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033 迷惑系配信者さん、よろしくね

 アンケート用のスレッドが立てられ、G〇〇GLEのサービスにて集計がされていく。

 投票は次々に集まっていく。


 ハルカのハンデはハルカにとって不利なものが続々と集まっている。


 蒼獅が負けた場合の罰ゲームも投票が集まっていく。

 その結果は見えたものだった。


 ◇一位『アニコス喫茶』アニメのコスプレでファン向けに喫茶店で接客(4320票)

 ◇二位『ファンとのデート』デートイベント開催。抽選で100名(3218票)

 ◇三位『ファンが選んだ相手に突撃!』ファン投票で天罰をくだしたい相手を決めて、蒼獅が突撃(2842票)

 ◇四位『新衣装で一ヶ月活動』ファン投票で選ぶ新衣装(2602票)。


 こういった感じだ。


 どれも大した罰ゲームではない。

 むしろファンが喜ぶイベントでしかない。

 これはチャンネル登録者数の差が出た結果となっている。


 また序盤に蒼獅は、自分のファンにDMを送りまくり、投票を誘導していた。


 ハルカのファンが力を集めてくれているであろう投票は五位だ。

 ◇五位『蒼獅が金一億円をハルカに払う』。

 これは2565票だ。


「ははは。俺ちゃんとの人気の差がでたなぁ? ハルカちゃん」

 蒼獅はにやにやと笑いながら言った。


「そういえば蒼ナントカさん、ファンに頼んで投票誘導してたよな?」


「はっ。汚ねえとかいうつもりですかァ? そんな取り決め、してなかったよなぁ~?」


「全然いいんだけどさ、オレもやってもいいってことだよな?」


「おう。やりたきゃやれやれ。愛され具合が違うんだよ。チャンネル登録、五十万と十万の差がでたなぁ? 俺ちゃんのほうが四十万すげえんだよ、ハルカちゃんよりな」


 スマホをぽちぽちするオレを、蒼獅が見下すような顔で見ていた。


 まずオレはツヒッターで今回の決闘を宣伝した。


 それからこっちが本命。

 蒼獅アンチスレにこの決闘の存在を暴露したのだ。


【これ見て。蒼獅が決闘するらしいぞ! 蒼獅の罰ゲームアンケートで決まるってよ!】


【草www 蒼獅負けろwwww】

【恨みばっか買ってるからだwwwww】

【このハルカっての誰?】

【うっわ。アンケート結果つまんねえ! こんなのファンイベじゃん!】

【ハルカが勝って一億円ってのに投票する? いや、それもつまんねえよなあ……】

【これ、よくない……!? 十票しか入ってないけど、これしかなくない……!?】


「お。アンケートの投票数が少し動き出したな」


 一つ、急激に伸びてくる結果があった。

 それは下位層をごぼう抜きにして、すでに五位に迫っていた。


 ◇六位『尻花瓶』この美しい花瓶にいくらの値をつける!? 状態で蒼獅をオークションに出す。蒼獅は購入された人の家で一日花瓶をする。


――これは、いったい?


 蒼獅も同じことを思ったようで、検索をしはじめる。

 オレも同様に検索を始めた。


 結果、オレは――ぶはっと吹き出してしまった。


 蒼獅は顔を青くしている。


「いや、だが、まだ一位はアニメコスプレだ……。俺ちゃんまだ大丈夫だ……」


 そう言っている間にも、尻花瓶は五位を抜き、四位も抜いた。


「ハルカ! お前、何をした……!?」

 蒼獅が怒鳴った。


「いやぁ、人の恨みって怖いなぁ。蒼ナントカさん。チャンネル登録者数十万と五十万の差が出ちゃったなあ。広く知られてる分、嫌いな人も多いんだなあ」

 そう。蒼獅はその配信スタイルから、アンチを数多く抱えているのだ。


「なんだと……!」


「ちょっとアンチスレに書きこんじゃった☆」


「ず、ずるいぞ……!」


「蒼ナントカさんこそ自分のファンたちに頼んで誘導してたよね?」


 残り時間は三十分だった。


「クソ……! そ、そうだ!」

 蒼獅はまたDMをどこかに送った。

 その結果、二位、三位、四位などにあった蒼獅ファンの投票が減っていく。

 一位のアニコス喫茶の投票がぐんぐんと伸びていく。


「はは……! 一つに投票をまとめれば、追いつけるわけがないんだよねぇ~! このペースなら絶対になぁ~!」


 ◇一位『アニコス喫茶』アニメのコスプレでファン向けに喫茶店で接客。12642票。

 ◇二位『尻花瓶』この美しい花瓶にいくらの値をつける!? 状態で蒼獅をオークションに出す。蒼獅は購入された人の家で一日花瓶をする。6524票。


 残り十分。


 ハルカ陣営も、金銭を蒼獅からハルカに払わせる票から『尻花瓶』に切り替えていく。

 ◇一位『アニコス喫茶』アニメのコスプレでファン向けに喫茶店で接客。20142票。

 ◇二位『尻花瓶』この美しい花瓶にいくらの値をつける!? 状態で蒼獅をオークションに出す。蒼獅は購入された人の家で一日花瓶をする。14123票。


「ははは! 俺ちゃん大勝利だぜぇ~」

 と蒼獅が言った時だった。


 ぐんぐんと、尻花瓶の票が増えていく。


「そ、そんな……!? なぜ――!?」


 19000……20000……21000……22000……。


「ひ……ひいい」

 蒼獅が驚愕の声をあげる。


 まだ数値は上がっていく。

 30000……40000……50000……。


「そんなバカな! どうしてだ!? オレのアンチがこんなにいるはずがない!」


「蒼ナントカさん。あんた、浮動票を忘れているよ」


「浮動票……だとぉ?」


「オレにもあんたにも興味ないけど、面白ければそれでいいって連中さ」


 そう。

 蒼獅アンチスレの流れを追うと、彼らは焦っていた。

 このままでは蒼獅に勝てない。

 そう考えた彼らはそれぞれが、別々の場所に宣伝しに行ったのだ。


 様々な場所で宣伝された結果、蒼獅持ち上げの内容や、ハルカが儲かる内容などではなく――。

『なんかヤバそーなやつに投票しよw』となったのだ。


 そして結果が出る。


 ◇一位『尻花瓶』この美しい花瓶にいくらの値をつける!? 状態で蒼獅をオークションに出す。蒼獅は購入された人の家で一日花瓶をする(114514票)

 ◇二位『アニコス喫茶』アニメのコスプレでファン向けに喫茶店で接客(28142票)


「俺ちゃん、負けたらこれやるの? まじで?」


「さっき書類にサインしただろ? もうお互い逃げられないんだよ。負けたらどっちもギルド員が強制執行する」


「く、くそ……」

 そこで蒼獅はハっとした様子になる。


「そ、そうだ! まだそっちのハンデが残ってる! その結果は……!」

 それを見た瞬間、蒼獅が喝采をあげた。


「どんな罰ゲームでも、負けなきゃ問題ねぇ~んだよぉ! ハルカちゃ~ん、おまえそんな状態でどうやって勝つつもりなんだ?」


 ハルカのハンデ結果――。

 ◇一位『両手両足を縛って決闘』決闘中に自ら拘束を解いたら負け(12523票)

 ◇二位『目隠しをして決闘』決闘中に自ら目隠しを解いたら負け(7542票)


 この結果を見てオレは言った。

「余裕だろ? どうせなら目隠しもしてやろうか?」


「はっ! 言ったな? ハルカちゃん。俺ちゃんは容赦しねえぞ~。目隠しも両手両足縛りも両方やれよなぁ~!!」


「蒼ナントカさんこそ、逃げるなよ?」

 オレが言うと蒼獅は邪悪な笑みを浮かべ鼻で笑った。




――そして。


 オレ、蒼獅、そしてギルドの職員たちはギルドの訓練場へ向かった。

 真白には遅くなるから帰るように言ったのだが、どうしてもついてくるとのことだった。

 そのため鈴木のおっさんに電話で断りを入れてから連れていった。





   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


――ギルド訓練場。


 山間にある開けた場所だ。

 見物席なども作られている。

 ここでは訓練の他にも、探索者を巻き込んだイベントなども行われている。


 訓練場の周囲は木々が立ち並ぶ。

 山と木々の匂いがする。


 そこでオレは蒼獅と向かい合っていた。

 向かい合ってるはずだ。


 なぜならオレは目隠しをしているから、正面の光景がわからない。

 さらに両手両足を縛られている。


 オレはあぐらをかくように、訓練場の床の上に座っていた。


「ホントにそんなので俺ちゃんとやるつもりなのかよ?」

 蒼獅は得意げな声で言う。


「まあな」


「あーーーー。わかったわ。なるほど。賢いなあハルカちゃぁん。おまえ、負けたときの理由づくりしてるだろ」


「なんて?」


「こんなに不利な状況だったから、負けても仕方ありませぇ~んって、な。目隠しに両手両足を縛って、勝てるわけがねぇ~よな」


「そうかもな」


「俺ちゃんのファンのために、約束された敗北をありがとちゃん」


――蒼獅。たぶん今オレはお前と同じことを思ってるよ。


――オレのチャンネル登録者の楽しさのために消費されろ――ってね。


 かつて、配信者は配信者同士でコラボし、お互いのファンを奪い合ったという。


――オレがあんたのファン、もらってやるよ!





   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「それでは、試合――開始ッ!」


 見届け人のギルド員が宣言をした。




 蒼獅が叫ぶ。

「来い! 中級水精霊(ウィンディーネ)!」

 試合が始まった瞬間、爆発的に精霊力が高まる。


 今、中級水精霊(ウィンディーネ)がここに顕現したのだ。

 一瞬で呼べるなんて、すごい実力者――のように思える。だが実際は違う。


 実は蒼獅が試合開始前から精霊力を高め、口の中で小さく詠唱していたことにオレは気づいていた。

 が、スルーしていたのだ。


 まったくもって何も問題がないからだ。


 ただ一つ、中級水精霊(ウィンディーネ)を呼べるほどの実力があることだけは、少し驚いた。

 思ったよりも実力はあるらしい。


 オレの目隠しの裏側は、真っ暗な闇が広がっていた。

 しかし、オレの頭の中にはある姿が鮮明に浮かび上がっていた。

 それは何度も目にしたことのある美しい水の精霊の姿だった。


 それは体全体が水色の液体でできているかのような女性であった。

 その透明感ある肌には、水の泡や氷の結晶がちりばめられており、長い髪は水流のようになびいていた。


 水を自在に操り、相手を圧倒する。


 それが中級水精霊ウィンディーネだ。


「ははははぁ! ハルカちゃんには見えないから、わからないよなぁ? 今中級水精霊(ウィンディーネ)を呼んだ! もうハルカちゃんの負けだぜぇ?!」


 蒼獅は得意げに叫ぶ。


「ハンデとして先に一発いれさせてやろ~かぁ? あぁ、できねえよなぁ。その状態じゃぁなぁ! ひゃは!」


 完全に動けない相手に対して、そこまでイキるのはどうなのだろう――? と思わないでもない。

 だが、容赦をしないのはいいことだ。


 中級水精霊ウィンディーネが、オレを倒そうと迫ってきていた。


「行けよ中級水精霊(ウィンディーネ)! これで、決まりだぜぇ~!」


 それはその通りだろうな。

 動けない相手に中級水精霊(ウィンディーネ)をぶつけたら、それは約束された勝利が訪れることだろう。



――オレ以外だったらな(・・・・・・・・・)

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