第12話 君とハンカチ
「……るかっ!
遥っ……!」
「……うん?」
遥が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
「お……お母さん?」
「あんた学校で額を壁打ちつけるって何があったのよ一体!?」
母親の叫び声に耳がキーンとなりつつも遥はへらへらと答える。
「え、えーと……実は好きな人が出来てさ~」
「あら! あんたにもとうとう春が来たのね~!」
「そうなの! でも今日その人に声かけられなくて、自責の念で壁に頭を打ちつけちゃって……」
「分かる分かるぅ~! お母さんもお父さんと初めて出会った日に一目惚れして混乱して壁に頭打ちつけて救急車呼ばれたのよ~」
「え~お母さんもなの~!?」
「それでどんな子なの~?」
「同じクラスの男の子で~」
遥と母親が恋バナに盛り上がるなか、遥の父親は申し訳なさそうに医師に頭を下げた。
「すみません、うちの者がうるさくて……」
「いやいや、元気で良い事ですよ。
脳にも骨にも異常ないし、もう娘さん帰ってもいいですよ。
明日は学校行っても良いですけど、体育などの運動は明日1日休んで様子を見て下さい。
何かあったらすぐ病院に連絡して下さいね。
それじゃあお大事に」
「ありがとうございます」
こうして遥は両親と病院を出て、車の後部座席に乗り込んだ。
「学校から連絡があって心配したぞ本当……」
「でも何事もなくて良かったわ~」
父親はため息をつきながら車を走らせる。
その横の助手席で母親はにやにやと満面の笑みを浮かべていた。
「ごめんなさーい……」
「全く、遥を見てると昔の母さんを見てるみたいで心臓に悪い」
「あら~遥は確かに私に似て美人に育ったものね!」
「まあ、そうだがそれ以外でもだな……」
ややお叱りモードの父親に遥はしゅんとする。
それを見かねた母は遥の方へと振り向きながらこそっと話しかけた。
「遥、お父さんはね……大事な1人娘が他所の男の子にとられるのが心配でピリピリしてるのよ」
「うちの大事な1人娘が壁に頭を打ちつける奇行に走った事に怒ってるんだ」
母親の言葉に父親は冷静にピシリと返す。
「遥、今後は頼むから病院沙汰だの警察沙汰だのになる様な事はくれぐれも起こさないでくれ」
「はーい……(最早警察沙汰まで起こした前提で話されとる……)」
「相手の子にも迷惑がかかるからな」
「う〝っ」
父親に言われて遥は放課後の事を思い出した。
(東くんに迷惑……かけちゃったよね?
よく憶えてないけど、確か自分の不甲斐なさに頭を打ちつけてたら東くんの声がして……)
(そんで頭痛くて東くんに冷やしてもらって……)
(--冷やしてもらって!?!?)
(いやあの時今思い返せばかなり距離感近くなかったっ!? 頭痛すぎて思考力落ちてたけどあの距離なら東くんの匂いを堪能出来たのでは!? 寧ろ今思い出せるか!? いや無理だ流石に人間の鼻は犬と違って嗅いだ匂いなんて覚えられない流石の私にもそこまでは無理だ。ああなんて事だ東くんを近くに感じられるチャンスだったというのに頭痛の馬鹿でもその頭痛のお陰で近づけたというジレンマ……というか)
(東くんの持ってるハンカチで私頭押さえてたよね!?!?)
(東くんの温もりが感じられたかもしれないハンカチという神アイテムをしかし私の頭を冷やすアンド止血の為に濡らされてしまったなんて由々しき事態! そのまま濡らさずハンカチ充てて欲しかった!! いやしかし実際頭痛かったし冷えてて気持ちよかったです最初の方は! 途中から温くなってきたけど私の体温のせいで!
……てかあれハンカチって結局どうなったんだ……!?)
「お、お母さん……ハ、ハンカチって……」
遥のか細い問いに母親はああ、と鞄から紺のチェックのハンカチを手に取り遥に見せた。
「これ遥のじゃないわよね?
綺麗に洗っとくから、明日でも返しなさいね?」
「あ、あ、あああああああ!!!!!!」
ハンカチを見た途端、遥は今日あった事が全て現実だった事に歓喜し勢い良く鼻血が吹き出した。
「ちょっ!? 遥すごい鼻血の量よっ!?」
「はぁっ!? 待て今一旦Uターンして病院戻るから!」
結局病院へ戻り止血して貰いました。
おまけ。
その後就寝前。
遥はベッドに入るもののまだ興奮が治っていなかった。
「はぁ~今日は本当に良い日だったな~ハンカチまで貸してもらったしお礼持ってった方がいいよね? 会話するチャンスが増えてラッキー……」
(というか、私どうやって保健室行ったんだっけ……?
確か倒れる直前東くんが近くに感じられた気がする……)
(……?)
(--っ!?)
遥は倒れる直前の記憶を思い出した。
「うあああああああっっっぁっああっ!!??」
「遥うるさい! ご近所迷惑になるからやめなさい!!」
この後滅茶苦茶お父さんに怒られました。




