123 新人と犬(狼(精霊王))
オレは例の正義漢パーティに公開お説教をした後、陰と一緒にダンジョンの出口へと向かっていた。
「ほ、ほ、本当にありがとうございます……。わたし、も、もう、だめかと、思って……」
暗い洞窟の中で、長い前髪で目の隠れた少女が言った。
「まあ、なんとかなったな。オレもちょっと焦ったよ」
「……ぜ、ぜぜ、絶対に、恩をお返しします……」
「それには期待してるよ」
「な、なんでもします。た、たとえ、地球征服でも……」
なんで人類の敵コースを歩もうとするんだこの人……。
「そんなことをするつもりはないから、大丈夫。それよりさ、お礼はあとあと。まだやることあるだろ」
オレが言うと、陰は口元をきゅっと結んだ。
「はい……。ひ、陽菜を、助けなきゃ……」
「たしか今日だよな?」
「は、はひ。えと、時間で言えば、あと六時間くらい、かな……。よ、よし」
陰はとてもシリアスに、なにがしかを決意した様子だった。
しかしオレはもうほとんど心配はしていなかった。
陽菜という名前の幼馴染を殺したのが今回のPK、葛杉であった場合、すでに危険は去っている。
もし他の要因で亡くなったとしても、パワーアップした陰とオレがいるからだ。
ダンジョンから出る。
すぐに月子に、精霊契約を経路にして連絡を取り、場所を確認。
すでに夕方になっている。
陰の幼馴染は、ダンジョンに入っていったようだ。
そして、今日が彼女の寿命が尽きるはずの日なのだ。
オレは陰を伴って、月子が教えてくれたダンジョンへと向かう。先ほどオレたちがいたものとは別のダンジョンだ。
月子の気配を頼りに、陰とともにダンジョンの奥へと入っていく。
薄暗く、ダンジョンと言われてすぐ思い浮かべるような、典型的なダンジョンだ。
すると月子が駆け寄ってくる。
「ハッハッ! 主! 交代の時間なのだ?」
こすりつけてくる頭をなでながら答える。
「ああ、見ていてくれてありがとうな。助かった」
「当然なのだ! 余は尊い存在、精霊王であるからして! 当たり前なのだ」
「えらいえらい。ちゃんと見張りできて偉いな。精霊王だな」
「当然である!」
誇らしげな様子の月子を見て、陰が戸惑っている。
「ああ、これはうちの社員犬の月子だ。副業で精霊王をしている」
「え、あ、はい……? 副業……?」
陰が戸惑っている様子を見せると、月子がオレの足を駆け上り、肩の上に乗った。
「月子なのだ」
「月子、こっちは陰。鳶折陰だ。新しく仲間にすることにした」
「む。新人なのだな? 我が名は月子。お前の先輩である。主に貰った格調高き名を呼べる光栄をかみしめるといいのだ」
やたらと尊大に月子が言う。
月子は偉そうに、陰の頭にその肉球をぽふっと置いた。
――あ、これマウンティングだ。
犬は家族内で序列付けをするという。
まあこれは迷信であるという話もあるが。
ただし、犬の元となった狼には明確な序列付けがあるという。
狼の群れを率いるのがアルファ狼。
それに次ぐ階級のベータ狼。
そして一番下のオメガ狼。
この階層は単純化したものではあるらしいのだが、ともかくそういった階層が明確にあるらしい。
こういった問題は戦ったりして決着をつけたりするらしいが、街中で戦闘などはやめてくれよ……?
すると陰はぐっと拳を握った。
髪の毛の隙間から隠れていた目がチラと覗いた。
何かを心に決めた瞳。
オレは昔に見たアニメ(体感で言えば十年以上前)を思い出す。
メカクレ、または糸目キャラの目が見えるとき――それは覚醒の証――かもしれない。
陰は息を大きく吸い込む。
クワッ!
「はいっ! 月子先輩! よろしくお願いします……!」
陰は深々と頭を下げた。
ええ……?
今の月子、どう見ても子犬だよ?
いや、子犬相手に覚醒して戦いを挑むみたいな展開もどうなんだ、とは思うが。
しかし、陰は子犬の下につくことに抵抗がないらしい。
むしろオレを相手にするよりしっかりと喋ることができている。
「うむ。中々見どころのある新人なのだ。何か困ったことがあったら余を頼るといいのだ」
新人の序列が決定した瞬間であった。
少し離れた位置には、ここ最近見張っていた少女がいた。
陰の幼馴染である。
「あ、あ、あと六時間くらい、で、です」
陰はそう言った。
さて、あと少しだけ見張るとしよう。
皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!
あとご心配頂き、ありがとうございます!
特に何かトラブルなどがあったわけではないので、ご安心くださいませ!
更新の遅れは「うおおお! かけないよーーー!」って感じの遅れです!
その度に応援のコメントなどを見てモチベーションをチャージしております……!
楽しめたよー、次も読むよーって方は、ブクマと評価をよろしくお願いいたします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!
もちぱん太郎