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122 ブラック企業仕込みお説教(Easy)

「はーい。戻りました。待たせてごめんね」

 オレは手のひらをパンと合わせて謝りながら、陰とパーティを待たせている場所へと戻った。


 するとメカクレ少女の陰が立ち上がり、ふらつきながら駆け寄ってくる。


「は、はりゅかしゃん、大丈夫でしゅか。うえ、うっ、うえぇっ……」


 陰はボロボロの顔で泣いていた。


「はいはい。大丈夫だよ。大丈夫ですよ。もう平気だから泣かないで」

 オレは陰の顔が配信にうつらないように配慮した。


【なんかすごい顔で泣いてたな……】

【ドラマで見た泣き顔と違う……】

【これがリアルってやつか……】

【死にかけたし、しゃーないやろ】


「あの、わたしが見えてたやつなんですけど――」

「はい、その話はあとにしましょう。陰さん。いいですね?」

 オレは陰の口元に手を当てて、彼女を止めた。


 死が見えるとかなんだとか、配信で言っていいものじゃない。

 できるだけ隠したほうがいいものなのだ。

 公言するにせよ、何がしたいかどうなりたいかを明確にしてから言う必要がある。


「はりゅかしゃん、うえ。あり、ありあり、ありありありありがとうござましゅ……ひっく」

「お礼は後で受け取るよ。ちょっとオレはやることがあるから。もう少しだけ待っててくれ」


 そう言ってオレは端っこで小さくなってるパーティへと向かった。

 近づくと全員がびくっと肩をすくませた。

 怖がられてる?

 まあ、あれだけボコられたら怖いかもしれないな。



「やあ。待たせてごめんね。少しオレとお話ししようか」



 恐怖を和らげようと思って、微笑んでみせる。

 すると彼らはさらに引きつった顔をした。


 なんでだ。


「はい。ということでここで、困ってる人を見かけたらどうしたらいいか、を考えていきましょう。あ、ちなみに配信中です。わかってると思いますが」


 オレはリーダーを見る。


「リーダーの防御前衛職(タンク)さんに質問です。あなたは先ほど、どうして男をかばって、女の子を捕らえたんですか?」


 リーダーは少し考えてから言う。


「それは……。死霊をたくさん操っていたからだ……」


「死霊を操ったら悪人ですか? 死霊使いは探索者にもいますよ」


「……それに、男に対して優勢だった。だから、危ないと思った」


「なるほど。それだけですか?」


「……決定打は、怪我をしたといっていた場所に怪我がなかった。これで虚偽の主張だと考えた」

 ――まあ、それは怪しいかもしれない。だが、スキルや装備、ポーションなどで回復した可能性もある。すぐに『嘘だ』となってしまうのは、短慮ではある。


「ふむふむ。つまり、①悪そうに見えた。②優勢だったことによる判官びいき。③嘘の主張が含まれていたと感じた。ということですね」


「ああ……」


「これを見ても同じことが言えますか?」

 オレは先ほどのPK、葛杉(かずらすぎ)が陰を拷問しているシーンを、再生する。



 映像の中では半笑いの葛杉が、必死の形相で逃げる陰をいたぶるように追いかけている。

 弓で何度も陰の足を執拗に射抜いている。


『あ、逃げてもいいよ。そのほうが楽しいから』

『ハハッ。ば~か。お前みたいな雑魚のドロップ貰ったっていくらにもなんねーだろうが。遊ぼうぜ。PvPだ。ゲームルールは鬼ごっこでいいか。お前が逃げきれたら勝ちな』

『おっせえ。おせえなあ~。カメのほうが素早いじゃん』

『やっぱカスとは、ちげえんだよなあ。オレは。負けるためだけに存在してるカスの養分どもがさあ』



 その動画を見た後のリーダーの顔は真っ赤になっており、怒りを堪えてるように見えた。


「こんな、非道を……」


「うん。そうだね。ひどいよね」


「……許せん」


「そう。許せないね。わかるよ」


 オレはそう言ってから冷たい声を出す。



「でもね、その非道を手助けしたのが君たちだ」



「……わかっている」


「君たちが変に絡んでこなければ、陰さんは一人でなんとかしてただろう。乗り切っただろう。だけど、君たちが正義面をして間に入ってぶち壊れた。オレがいなきゃ、どうなってただろうな?」


「……」


「なあ、なんとか言おうか。マシなのは戦闘中の判断力だけか?」


 リーダーは陰のほうを向いた。血走った目で陰を見ている。



「……申し訳ない! 俺が、俺のせいで、迷惑をかけた……! 詫びのしようもない……」

 深く頭を下げている。



 これはかなりマシなほうだ。オレが見てきた中ではかなりいい。

 彼の判断はおかしかった。

 しかし、非を認めることができる。


 多少、毒気を抜かれた。


 オレの予想では『オレは悪くない。紛らわしい行動をとったほうが悪い』だとか、『はいー。すみませんでしたー(棒)』のような反応だったからだ。


 ――人を悪く見るの、癖になってるなあ。


 陰は「わ、だ、だ、だ大丈夫です」とか遠くで言っている。

 いや、大丈夫じゃないだろ。

 普通にえん罪コースだったぞ、君。


「彼女への謝罪や補償などは後でやっていただくとして、とりあえず話を続けましょうか」

 さりげなく陰への補償も盛り込んでみた。

 陰はとても可哀相な目にあっていた。

 コミュ障だが、悪い人間ではないのだ。


 前回の世界で十大魔君などというものになってしまったのも、運命に翻弄された結果――つまり今回のこれが起きてきたら、これが原因なんだろうな。

 いや、そもそも能力自体が呪いでしかないから、遅かれ早かれといったところではある。



 オレは再びリーダーを見た。

「あなたがたは、可哀相な人間を助けたかった。そうですね?」


「…………一応は、そのつもりだった」

 リーダーは恥じているのか、消え入りそうな声で言った。


「だけど、それは悪人を手助けする行為でした」


「……ああ」


「まず言っておきますが、あなた方の考え方自体はとても素晴らしいものです。おそらく本当に助けたかったんでしょう」


 悪人のように見える人を見つけたら、正義を振りかざして、ただ気持ちよくなるために殴る人間はとても多い。

 殴っている本人がそのことに気付いてないことすら多いというのに。


「ですが、結果として悪に加担してしまったら、あなた方も悪の手助けをしているということになります。さて、何が悪かったですかね?」


「は……?」

 リーダーはぽかんとした顔で言った。


「ああ、唐突過ぎましたね。あなた方は自分自身で何が悪かったと思うか一人一人言っていきましょうか」


 リーダーが戸惑いながら言う。

「間違った判断をしてしまったこと……」


「誰がしたんですか?」


「俺が間違った判断をしてしまいました……」


「大きな声で」


「俺が、間違えた判断をしてしまいました!」

 ダンジョンの壁に『ました!』『ました!』『ました!』と声が反響する。


「さ、次。えーと、ヒーラーのあなた」


「か、考えもなく、リーダーに従ってしまいました!」


 なんかちょっとブラック企業じみてきたな……。

 前回所属していた企業を思い出して嫌になってくる。

 あそこでは利益率の低い人間は、ミーティングのときに土下座させられて、謝らされるのだ。

 例えば『今回も、収益の目標を達成できませんでした! 私は人間以下です! ゴミです! 達成できなかった理由は××で、次は〇〇をして改善いたします! 本当に申し訳ございませんでした!』みたいなことを言わされるのである。


 ――こわぁ。

 でも今オレも似たようなことしてんなあ……。


 オレは次々に反省点をあげさせていく。


 魔法アタッカーが言う。

「わ、私もリーダーに従って――」

 とそこでオレは待ったをかけた。


「あなたは違いますよね? 今回の件について、あなたは気付いていたはずだ」


 この魔法アタッカーだけは、序盤攻撃の手を緩めていた。迷いが見えた。

 おそらく陰がえん罪である可能性を思い浮かべていた。


「え、ええと……でも……」


「えん罪の可能性、気付いてましたよね。なぜ言わなかった?」


「……いやえっと、それはあの」


「オレは『なんで言わなかったか』を聞いています。言い訳だけなら黙っててください」


「…………戦闘中に方針を割りたくありませんでした」


「それは理解できる意見ではありますね。ですが――」


 オレはため息をついてから言う。



「だったら最初から関わるな」



 善人面して誰かを助けに入ったのに、思考放棄?

 ふざけるなよ。


「ひっ……」

 魔法アタッカーはがちがちと歯で音を立てて、へたりこんだ。

 ダンジョンの床にしみが広がっていく。


 ――やべ。


 とまあオレはそう言ったことを何回か繰り返して、反省点と改善点をいくつも出させた。


 この謝罪は動画にまとめられ、ネットのオモチャになることを、今は誰も知らない。




「さて、なんでオレがこんなことをさせているか、おわかりですか?」


 リーダーが言う。

「それは、反省させなきゃいけないから、か?」


「ああ、その意図がないといえば嘘になってしまうのですが、本当はPKに対する対策なんですよね」


「ええと……」


「なんといえばいいかな……。まず、あなた方の心根は善人寄りです。誰も嘘をつかない世界なら、上手く行くでしょう。ですが、『誰かを助ける』という行為のメタを悪人は張るんですね。被害者の振りをして、そういった善人の手を借りるということを」


 こうすれば正解で、悪人と善人を見分けることができるよ! なんて手法は存在しない。

 たとえばオレや、他の特殊な人間が、特殊な技法で見破ることはできるかもしれない。

 だが、それを誰もができるようにするというのは不可能だ。


「そして、今ここで『こうすればいい』という方法をオレが上手く考えられたとしますよね。それ、絶対やらないほうがいいです」


「ええと、それは、つまり」


「大前提として悪人は人間です。モンスターでもなく、NPCでもない。つまり頭が回るんですよ」


「……ああ」


「だから『これでPKを見分けることができる攻略!』というものを作ってしまった場合、早ければ数か月でメタられますよ」


 特に誰でもできる手法なんてのは、簡単に対策をとられてしまう。たとえばカードゲームなんかで超強いデッキができて流行った場合、その超強いデッキ狩り用のデッキが組まれてしまう。


 オレが『これでPKを見分けることができる攻略!』を作った場合、それ専用の攻略法が生み出されてしまうだろう。つまり『これでPKを見分けることができる攻略!』を活用した人間がみんな狩られてしまうのだ。


「だから、みんながそれぞれで、どうしたらいいか。どうしたら間違えないかを考えて深めていくしかないんです」


 オレが言うとリーダーは強く拳を握っていた。


「すまない……。俺は、考えが足りなかった……。鍛えた力を、誰かのために振るえることに浮かれていたのかもしれない……」


 リーダーまで泣き出してしまった。彼は涙と嗚咽を堪えるように、下を向いて歯を食いしばっている。


「そうですね。だから悪人に利用されてしまった。利用されないようになりましょう」


 現在コメント欄は謎の懺悔大会のような惨状になっていた。

【話も聞かずにお前が悪いって友達に言っちゃったことある。。。悪いことした】

【オレは友達のきのこを砕いて、全部たけのこにした。。。ごめんなさい】

【弟のプリン食べてお父さんのせいにしました。すみませんでした!】

【彼女のぬいぐるみにココアかけちゃったから、こっそり同じものに取り換えた、、、もうお前のぺん吉はいないんだ。。。うちにいる。。】

【恥ずかしくて友達に彼氏の事『夜はスライムレベル』っていっちゃってごめん。裏でスライムって呼ばれるようにしちゃってごめん、、】

【お前だったのか】


 ちなみにオレの考える最適解は力押しである。武力を鍛えに鍛えた上で両方制圧しちゃえばいいじゃん。と思うのだ。

 力なき正義は無能である。そして正義なき力は圧制である。

 たしかフランスの哲学者の言葉だったはずだ。


「逆に視聴者の皆さんは、できるだけ安全を確保してダンジョンに臨んでくださいね! なるべく危ないところにはいかないとか、他の人には近づかないとか、戦力を揃えてダンジョンに潜るとかですね!」


 オレは自分のことを棚にあげてそう言った。

 いや、オレだって好きで危ないところに行っていた訳じゃないのだ。


 オレはそのあと、このパーティに反省をさせながら、コメント欄も一緒に対策を考えた。


「と、いうことで、今日はこの辺りにしましょう! 今日も見てくれて、ありがとうございました!」


【勉強になった! 自分でも考えてみる!】

【配信ありがとー!!】

【参考になったよー!!!】


 ということで、配信を終える。

 オレは手短にパーティとの話を済ませて、陰に近づいていった。

 陰はどこかそわそわしている。



 陰の顔は、泣いていたのがすぐわかるくらい目元が赤くはれて、パンパンになっていた。

「えう……」


更新頻度落ちててごめん……!

書きたいと思ってます……!

こんな私の小説を読んでくれてありがとうございます!


いつも読んでくれて、ありがとうございます!

フォロー、評価いただけると嬉しいです!!

応援よろしくお願いします!!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!!!


もちぱん太郎

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[一言] スライム君は泣いて良い
[一言] そりゃ詳しい内容を知っていればそりゃ怒る気持ちもわからなくは無いけど善意のパーティーの一員にそんなに怒ることか? そのパーティーはあくまでも陰や主人公を殺そうとしてた訳ではなく制圧目的なんだ…
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