125 女二人、モンスターハウス。もちろん何もないはずがなく
《SIDE:鳶折陰》
陰は、陽菜とともに落とし穴の罠に落ちた。
落ちた先はモンスターハウスだ。
陰はモンスターに襲われながら、陽菜の頭上を見た。
陽菜の死ぬ時刻まであと10分もない――といったところだった。
襲い掛かってくるモンスターを、陽菜と二人でなんとか倒していた。
幸い近くに壁があったので、壁を背に戦う。
少し離れた場所のモンスターを陰の魔法で攻撃する。
「氷結!」
だが、それだけで倒し切れるわけがなかった。
「っと、危ないよ! 陰ちゃん!」
近づいてくる職業持ちゴブリンや、オークなどを、陽菜が槍で撃退する。
なんとか戦うが、時間を稼ぐことが精いっぱいだ。
そのダンジョンの部屋はかなり大きな広間になっており、遠くからもモンスターが集まってくる。
――はやく10分経って。
陰はそう願うが、時間の進みが遅い。
10分どころか、2分も経たないうちに負けてしまいそうですらあった。
陰は頭に刻まれた死霊術を思い浮かべる。
――もしかしたら、これを使えば。でも、嫌われてしまうかもしれない。ただでさえ迷惑しかかけなかったわたしが、死体を操るなんて知ったら。
「氷結! ――氷結氷結氷結!」
しかし、どんどん状況は不利になっていく。
「陰ちゃん、ごめんね……。精いっぱいやっても、無理そう、かもっ……」
陽菜がそう言った。
――わたしは精いっぱいやってなんか――。
陽菜が声をあげた。
「いたっ……」
ゴブリン槍使いの槍が、彼女の腕に、その穂先をかすめさせていた。
前衛が片腕を怪我してしまった。
包囲は狭まり、モンスターの密度が増していく。
「陰ちゃん……。最期に仲直りできて、よかった」
諦めたような陽菜の声がした。
――違う。違う、違う。鳶折陰! そうじゃないでしょう!?
大事な友達が今、命を失われようとしているのに。
どう思われるかを気にしていた自分は、本当にどうしようもない。
陰はそう思った。
――たとえ、誰に嫌われてしまっても、陽菜ちゃんは、死なせないんだ! 陽菜ちゃんに嫌われても!
「……さ、最期じゃ、ないよ」
陰はつい先ほど、脳に刻まれた能力を、解放する。
PKに襲われたときに発現した、死と幽霊などに関するチカラ。
冷たく暗い魔素のオーラが吹き荒れる。
前髪が闇のオーラの奔流に弄ばれ、視界がはっきりと通った。
周囲の空気が塗り替わる。
モンスターたちの動きがぴたりと止まり、どこか不安そうに周囲を見はじめた。
感じたことのない力の流れが、陰の身体の中に渦巻いている。
近くの死体の位置がわかる。
まだ消え去っていない魂を、感じる。
陰の口から、平坦な声が出た。
「――死霊傀儡 」
周囲の気温が明らかに下がる。
恐慌をきたしたかのように、ゴブリン剣使いが、切りかかってこようとした。
剣先が、陰の目の前まで迫った。
しかし、その動きが唐突に止まる。
ゴブリン剣使いの足を既に死んだはずのゴブリンが掴んでいた。
そのまま地面に引き倒される。
一体だけではない。
二体、三体と、複数のモンスターの死体が動いている。
周囲のモンスターの死体がゴブリン剣使いをかじり、えぐり、引き裂き、彼らの仲間へと変えた。
死体となったゴブリン剣使いは立ち上がり、他のモンスターに切りかかる。
そのような光景があちこちで起きていた。
「は、はっ……はぁ、はぁ……」
恐ろしい勢いで、身体から力が抜けていく。
「え、なに、なにが起きてるの」
陽菜の声をよそに、陰は身体に残った魔力を絞り尽くす。
最初、死体は少なかったのに、どんどん増えていく。
身体に、足に、指にも力が入らなくなっていく。
魔力がなくなってきていた。
――けど、まだです。まだ、陽菜ちゃんの寿命のバーは終わってない。あと30秒? 一分? それまで、は! それまでは、倒れてなんか!
そして死体とモンスターの数が同数になる。
モンスターのほうが、怪我をしていない分、能力は高い。
だが、一つ。
耐久力が違いすぎた。
モンスターの死体は攻撃され、損壊していく。
足がなくても手がなくても、頭すらなくても立ち上がり、戦っている。
そして倒されたモンスターは、仲間となって立ち上がる。
意識が薄れそうになる。
それを無理やりつなぎとめる。
そして、ほとんどモンスターがいなくなったころ。
陽菜のゲージはゼロになった。
もう完全にゼロだ。
本当なら死んでいるはずの時間。
なのに。
まだ生きている。
「よか、った……で、す……」
救えたのだ。
陰は、ようやく、はじめて、この見える寿命に逆らって、誰かを救えた。
幼馴染の命を、救えたのだ。
感極まって吐きそうになる。
吐き気を堪える。
そして、陽菜を、見ようとした。
見るのは怖かった。きっと怖がられているだろう。
薄目で、こっそりと陽菜を見ようとして――
「すごいっ! 陰ちゃんすごいよ! 今の陰ちゃんでしょ!? すごいすごい!」
陽菜は痛みを忘れたかのように、すごいすごいと言っていた。
「……は、はい。こ、こわく、ないんですか? そ、その、わたしが」
「え? ええ? 怖くなんかないよ! だって陰ちゃんだもん!」
ほっ。
「よ、よかったぁ……」
陰は涙ぐんだ。
久しぶりに、本当に久しぶりに、正面から見た幼馴染は、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。
「陽菜ちゃん、ごめんなさい」
「え?」
「ずっとずっと、陽菜ちゃんが、わたしを助けてくれようとしていたのに、ずっと、無視したりして」
「あは。別に大丈夫だよ。今こうやって、仲直りできてるもん。それに、陰ちゃんも助けてくれたじゃん」
「うん……。うん……陽菜ちゃんぅ……」
ようやく、仲直りできた。
だけど
見てしまった。
陽菜の後ろから、矢が飛んできていた。
生き残っていたゴブリンアーチャーが矢を放ったのだ。
それは寸分たがわずに陽菜の頭を貫くコースに思えた。
スローモーションのように矢が飛んでくるのが見える。
なんで。
もう死ぬはずの時間は終わったのに。
――寿命が見えなくなった、ということは、いつ死んでもおかしくない、ってこと?
盾になろうと、飛び出そうとして、足がもつれた。
「だ」
――だめですっ。
矢が陽菜の頭に吸い込まれていく。
――また、また救えなかった。ぜんぶ、ぜんぶぜんぶ、無駄なんですか……?
もう間に合わない。
――わたしは、なにもしないほうが、いいんですか……?
その直前。
ギィン! と高い金属音がした。
別の矢が恐ろしい勢いで飛んできたのだ。
陽菜の頭に直撃するあと少しのところで、矢が別の矢に弾かれた。
その先には、陰が初めのうちは恐れていた人がいた。
陰が助けを求めた人だ。
「陰。探索は家に帰るまでが探索だよ」
その姿を見て陰は安心して、
ついでに感極まって。
「はりゅかしゃんぅ~~~あ、あ、――お゛ぇ゛」
吐いた。
その酸攻撃は陽菜にかかったが、陽菜は笑って許してくれた。
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◆読まなくても何も問題のないオマケ◆
・名前: 鳶折陰
・年齢: 16歳 高二
・性別: 女
・身長: 156cm
・外見:
メカクレ系美少女。やや猫背。身長以上に背が低く見える。見るからに陰の者であることがわかる。陰と陽が両方そなわり最強に見えることもあるかもしれない。
・性格・特性:
コミュ障。昔は正義の味方になりたかった。
残りの寿命を知る能力で他人を助けようとしたが、誰一人として助けられず心が折れた。
ずっと他人と関わってなかった上に、他人に否定された経験が積み重なり、コミュニケーション能力を失った。
他人の残り寿命を見続けたため、死霊術と非常に近しくなっている。
・特異能力・スキル:
《技能》
終焉視認: 他人の頭上に浮かぶバーで残り寿命を感知する。特に寿命が少なくなった人々の寿命が視覚的にわかる。現在はハルカが未来を変えたため大幅弱体化している。
死霊使いA:死霊術技術の成長に大きな補正あり。
死霊の鈍感:
鳶折陰は、自身の特異な呪いのために、死が常に身近に感じられる環境で育ってきた。この経験から生まれた「死霊の鈍感」という技能は、死霊術を行使するデメリットを極限まで減らす。
対人恐怖の影:
鳶折陰が長年の孤独と対人経験の不足から発展させた特異なスキル。人間関係における不安と恐怖を覚える。
《スキル・魔法》
死霊傀儡: 魂が抜けきっていない死体や、魂が周囲にある死体を操る。操った死体はある程度生前の技能を引き継ぐ。
死霊永縛: 死と生の狭間にいる魂を身体に縛り付け、死霊傀儡の効果を永続化するために魔力を常時消費する。
対人恐怖の影: 他人との交流に関する深い不安と恐怖。観察力が向上し、内省的な思考を促進するが、社会的な孤立や感情表現の困難を引き起こす。
死の鈍感: 死に対する恐怖や影響を著しく減少させる。精神的安定性が高く、感情の鈍化が見られるが、孤独感や倫理観の変容のリスクも。
《コンボ》
死霊傀儡+死霊永縛
このコンボは、死霊傀儡の一時的な操り人形を、死霊永縛によって永続的な存在へと変貌させる。死霊傀儡により操られた死体は、死霊永縛を通じて魂が身体に固定化され、一時的な戦闘用の操り人形から、半永久的な従者としての役割を担うようになる。このコンボは、魔力を持続的に消費するが、その代わりに強力で信頼性の高いアンデッドの従者を生み出すことができる。
終焉視認+死霊傀儡+死霊永縛
このコンボは、終焉視認の能力を使って、寿命が少ない人間を特定し、その死体を死霊傀儡と死霊永縛の技能で操ることを可能にする。終焉視認を通じて寿命の短い個体を見つけ出し、彼らが死んだ後、すぐに死霊傀儡で操り、死霊永縛で永続化させることで、より効率的に強力なアンデッドの従者を作り出すことができる。このコンボ技能は特に、戦場や危険な環境での活動において、鳶折陰にとって非常に価値のあるアセットとなる。
皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!
次回が、次々回あたりからBBS回が挟まるかと思います!
メカクレキャラor細目キャラの目が見えるときは覚醒の時だ――と思う方は、ブックマークと評価をよろしくお願いいたします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!
もちぱん太郎