へと移した。
(いや、あの人にもあの人なりの事情があってここに来たんだろうし、勝手にそんな事考えてる俺もお門違いが過ぎるだろ……。
そもそも同じクラスってだけで今後ほとんど関わらないだろうし……。
もし関わったとしても、どうせそれは俺と関わりたいんじゃなくて……)
静夜は一旦目を閉じ、一呼吸した後再び目を開いた。
(……いや、考えるのはやめよう。
本に集中しよう)
それから担任の先生が来るまで、遥のせいで喧騒とするクラスの中静夜は静かに本を読んでいた。
「おーいみんなホワイトボードに貼ってある貼り紙通りに席に着けー」
スーツ姿の男性教師が教室へ入り開口一番にそう発すると、各々全員自分の席へと戻り座り出した。
最初から自分の席に着いていた静夜は、空いている前の席に座った人物を見て驚愕する。
(何で……)
(何でよりにもよってこの人が前の席なんだ!?)
静夜は前に座った遥の後ろ姿を一瞥した後、恐る恐る辺りを見回す。
すると、男子達が恨めしそうに静夜を睨んでいた。
「くそ! 席遠いじゃねーか」
「てか、あの子出席番号1番なんだ」
「うわー後ろのやつ羨ましいなー」
「まあでも見た目地味っぽいし、敵ではないな」
「確かに~前髪長いし暗そーだし、陰キャじゃね?」
(目立ちたくないのに、なんか変に悪目立ちしてるし……)
(初日早々最悪……)
「はい、そんじゃあ次は出席番号順に自己紹介。まずは葵さんからな」
静夜が静かに落ち込んでいる間に先生の簡単な自己紹介が終わり、遥は立ち上がって自己紹介を始めた。
「葵遥です!
星野中学出身です!
部活は帰宅部でした!
一言コメントは……この苗字のせいで毎回出席番号1番になるのが地味に嫌です!
よろしくお願いしまーす!」
元気良く自己紹介を済ませた遥に(主に男子達からの)拍手喝采が起こる中、静夜は更にプレッシャーを感じていた。
(こんなのの次に自己紹介とか普通に嫌だ……)
一瞬躊躇うものの渋々立ち上がり静夜も自己紹介を始める。
「東静夜、です。
岡中学出身です。
部活は帰宅部で、一言コメントは……読書が趣味です。
よろしくお願いします……」
静夜の自己紹介には先ほどと打って変わって申し訳程度の拍手が送られた。
(まあ、そりゃそうだわな……)
静夜は納得して席に着き、その後もスムーズに自己紹介が続いていった。
そんな中、途中で遥が後ろへ振り向き静夜へと声をかける。
「東くんだっけ?
よろしくね!」
「え!?
あ、よろしく……」
突然の声かけに静夜はびっくりつつも返事をする。
何故急に……と一瞬考えが頭をよぎった静夜だったが、それはすぐに解消された。
「ハル! 席並んでなかったね」
「そうだね~あから始まる苗字って結構多いんだね~」
遥は静夜の後ろの席の天江春香へと声をかけた。
「あ……なんか悪いな。俺の苗字のせいで間に入っちゃって」
申し訳なさそうに身を縮める静夜に、遥はいやいやと手を振る。
「別に気にしなくて良いよ!
というか、今後多分ハルに話しかけるのに後ろ振り向いちゃったりするかもだから、東くんの方に迷惑かけちゃうかもだしー」
遥が楽しそうに話している間にも、静夜の背中には男子達の恨みの視線が突き刺さっていた。
それを察したのか、遥は手を合わせて謝ってきた。
「むしろもう迷惑かけちゃってるね?
ごめんね?」
そう謝る彼女の仕草も可愛らしく、更に男達からの視線が痛くなってきた。
(……今後は葵さんになるべく関わらない様にしよう)
静夜は静かにそう決意した。