121 幸運なPKは永遠の命を手に入れる
オレはPKの男を追いかけてダンジョンの奥へと行った。
と同時にドローンで陰の様子を確認しておく。
結界を張ってはあるが、それでも何かトラブルがあればすぐわかる。
「いてえ、いてえよぉ……!」
PKの男は足を押さえて転げまわっていた。
近づくとオレを睨みつけてくる。
「どうしてこんなことするんだ……! お前、外に出たら、通報してやるからな!」
「さっきお前があの子にやったことだろ?」
「やってねえよ。俺は被害者だ! それに」
男は息をするように嘘をつく。
「それに?」
「さっきのパーティも俺の仲間だよ。あいつらが、お前ら二人がPKしたって証言してくれる! それに、あの女も今頃どうなってるかな?」
オレは陰に渡してあったドローンの映像を見る。しかし、特に何の動きもない。パーティは怪我を治療しながらおとなしく待っているし、陰は結界の中にいる。
パーティが仲間はブラフだろうな。
もし仲間なら、あちらで何らかのアクションが起こっていてもおかしくない。だが、何もない。
その対策も取ってある。
あのパーティはただ思慮が足りないだけだろう。
【そういえば、あの女の子は大丈夫なのか……?】
【やっぱりグルだったのか!?】
というコメントが増えてきたので、ワイプ映像で陰のドローンから流れてくる映像を流しておいた。
「それが?」
「そ、それがって、心配じゃねえのかよ? 今頃死んでるかもしれないぜ?」
無事なのはわかってるんだよな。
こまめに確認していたし、今となれば怪しい動きがあればコメントで報告されるだろう。
「うん。先に君をなんとかしなきゃいけないって思うんだよな」
「くそ……」
男は呻きながら自分の足にポーションをかけた。
なので、もう一度矢を投げる。
「ぎゃああああ」
目の前で治したら、そりゃそうだろうよ。
陰だって見つからないように治していた。
「いたい、いたい、なんで俺がこんな目に……。なあ、おい。外には俺の仲間はまだいっぱい、いるんだぜ。今やめたら、許してやってもいいんだぞ。クソ野郎」
もう一本、矢を投げる。
「うぐ、ああああぁ」
PKの男は叫んで転げまわった。
「仲間がいるなら連れて来いよ。今いなきゃ意味がないぞ。まあ、本当にいるかどうかも怪しいもんだけどさ」
PKの男は浅く早い呼吸をしながら言う。
「た、頼む、もうやめてくれ。俺が、俺が悪かった。謝る。謝るから」
オレはもう一度矢を取り出して、握ってみせる。
「ひっ……」
「お前さ、PK初めてじゃないよな。手慣れてるよな?」
「は、はじめてだよ。まだ誰も殺したことがない、今回のも、出来心なんだ」
矢を握った手を振りかぶると男はまた「ひっ」といった。
男はしばらく黙ってからためらうように言った。
「す、すこしだけ……」
「少し?」
「でも仕方なかったんだ! クビになって、むしゃくしゃしてて……! その翌日に、つい……。それが三日前なんだよ。だから殺せるはずないんだ。他の人なんて」
「ふむ」
「本当にごめん、ごめんなさい。反省してます。本当に反省してます! あんなひどいクビのされ方しなきゃ、俺だってこんなことしてないんだよ!」
男はひたすらに頭を下げ続ける。
「それも、同僚にハメられたんだよ! 俺の成績を妬んだ同僚が卑怯な手段でハメてきて、それで追い出されて! だからその同僚を、やっちまって……!」
明らかに嘘の匂いしかしない。
と思ってると、コメントがいくつも届く。
【あれ、こいつプロゲーマーの葛杉じゃね?】
【え? じゃあ今の話めちゃくちゃ矛盾してない?】
【時系列もおかしい。こいつがクビになったの五年くらい前だぞ】
【あとクビになった理由がチート行為だったはず】
【検索したけどホントじゃん。チームのメンバー一覧には残ってないけど、当時の記事が残ってるし、顔も写ってる】
「おまえ、息をするように嘘をつくなよ。全部知ってるんだぜ? 葛杉さん」
オレが名前を言い当てると男は引きつった顔をする。
「な、なんで……」
「あんたはチート行為で追い出された。しかも五年も前にな。追い出されてすぐに犯罪行為をしたっていうなら、この五年間くらいの間に犯罪行為をいくつもしただろう?」
葛杉はしばらく黙っていたが、堰を切ったように話し始めた。
「お、俺は悪くねえ! あ、当たり前だろ。俺がそういうのちょっと使ったくらいで、負けるほうが弱いんだよ! ただのテクニックだ! それに、強いっていうなら何されても勝ってみろよ。あんな負け犬が、訴えなきゃ俺は今頃は……! それに、PKされて死ぬ方が悪いだろ」
あまりの言い分に、一瞬何を言ってるか理解できなかった。
「ちょっと矢を刺したくらいで、死ぬ方が悪いんだ! なんで俺が悪くなるか理解できねえよ!」
「……じゃあどこまで耐えられるか、試してみるか?」
オレは握った矢を投げつける。
「う、うぐっ……! ああああ! 俺の腕が!」
【やっちまえ!】
【さ、さすがにやりすぎじゃない?】
【↑こいつ逃がしたら責任とれるの?】
【犯罪にならん?】
【犯罪ではないよ。ダンジョンで襲われたら、殺してもいいことになってる。というより推奨されてる】
【なんで?】
【よっぽど力の差がない限り、隙を見つけられて反撃されて殺される可能性があるから。そのせいで、犯人を殺さないように捕まえた人が殺される事件が多くあった。今触ってる箱か板で調べてみ】
オレも葛杉を処理してもいいとは思った。
だが、配信中にやってしまうと、善良な視聴者が離れてしまう恐れはあった。
しかしこの男を捕まえても、すぐに出所してしまうだろう。
殺害事件の証拠がいくつも出てこない限り、そうなる可能性がある。
そうなれば、彼はまた同じような犯罪をするだろう。
葛杉は自分の怪我をまたポーションで回復させて走った。
オレはまず、彼の持っているアイテムバッグにめがけて矢を投げた。
矢はアイテムバッグを貫通し、弾き飛ばす。
「あっ!」
次は葛杉がアイテムバッグに伸ばした手に、矢を当てる。
「ぎゃ!」
それから逃げる葛杉の足元に矢を投げていく。
「ははは! へたくそがよぉ! っ、いてぇ……。エイム力低いんだよ! おまえ、覚えてろよ! お前の家族や友人恋人、なんでもいいからぶっ殺してやるからよォ! 捕まえてもいいぜ? 出所したら絶対にヤる。絶対後悔させてやるよォ!」
オレに大事な人なんていない。
できる限り作らないようにしてきている。
だがそれでも、そんなことを言われたら、やることは決まってしまう。
オレは冷たい目で逃げる葛杉を見る。
「配信者なんだろ? やってみろよ! 今も配信中か? どうせ、底辺配信者だろ! ハルカだっけ? お前と同名で有名なやつもいるのになあ、お前はそうはなれねーよ! クソ底辺野郎がよ! 俺を殺すか? 殺してみろよ。殺人で炎上して二度と這い上がれなくなるぞ!?」
そんなことはない。
ただ、素朴で善良な人たちからの人気が落ちる可能性があるだけだ。
オレは彼の足元に矢を投げ、ルートを限定させていく。
「はっ……こんだけ距離が空けば、あたんねぇなぁ! なあカスがよぉ!」
葛杉は走って距離を空けていく。
オレが矢を投げると葛杉はジャンプでして避ける。
そのとき。
彼が踏んだ箇所が光った。
真下に魔法陣のような図形が現れる。
転移魔法陣だ。
それも、かなり下層へ向かうタイプのやつだ。
踏んだら命を諦めろというレベルのもの。
オレはもう一度、矢を投げる。
それは、転移寸前の葛杉の太ももを貫通する。
「ギャッ――!」
という声を最後に葛杉の姿は消えた。
葛杉はアイテムバッグもなくし、足を怪我して下層への転移魔法陣を踏んだ。
奇跡でも起こらない限り、いや、多少の奇跡が起こったところで、生き残れる目はなかった。
【ああ、逃げられちゃった……】
【あいつ、転移魔法陣踏むなんて運がいいな……】
【でも犠牲者でなくて本当によかった……】
「そうですねー……。逃げられちゃいましたね」
オレは、はは、と笑った。
◆《SIDE:葛杉 ※虫注意。苦手な方は見ないほうがいいかもしれません》◆
やった。
やった、やった、やったぜ。
逃げ切った。
転移魔法陣をたまたま踏んで、ラッキーだった。
運は俺の味方をしている。
そう、運は最後には俺のように才能もあって、頭もいい人間の味方をする。
「いってぇ……。でもやっぱ。持ってるなあ、俺はよ」
転移魔法陣を踏んだのは第一層。
ここも第一層の可能性が一番高い。
そうでなくても、せいぜい二層か三層くらいだろう。
「いくら怪我していたとしても、この俺がこんなとこで負ける訳ねえんだよなあ。楽勝すぎだろ」
舌打ちをする。
「クソの正義厨がよ。楽しんでる最中に割って入ってくるんじゃねえよ。でも最初のパーティはクソ笑えた。あいつら、馬鹿すぎんだろ。まあああいう無能はさ、俺みたいな強者を引き立てるためにいるんだよなあ」
俺の身元は割れている。
ダンジョンから出たら、身を隠さねばならないだろう。
マンガ喫茶とかでいいか?
そこであいつの弱点を探してやる。
相手の情報を割り出すのは得意だ。ネットを使って、SNSなどで交友関係を割り出すのは得意だった。
それで、女や子どものダンジョン探索者の情報を集め、さんざんになぶって楽しんできた。
あのハルカとかいう底辺配信者も、知人から狙ってやる。
俺に手を出したことを後悔させてやる。
そのことを妄想すると、すごく楽しくなってきた。
痛みも忘れ、鼻歌も出ていた。
自動回復で多少傷口はふさがってきたが、数日は走れないかもしれないな。
そう思って歩いていると、恐ろしい咆哮が聞こえた。
「……は?」
え? いや、何だこの声。聞くだけで震えが止まらない。
俺はいったい、どこに飛ばされた?
隠れながら辺りを見ると、見たことも聞いたこともないようなモンスターばかりがいた。
「うそ、だろ……?」
心臓が恐ろしいまでの速度で脈打つ。
俺はそのあと、足元にあった石を踏んでしまって音を立ててしまう。
でかい石の竜のような化け物に見つかってしまい、追われてしまう。
俺は死にかけながら、走れないながらも、なんとか逃げた。
「くそ……どこなんだよ、ここはよぉ……」
狭い岩の隙間に入ることで、なんとか逃げ切る。
「あの女がよ、俺に目をつけられなきゃ、こんなことにはならなかったのに……。あの女のせいだ」
愚痴をはきながら先に進むと、ローブをまとった人間がいた。
こんなところにいるってことは、相当強いんだろう。
「お、おい! あんた! 助けてくれ! モンスターに追われてるんだ!」
するとローブの人間からくぐもった声が返ってくる。
『なんだ。貴様は。なぜ、こんなところに?』
声が脳に直接響いたような気がした。
「そ、それが、クソみたいなPK野郎に追いかけられたんだ。それで、転移の罠を踏んでしまって」
『なるほど。面白い。あり得ないほどの低確率だ』
はあ? 全然面白くなんかねえよ!
「と、とにかく、地上まで送ってくれないか? 礼ならする!」
ローブ姿の人間がこちらを見た。
顔がなかった。
骸骨だ。
「ひいあぁあああああ」
モンスター!?
『その運の悪さ。面白いな。実に面白い。貴様、死にたくないのか?』
「し、死にたくねえよ……」
骸骨は言うと何か呪文を唱えた。
身体がほんわかと温まってくる。
腕の傷も、足の傷も、逆再生のような速度で治っていく。
「お? え? なんだ? 治してくれんの?」
やはりオレはツイてる。ハルカってやつ、絶対調べて消してやる。
『貴様に無限の再生力を与えよう』
いいモンスターもいるのか。ありがたい。
「マジ!? すっげえな。助かるよ。ありがとう、ありがとう」
傷口の肉が盛り上がる。
いや、傷口だけじゃない。全身の肉という肉が盛り上がっていく。
ほほの肉がふくれあがる。
目が見えなくなった。きっと肉に覆われて。
「え、なに、なんで……」
身体が異様に重くなり、苦しくなる。頭も痛い。
「なんだ、ごれば……」
痛い。痛い。痛い。肉が膨れ上がるたびにいたい。空気に触れるだけで痛い。何をしなくても痛い。
『近頃、屍蟲というものを使い始めてな。無限に再生する餌があったらと、今思い立った』
「どぼぢて……」
『貴様はもう死ぬことはないだろう。喜べ』
骸骨がなにやら呪文を唱える。
すると、身体に何かが這う感触がした。
それらが肉に食いつき、食い破る。
「ああああああああああああああいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだい」
すぐに肉が再生していく。
再生した肉がすぐにまた食われ、穴が掘られ、内部を食い荒らされる。
一つじゃなくて、複数、無数に増えていく。
先ほどとは比べ物にならない激痛。
「やべでやべでやべでやべでやべでやべりゅれあぁああ」
『やはり、そういった声はいい。心が安らぐ。楽器としても有用だな。少し前に玩具の一つがおかしくなってしまってな。そういった意味で、よく来てくれた。貴様を歓迎しよう』
ぶちぶちぶちぶち。
「あああああああああやだやだごべんなざいやべで」
『美しい音色だ。貴様は楽器としての才能があるようだ』
葛杉は、永久に再生する生きた餌となって、永遠を生きることになった。
「ゴロヂテ…………ゴ……ロ……」
◆オマケ◆
《葛杉博隆へのインタビュー記事》
『特異な才能の持ち主、葛杉博隆のエイムと先読み力』
若き才能、葛杉氏はゲームの世界でその驚異的なエイム力と先読み能力で知られてる。
彼は自分の能力を「選ばれた者の証」と公言し、多くの称賛を受けている。
葛杉氏は言う。
「私のエイム力と先読みは、生まれ持った才能の結果です。これは訓練や練習だけでは得られないもの。私はこの分野で特異な存在だと自負しています」
一部にはオートエイムやウォールハックの疑いを持つ声もありますが、葛杉氏はこれらを相手にしていません。「私の能力に疑いを持つのは、選ばれなかった人々からしたら当然でしょう。彼らにとっては『できないはずのこと』なのですから。真の才能を持つ者にしか、理解できないのでしょう」と彼は主張する。
彼はさらに、「プロゲーマーになるためには、特別な才能が必要。多くの人が努力しても、選ばれた者には敵わない」と強調している。
多少語気の強い発言もあるが、それは葛杉氏のゲームへの情熱がそうさせているのだと筆者は考える。
更新遅くなってごめんよ……!
明日更新するっていってたのに、私は、嘘つきです……!
思ったよりひどいものを書いてしまったりしてたので、書き直したり書き直したりしていました……!
いつも読んでくれて、ありがとうございます!
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応援よろしくお願いします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!!!
もちぱん太郎