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119 訪れるはずだった未来:鳶折陰

 陰はダンジョンの中で、いたぶられていた。


 いくら許しを乞うても許してもらえない。

 これが、今日でさえなければ、よかった。

 陰は自分が生きている意味を見出せなかった。


 たぶん、ない。


 でも幼馴染の寿命が、尽きそうになっていることを知ったとき思ったのだ。


 陰が今まで生きてきたのはこの時のためだと。


 懇願でもなんでもして、生き残って、幼馴染を救う。


 そのあとなら陰はどうなってもいい。


 そう思っていた。


「へえ、救いたい相手がいるんだ?」

 と、矢じりで半ば拷問のようなことをされた。

「どんな相手? 親? 友達? 家は近いの?」

 陰は答えなかったが、陰の反応でしぼりこまれてしまったのだ。


「じゃあ君は生かしておいて、そっちを先に殺そうか」


 男はそう言った。


 待って。


 ――待って。

 なんで、陽菜が?

 え。

 どうして。

 ――先にわたしじゃなくて、陽菜を?


「ああ。いい顔だね。そっちの方が楽しそうだ。そういう顔、俺好きなんだよねえ。く~、このために生きてるって感じがする。逆に、やり直しできてラッキーだわ。プロゲーマーじゃこんな顔見れないもんなあ」


「う、ぐ」


「本当はここで君を殺すつもりだったけど、先にお友達にしてあげるねえ」


 ――え。わたしの、反応で、ターゲットがうつった?


 もしかして。

 もしかすると。


 それ以上考えてはいけない――と頭のどこかが警鐘を鳴らす。


 この、見える寿命というのは。



 ――わたしの行動の結果も含めて、起こる未来が、表示されている?



 陰がどのように考え、どのような行動をするか。

 それも含めて計算されているとしたら。


 もしかしたら、


 自殺しそうな人に、陰が声をかけなかったら、助かったかもしれない。

 事故に遭いそうな人もそうだ。

 陰が別の道を通るように声をかけた人は、声をかけたせいで死んだかもしれない。

 バスの人たちもそうかもしれない。



 今まで助けようとした人の顔が、次々と頭に浮かんだ。



 あの人も


 あの人もあの人も


 あの人もあの人もあの人も


 あの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人もあの人も


 あの人も。


 陰のせいで死んだのかもしれない。


 誰より守りたかった陽菜すら、陰のせいで死ぬことになるのかもしれない。


「ああ――。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「なんだよ、うるっせえ」


 ――わたしが、最初からいなければ。


「お゛、お゛ぇ……」


「きったねえなぁ……」


 ならば、陰は死ぬべき存在だ。

 殺されるべき存在なのだ。


 多くの死者が、陰を見ている気がした。


 陰が殺したかもしれない人たちが、陰を見て手招きをしている。


 あそこにも。

 男の後ろにも、陰の後ろにも。

 およそすべての場所に、死体となった、見覚えのある人たちがいた。



 男が「ひっ」と声をもらす。



 それで理解した。

 これは、幻覚じゃないんだ、と。


「な、なんだよ……。なんだよ、これ……」

 男がおびえた様子を見せる。


 臓腑の奥で何かが割れたような、開いたような、そんな感覚があった。


 なぜか(・・・)怪我の痛みが引いていく。


 多数の死体が、陰と男をめがけて歩いてくる。


「なんだ、これ……」


 ――きっと陰を殺すために、戻ってきたに違いない。


「こ、ここで、一緒に、死にましょう」


 男は恐怖に引きつった顔で叫ぶ。


「い、いやだ。オレは、オレはやり直すんだ……!」


 死体たちはなぜか陰の思う通りに、動いた。


 この男も、陰も死なねばならない。

 人を殺した対価は命で償うべきだろう。


 男も、陰も同じだ。

 男は楽しんで人を殺したが、陰は気付かずに人を殺した。

 その罪の軽重を誰が決めるべきだろうか。


 それは殺された人たちではないだろうか。

 だが彼らは何も話せない。二度と話すことはできない。


 なら、同じ命で贖うべきなのではないだろうか。


 男は死体に矢を何度も放つ。

 だが、死体は無数にいた。


 動く死体たちが陰と男を取り囲み、男を押さえつけた。


 この男を殺せば、陽菜は助かる。

 そのあとで陰も死ねば、少しは償えるのかもしれない。


 しかし陰は人を殺したことなどない。


 覚悟が持てなかった。


「や、やめてくれ。殺さないでくれ。謝る。謝るよ。もちろんお前の友達だって殺さないから……」

 男は卑屈に言う。


「も、もちろん罪だって償う! 自首するよ。なあ、許してくれよ……。お、俺だってやりたくてやったわけじゃないんだ。クビになってむしゃくしゃしてやっちゃったっていうか」

 男が早口で、自分が許されるべき理由を並べ立てる。


 しかしそれはどれも陰の心には響かない。

 さりとて殺す勇気すらも持てない。

 それに、もしかしたら、本当に更生できる可能性もあるかもしれない。


 どこかのコメンテーターは言っていた。

 どんな犯罪者でも更生できる可能性はある。

 その可能性すら奪うのか? と。


 どの選択肢も選べない陰は、どうしようもない半端ものだった。


 どれほど時間が過ぎただろうか。


 声がした。


「おい! 何をやっている!?」

 探索者のパーティだった。

 かなり強そうな見た目に思えた。


 ――よかった。これで、この人を捕まえてもらって。あとで、わたしは死のう。


 そう思った。


 しかし、男が叫んだ。


「助けてくれ! 死霊使いのPKだ! 襲われているんだ!」


「……ち、ちがっ……」


「なんだと!? 今助ける!」

 いうや否や、パーティが死体たちを蹴散らしていく。


 そしてパーティは男を助け出すと、陰を拘束した。


「ち、ちがう。ぴ、PKはその人、です。わたしは、ひがい、しゃ、で……! 矢も、うたれました……! 足も、腕も!」


 陰の言葉に冒険者の男が言う。


「いや……だが、そんな傷跡どこにもないじゃないか」


 陰に傷跡はなくなっていた。


 先ほど目覚めたなにがしかの力の影響かもしれない。


 陰が襲われた証拠は何一つとして、なくなっていた。




   ◆異空 死霊帝女の誕生◆


 ここからは本来訪れるはずだった未来。

 ハルカがやり直したことによって変わることになる、彼がやり直さなかった場合の未来だ。


 パーティは、陰を信じることなく、陰を捕まえた。


「ちがう、ちがう……」と言いながら陰は連行されていった。

 そして警察に、罪人として引き渡された。


 その陰を見送るPKの男の口元は、いやらしく歪んでいた。




 陰は、制限区域探索施設暴力犯罪者――いわゆるPK、ダンジョン内殺人未遂として逮捕された。


 陰の無実を証明するものは何もない。


 ダンジョン犯罪は証拠がない場合でも、無罪放免とはいかない。

 ダンジョンという特性上、目撃者も少なくなるためか、刑が執行されることがある。捕まえたパーティや被害者、加害者の信用度によって大きく判断は変わる。

 冤罪である可能性を考慮してか、罰則はそこまで重たくはない。

 だが、冤罪も多く生み出されている。


 そして陰もまたその冤罪の被害者となった。


 犯してもいない罪を償って、ようやく出所した。

 そのときには、幼馴染の家は別の家族が住んでいた。


 陰はその後しばらく探して、なんとか幼馴染の家族を見つけた。


 だが、すでに幼馴染は亡くなっていた。


 その時、陰は気付いた。


 世界はどうしようもなく冷たいものだ。

 願いは決して叶わない。

 すべて踏みにじられる。


 悪意の顔をした誰かも、善意の顔をした誰かも、陰の願いを踏みにじる。


 陰は幼馴染の眠る墓場に行った。


 両手を合わせて祈りながら思う。


 ――人を、助けたい。そう思うことは、そんなに悪いことだったんでしょうか。ねえ、陽菜ちゃん。わたしは、間違っていましたか?


 肩を触られた。


 青白い手が肩に乗せられていた。


 振り向く。


 人の姿があった。



 それは、幼馴染の姿をしていた。



「……陽菜ちゃん。あなたは、またわたしと居てくれるんですか?」


 陽菜の姿をした死体は答えない。

 無意識に陰が動かしてしまってるのか、わずかにでも幼馴染の意志があるのか。

 陰にはわからない。

 それでも、幼馴染の意志が少しでも残っていてほしいと望んだ。


 そこに幼馴染の意志があるのかどうか、確かめたいと思った。


 人の寿命が、自分のせいでなくなっていたと気付いたときのように、また傷つくかもしれない。


 それでも、確かめたかった。


「……陽菜ちゃん。行きましょうか。誰もいない、二人で過ごせる場所へ」


 きっと、陰が死霊術を極めれば、陽菜の意志がわかる。

 それに、生き返らせる術もあるかもしれない。


 ――もし、恨んでいたら、陽菜にわたしを殺してもらいましょう。


 陰はそう決めた。


 そして二人はダンジョンの奥深くへと、姿を消した。




 ――その後、世間をにぎわせた女子供を狙うPKもまた人知れず姿を消した。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 オレが到着したとき、陰は探索者パーティに取り押さえられていた。


「おい……! その手を放してくれ!」


 オレはそこに割って入った。


 するとPKをしようとしていた男が叫ぶ。


「こいつも仲間だ! さっき二人で俺を殺そうとしてきたんだ!」


 探索者パーティが「なんだと!?」と反応をする。


「違う! その子はPKなんかしていない!」


 オレが叫ぶとパーティの男が返す。


「そんな言葉を信じられるか! 俺たちはゾンビを操ってる姿を見たんだ!」


 PKをしていた男もそれに乗っかって叫ぶ。


「そうだ! そんな証拠がどこにある!」


 そのとき、こんなコメントが流れた。


【※配信中】

【いや、めっちゃありますけど……】

【俺らずっと見てたしなあ】

明日はやり返します!


いつも読んでくれて、ありがとうございます!

フォロー、評価よろしくお願いいたします!

応援よろしくお願いします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!!!


もちぱん太郎

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの、力を覚醒した状態で仲間にできるのか!! [一言] REC…(見てますよーw
[気になる点] 最初は歯切れよく進んでいたのに 後味悪くてスッキリしないまわりくどい展開が多くなってきた
[良い点] 更新お疲れ様です。 ん~…。修正なさったとのことなので一回前話に戻って読み返してから来ましたが…やっぱり最低辺のクズという印象は変わらないですなぁ、この元ゲーマーのカス。 個人的に昔リア…
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