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004 ゴブリンダンジョンで楽々ゴブリン退治!

「はい。こんにちはー。ダンジョン配信者のハルカです!」


『待ってました!』『もっとおいしい奴教えて!』『はよ』


 オレは昨日の夜、昨日行った配信を簡単に動画にし、編集して投稿した。

 それと同時に、ダンジョン特別ライセンスを取得して装備をレンタルする初心者向け動画も投稿した。

 結果、わりと反響はあった。

 オレのチャンネルの登録者も1000人ほどに増えている。

 たった一日でこれだけ増えたのだから上出来だ。

 人はお得情報に弱い。

 それは過去も未来も変わらないようだった。


「今日はこのゴブリンダンジョンに来ています!」


 今日この日オレがゴブリンダンジョンに来ることはあらかじめ決めていた。

 なぜなら今日は、とある事件が起きるからだ。

 2013年6月21日という日付までしっかり覚えていたのは、オレは他の人間の動画をたくさん作らされていたからだ。

 配信者の動画だけじゃない。『噂の真相!』みたいな下世話な胡散臭い動画もだ。

 わかっている事実をベースに、勝手な推測をさも真実のようにそれらしく語るクソ動画だ。

 そうは思っても、契約上オレは作らざるを得なかった。

 その動画で取り扱った事件だったのだ。


 オレは最初は普通に動画の撮影をしていく。


 そして、ダンジョン内で現れたゴブリンをギルドでレンタルしたこん棒で殴り倒していく。

『武器がこん棒で草』


「やー。低レベル帯の刃物だとすぐに欠けるし、血と脂で切れなくなっちゃうんすよね。だからこん棒おすすめですよ。丈夫だし」


『あたまわるそう』


「ひでえ。めっちゃいいのに」


『IQ低そう』


「IQは5000くらいですねー」


『草』『絶対低い』


 そんなやり取りをしつつ歩く。

 あるときオレが地面を踏むと『カチリ』と音がした。

 そして地面が光を放つ。


 罠だ。


 ゴブリンがオレの周りに複数出現する。モンスター召喚の罠である。

 それをこん棒でボコボコボコン。


『罠踏んでて笑う』


「いやいや。これを探してたんですよ」


『さすがに強がりだろ』


「その証拠に見てくださいよ」


 オレはリュックに括り付けてた槍を手に取り、リュックからブツを取り出した。


 それは『漁師のためのプロ用投網』である。


『網……?』『それで捕まえたりするん?』


「投網を、とりゃー! って投げます」


『そこ誰もいないが?』『ジョークか?』『ま、まさか……!?』


「お。カンのいい視聴者さんはわかったようですね。そのまさかです」


 オレは地面に投網を広げて設置すると、少し離れた位置から槍で『モンスター召喚の罠』を叩く。


「こうするとですねー」


 投網の中にゴブリンが複数出現した。しかし狭すぎて移動もできず、投網を破ることもできない。

 ぎゃ、ぎゃぎゃ。ぎゃぎゃぎゃ。とゴブリンの焦ったような声が聞こえてくる。


「こうなっちゃうんですよね。そこを上からこん棒でぼこぼこりんっと」


『うわグロ……』『何もできないまま殺されていくの可哀相……』『ゴブリンは小鬼だけど配信主は鬼じゃん……』


「そんでもう一回ですねー」

 槍でスイッチを押して、こん棒でぼこぼこ。

 ゴブリンの死体はダンジョンに吸収されるように消えていく。

 そしてドロップアイテムだけが残る。


「はいもう一回」


『ゴブリンさんかわいそう……』『うまれたよー!→即死。慈悲はないのか』『これと比べたらセミさんですら圧倒的長寿』『反撃できない相手を一方的に殴るのめっちゃ楽しそう。興奮する』


 ちょっとヤバいコメントがきたのでオレは触れなかった。


『でもこの手使ったらなんでも勝てるんじゃない?』


「なんでもじゃないですよ。勝てる敵だけ」


『勝てる敵?』


「特に力強いやつとかだと投網やぶっちゃうし、魔法使えるやつだと普通に危ないですね。まあ、通常通り戦うよりは有利ですけど」


 そういって何度も罠を槍で押していく。


「それで、ダンジョンの意思ってのがあるとオレは思うんですよね。だからこういう荒稼ぎしてると――」

 と言っていると、召喚の罠が青い光を放った。先ほどまではずっと白い光だったのに。


「言ってるときましたね。ユニークです。こういう召喚の罠を使って荒稼ぎしてると、罰するために違うのが来ちゃうんですねぇ」


 青いゴブリンが出現した。

 通常のゴブリンとは違い、このブルーゴブリンは肌の色が深い青色で、体の隅々に輝く鱗が散りばめられている。

 目は黄金色で、普通のゴブリンの愚鈍な瞳とは違い、知性と凶暴性を兼ね備えた鋭い光を放っている。


 このブルーゴブリンはユニーク種として知られ、通常のゴブリンよりも頭一つ分大きく、筋肉もより発達している。

 その手に持つ武器もただの棍棒ではない、鋭い刃のついた骨製の戦斧で、振り下ろされると簡単に鎧をも貫く力がある。


 動きも素早く、通常のゴブリンがただひたすらに襲いかかるのに対し、ブルーゴブリンは戦場を冷静に観察し、状況を把握してから攻撃を仕掛ける。

 それはまるで経験豊富な戦士のように、戦術的な動きをするのだ。


 そして何よりも恐ろしいのはその声。通常のゴブリンが発するギャーギャーとした騒音とは違い、ブルーゴブリンの声は低く、うなりを上げるような音で、聞く者の心に深い恐怖を植え付ける。


『マジかよ。なんでわかるの?』『てかブルーゴブリン強いぞ。逃げろ!』


 しかしブルーゴブリンは投網にとらわれていた。


「あ。大丈夫です。ダンジョンの意思はそんなに万能じゃないんで」


 ブルーゴブリンは投網で動けなくなっており、鋭い瞳もどこか困惑するような色を浮かべている。


 ちなみに称号を授けてくれるのもダンジョンの意思である。

 少なくとも未来ではそう言われていた。


 常に逃げていると『チキンマン(足が速くなる代わりに攻撃力が下がる)』などと、マイナス効果のある称号を与えられたりもする。


「なのでもうしばらくはブルーゴブリンがでてきますね。やりすぎるとどんどん強くなります」


 言いながらオレは動けないブルーゴブリンをこん棒で投網の上からボコボコにする。

 普通のゴブリンよりは耐えたが、次第に動かなくなっていく。


『マジでなにもんだよ……』『宇宙人かも』『未来人か?』『超能力者だろ』


「そんでこいつ……これなんですよね」

 オレはブルーゴブリンのドロップした、薄く緑かかった銀色の鉱石を見せる。


「じゃーん。ミスリル~~」


『は!?』『超高級素材やんけ!』『さすがに仕込みだろ』


「本来の適正階層ではないところにでるユニークは、レアドロップを落としやすいんですよね。ブルーゴブリンのレアドロップはミスリル鉱石なんですよ」


 言いながらオレは罠を連打し、ついでにゴブリンもこん棒で連打する。


「ちなみにレベルも上がるので、初心者さんは昨日のスライム狩り動画を参考にした後は、このゴブリン狩りも参考にしてくださいねー」


『マジで参考になる』『初心者でもできそう』などという絶賛のコメントがたくさんよせられる。

 その中に『いや、投稿主は技量がないだろ。こんなズルばっかして』などというコメントもあった。それに同調するコメントもあったがスルーする。


 そうしていると、オレの配信にとあるコメントが来る。


『ヤバい! その下の階にユニークがいる! もっと下の階から連れてこられたみたい』


 モンスターはなぜか階段を上り下りすることは通常ない。しかし、たまにできるものがいるのだ。特に探索者を追跡していると、そういう行動をするパターンは増えるらしい。


――来た。

 オレはそう思った。


「お。ユニークですか。ちょっと見に行ってみましょうか」


『やめとけ。マジでやめとけ』『ええやん。いけいけ』『煽るな! マジでやばいんだって。5階層で湧いたユニークな上にめちゃくちゃ強いユニークだから! 煽ったやつ人殺しだぞ!』『頼む配信主、やめてくれ。俺らに有用情報を教えてくれたお前が死ぬの見たくない』


「大丈夫ですよ。見るだけ見るだけ」

 オレは軽いノリで階段を下りていく。


 今日は本来、将来を嘱望されたとある少女が行方不明になる日である。


 小早川沙月。

 天才剣士であり、人気の動画投稿者。

 彼女は、今日いなくなる。


 実力もないのに深い階層にいき、ユニーク種を連れてきた探索者のせいで、ユニーク種のゴブリンにさらわれるのだ。


 彼女が生きていればどこまで強くなれたのか、という議論は未来でもたくさんされていた。


 オレは今日彼女を救う。


――そしてバズる!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 知識を使って成り上がろうという意識があるの良いですね 偶然助けるとかじゃなくてバズる!って貪欲なところ好きです
[気になる点] 動画ってどうやって撮ってるのですか? 自撮り棒?ドローン?
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