124 陰は幼馴染を救いたい
ダンジョンの中に、陰の幼馴染である陽菜はいた。
オレと陰、そして肩の上に乗った月子は、こっそりと彼女を尾行する。
「なあ、陰。守るなら近くにいたほうがいいよな」
「……た、たしかに?」
「声かけてきたらどうだ?」
「で、でも、えっと、その……」
陰は少し迷う様子を見せた。
「いえ、そうですよね。たしかに、ハルカさんの言う、とおりです」
かすれた声で陰は言った。
「おう。がんばれよ」
オレは陰を送り出すことにした。
◆《SIDE:鳶折陰》
彼の言うとおりだと陰は思った。
離れた位置から見張るよりも、近くのほうが守りやすい。
だけど陽菜には話しかけづらい。
陽菜はずっと陰を気遣ってくれたというのに、陰は陽菜を邪険にしてしまった。
ずっとずっと感謝はしていたのに。
陽菜に近づいていく。
嫌われていたら、どうしよう。そんな考えが胸の内をよぎる。
だって陰は彼女の厚意を無下にし続けてきた。
嫌われていても仕方がない。
陽菜の背中が近づいてくる。
近づけば近づくほどに、心臓が跳ねる。
緊張と恐怖の入り混じった、嫌な鼓動だ。
拒絶されたらと思うと怖くなる。
そっか。
――陽菜は、わたしが毎回拒絶していたのに。この怖さを乗り越えて、話しかけてくれたのかもしれない。
そう思うと涙が滲む。
袖口で目をこすって、陽菜に駆け寄る。
「お、は、ようっ……ひ、ひひ、陽菜っちゃ、んっ」
あ、声が裏返っちゃった……。
陽菜が振り返る。
陽菜は陰を見て目を少し大きくする。
びっくりしながら陰を見て、それから笑顔になる。
陽菜が駆け寄ってくる。
「陰ちゃん!」
「ひ、ひひ、陽菜、ちゃ、わぷっ」
抱きつかれる。
「どうしたのっ……! こんなところで!」
「わぷ、わぷ、苦しいよ、陽菜、ちゃん」
かなり強い力だった。
「あっ、ごめんねっ……!」
慌てて陽菜が手を離す。
「あ……」
陰はなんだか少し寂しくなってしまう。
「陰ちゃん、探索者になったんだね! 少し歩きながらお話ししよっか!」
陽菜が陰の手をとり、前を歩き始めた。
「う、うん。え、えっとね、陽菜ちゃん、た、探索者、だったんだ」
「あ、えっとね。そっか。陰ちゃんには言ってなかったんだ。実は探索者になったんだよねっ」
――ここだ! 勇気を出すんです! 陰!
「そ、そうなんだァ(↑)~~(↓)。き、きぐう、だね~~~。じつはわたしも探索者になって、今からァ(↑)狩りに行くところだったんですよネぇ(↑)」
声が裏返りまくって変なしゃべり方になってしまった。
というかダンジョンにいるんだから、今から狩りも何もないだろう。
普通に考えれば狩りの真っ最中だ。
変な汗がじわあっと滲んでくる。
「ぷっ。なにその喋り方! 変だよーーー! じゃあ、一緒にいこっ! どうかな!?」
「は、はいっ! 行きましょう! 陽菜ちゃん! ぜ、ぜひ一緒に!」
手を繋ぎながら、陰の少し前を歩く少女の頭上を見た。
そこには、あとわずかになった寿命のバーがある。
それは、あと数時間以内に陽菜が死ぬことを示していた。
——絶対に、守るんです。わたしが陽菜を、守るんです。
陽菜は槍使いだった。
スライムやゴブリンを危なげなく倒している。
「陰ちゃんは魔法使い? 杖みたいなの持ってるし」
陰は木を削っただけのような、初心者用の短杖を使っている。
しかし陰は魔法使いなのだろうか?
ギルドで設定した職業はウィザードではある。
特殊なアイテムを使用して職を設定すると、その職の初期技能が頭にインストールされる。そして、各種能力にプラス補正やマイナス補正が加わる。
さらに、成長率にも補正が加わると聞いている。
だが、それと同じように陰はこの前、頭の中に能力を刻まれた。
使い方もなんとなくわかってしまう。
その能力は死霊術だった。
死体や、さまよう魂を操る能力だ。
これを元に考えたら陰は死霊術士だろう。
だが、あまり評判のいい職ではない。
そのようなことを考える間もなく、陰はつい「そんな感じかな」と答えていた。
「そっか、陰ちゃんは魔法使いなんだ。いいねっ!」
陽菜は親指を立てて笑った。
そのまま二人で狩りを行なった。
スライムもゴブリンもローバーも二人の敵ではなかった。
陽菜の寿命はあとほんのわずかだ。
――この調子なら、なんとかなりそうですね。
陰がそう思っている時だった。
カチリ――という音がした陽菜の足元だ。
罠だ。
なんの罠かもわからない。
「陽菜ちゃん、危ないです!」
陰は陽菜に体当たりをする。
足元が崩れる。
落とし穴だ。
落ちていく陰を、陽菜が見ていた。
陽菜が手を伸ばす。
二人の指先が触れ合って、離れた。
「陰ちゃん!」
陽菜が焦った顔になる。
陰は微笑みながら落ちていく。
――ああ、陽菜ちゃんを守れてよかった。ハルカさん、お約束守れないかも、しれません。
離れていく陽菜の顔。しかし、それは、それ以上離れることはなかった。
「陰、ちゃんっ!」
陽菜も飛び降りてきたからだ。
どしゃ、と音がする。すぐにもう一度同じ音がした。
足が痛い。くじいたかもしれない。
足首を抑えながら周りを見ると、そこにはたくさんのモンスターがいた。
一層では決して現れなかった、技能持ちゴブリンたちもいる。
モンスターハウス。
そう呼ばれる場所だ。
「どうして! なんで、降りてきたんですか!? 陽菜ちゃん!」
「ん~~~。わかんない! 気がついたら、勝手に?」
せっかく助けようとしたのに。
「ばか、ばか! もう、ばか! この……えっと、ばか!」
言うと、陽菜は口をへの字にした。
「てか陰ちゃんこそ、勝手に何してるのさ。ばかは陰ちゃんだよ。私、陰ちゃんを犠牲にして助かっても、嬉しくないよ」
そう言って陽菜は槍をぐるりと回して、周りのモンスターたちを牽制する。
「……それで、死んじゃったら、どうするんですかぁ!」
陰が自分の寿命が見えないとしたら、ここで陰と陽菜の二人とも命を失う可能性もある。
陽菜を殺すのはPKかとも思ったが、もしかしたらこの罠なのかもしれない。
陽菜の寿命は、あと、たぶん10分もない。
「あ、あ、氷結ッ――!」
陰は飛びかかってきたゴブリンシーフに氷魔法をぶっ放す。
ゴブリンシーフは氷づけになった。
そのままダンジョンの床に落ちて砕け散った。
「わ、わたしが、生きてる限り、陽菜ちゃんは、死なせませんから!」
それはつまり、10分以内に陰が先に死ぬということ。
もしくは、二人揃って生き残るということだった。
モンスターたちが二人を取り囲んでいた。
皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!
楽しめたよ、次を読むよーというコメントありがとうございます!
そのままの内容のがいくつかあって、笑ってしまいました!
よろしければブックマークと評価をよろしくお願いいたします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!
もちぱん太郎