118 PKの人が陰ちゃんのほう現れる
その日の夜には陰と合流して、彼女の幼馴染を死から守ることになっていた。
だが。
その相談の連絡をするために陰に通話をかけたのだが、繋がらない。
陰は時間ぎりぎりまでレベリングをすると言って、ダンジョンへと向かったのだ。
一応持たせておいたドローンを起動するか。
端末を操作すると撮影用のドローンが起動する。
会話が聞こえた。
『……んで、ど、ど、どうして、こんな、ことを……』
『なんでだと思う~?』
知らない男の声が聞こえる。
『お、お金、で、ですか? 今日のダンジョンで出た分の、ドロップは全部、わたし、ますから……』
『ハハッ。ば~か。お前みたいな雑魚のドロップ貰ったっていくらにもなんねーだろうが』
陰がトラブルに巻き込まれている。
オレはそのやり取りを聞いてすぐに駆け出した。
ドローンの位置情報で陰のいるダンジョンを確認する。
今日の予定で聞いた通りのダンジョンに入っているようだ。
洒落にならない状態になっているようで、オレは勝手に配信を開始した。
【え? どしたん?】
【おはるか~】
【ってハルカくんいない? なにこれ】
オレは地面を蹴り、ビルの側面を蹴り、建物の上を跳びながら目的地へと向かう。
「ごめん! ハルカです! 襲われている女の子がいます! 今オレも向かってるんだけど、少し時間がかかりそうです! 近くにいる人、向かってくれませんか!?」
そういってオレはダンジョンの名前を告げた。
◆《SIDE:鳶折陰》
陰はその日もレベルアップに励んでいた。
もしかしたら、強ささえあれば、何人かの人が救えたかもしれない。
だから幼馴染を救うために、陰自身ができることは、レベルを上げて可能性を高めるくらいだった。
ダンジョンの一階層の、奥の方までやってきていた。
そこへ。
「お。陰さん。ちわーす」
最近よく会う男が現れた。
身長はやや高い程度。年齢は二十代半ばくらい。
彼は枯葉色のマントで身を包んでいる。背中には弓を背負っていた。
「あ……、こ、こ、こんにちは」
「どうですか? 調子。今日もソロなんですね」
「は、は、はい。悪くないです」
「陰さんってあんまりお友達とかいないんですね」
「へ、……え?」
なんでそんなことを、と思ったときに、彼は背中の弓を手に取り、構えていた。
弓の方向は陰を向いていた。
自分の後ろにモンスターでも出たのかな、そう思った振りむこうとした。
その時、足に激痛。
「あ、んぐっ……!」
ふくらはぎを矢が貫通していた。
「う、うぐ……うう」
男はにへらと笑う。
男は陰に近づいてきて、陰の身体をまさぐった。
「お。スマホは没収~。連絡されてもめんどうくさいからな」
陰から端末を取り上げると、スマホを遠くに放り捨てた。
「あ、逃げてもいいよ。そのほうが楽しいから」
そう言って陰の身体を蹴った。
「う、ぐ」
足の痛みと身体の痛みで泣きそうになる。
「痛そうだねえ。痛いねえ。大丈夫?」
「いだい……ああ」
「そうだねえ。だめだねー。痛いよねえ」
その時スマホの着信音が流れ出した。
本来、ダンジョン探索ではOFFにしておくべきものだが、陰はつい忘れていた。
「ああ~。誰かな。お友達かな。最近、君のこと色々調べてたけど、お友達いないとおもったけどな」
陰は身体を引きずってスマホの方へと向かう。
予想に反して、男はただ見ているだけだ。
なぜか動く陰の後ろをついてくる。
立ち上がり、足をひきずってスマホにたどり着き拾おうとしたとき。
男はスマホのすぐ近くに矢を放った。
地面がえぐれ、スマホがまた遠くに跳ね飛ばされる。
「ざーんねんだねえ」
「な、なんで、ど、ど、どうして、こんな、ことを……」
男は楽しそうに笑った。
「なんでだと思う~?」
「お、お金、で、ですか? 今日のダンジョンで出た分の、ドロップは全部、わたし、ますから……」
「ハハッ。ば~か。お前みたいな雑魚のドロップ貰ったっていくらにもなんねーだろうが。遊ぼうぜ。PvPだ。ゲームルールは鬼ごっこでいいか。お前が逃げきれたら勝ちな」
「っ……!」
足を矢で打ち抜かれた陰は、片足を引きずりながら逃げようとする。
「おっせえ。おせえなあ~。カメのほうが素早いじゃん」
陰の腕をかすめて、矢が壁に穿たれる。
――どうして。どうしてどうしてどうして。
意味が、わからない。
――まだわたしの寿命はまだまだあったはずなのに。
もしかして、自分のだけは、見えない、とか?
――まだ、死ぬわけには、いかないのにっ……!
あと少し、乗り切れたら、それでよかったのに。
――よりにもよって、なんで今日っ!
今日死んだら、陽菜を救うことができない。
「ほら早く逃げろよ。そのノロマな足でさあ」
死ぬわけには、死ぬわけにはいかない。
ここで私が死んだら、陽菜が死んでしまう。
よたよたと陰は逃げようとする。
男は後ろをついて歩きながら、口を開く。
「がんばるねえ。そんなに死にたくないのかい」
「……こ、こわく、ない。それより、やらなきゃ、いけないことが……」
「そうなんだ。死よりも大切なものがあるんだ。俺もさあ、大切なものあったんだよねえ」
何を言っているかわからないが、チャンスかもしれない。
陰は足をひきずって逃げながら、隙を窺った。
ポーションがスカートの内側に縫ったポケットに入っている。
試験管のような形状の細長い瓶だ。
「昔プロゲーマーやっててさぁ……。俺強すぎてクビになっちゃったんだよね」
まだ、こっちを見ている。
「うぐっ……」
陰は転んでしまった。
だが、このまま服の中でポーション瓶を割って、足に伝わせれば――。
ダメだ。先に、矢を抜かなきゃ。
「雑魚狩り楽しかったのにさぁ……」
「ん、ぐううっ……」
陰は矢を掴んで引き抜こうとした。
「はは。だめだよ。矢じりはそう簡単には抜けないようになっているからね」
返しの部分が、邪魔だった。
陰は矢を折った。
折って、無理やり引き抜く。
「おお。やるねえ」
男はそう言って拍手をした。
陰はこっそりと、スカートの中のポーション瓶を割る。
太ももを伝ってポーションの液体がふくらはぎの傷口にかかる。
傷が少しずつ癒えていく。
――?
男がにやけている。
不思議に思いつつも、陰は傷がいえたことを隠し、足をひきずるようにして、逃げた。
ダンジョンの曲がり角まで来たとき、陰は怪我が治ったことを隠すことをやめた。
走った。
ここからならすぐには視界が通らず、追撃ができないはず。
しかし、もう一度矢が足を射抜いた。
「うぐっ……」
「残念。さっき矢を引き抜いたとき、回復したでしょ? だめじゃない。『やった』みたいな感情を顔に出したらさあ」
逃げられない。
陰の心が絶望に染まっていく。
「いいね。その顔好きだよ。ああ、俺ってやっぱ、優れてるんだなあ……」
「……うう」
「やっぱカスとは、ちげえんだよなあ。オレは。負けるためだけに存在してるカスの養分どもがさあ。俺をクビにしなきゃよぉ、俺の被害者も出なかったのになあ。恨むなら俺じゃなくてオレをクビにしたとこを恨めよ」
そう言って男は何か、企業名とチームの名前のようなものを言っていた。
「た、助けて、助けてください……。おねがい、します……」
「やだよ。だって君つまんないからさぁ。君のこと最近調べたけど、家族とかも家にいないっしょ? 家族仲悪い感じだろうし、君が死んでも、誰も困らないよね」
それは、そうだった。
陰が人の寿命が見えると言い出したあたりから、様々な問題が起こった。
両親は最初は信じてくれなかったし、途中から気味の悪い化け物扱い。教師は嘘をつくなといって、両親にそのことを告げるような電話をしたらしい。
様々な問題を起こした陰を愛してくれる人は、もういない。
誰一人としていない。
いや、一人だけいた。
陽菜だけだった。
あの優しい幼馴染だけが、陰の味方だった。
だからどんなに無様でも、何をしてでも、あの子だけは、救うんだ。
「こ、ころさないで」
「ん~? どうしよっかな~」
「明日、明日なら、殺してもいいから……」
「ふーん? なんだ、君わかってるねえ」
「だから、ゆ、許してください……」
「やーだよ」
今度は陰の腕を矢が射抜いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
オレはその地獄のような動画を見ながら、全速力で走っていた。
もしかしたら、この有様を見たら、近くにいる誰かが助けに行ってくれるかもしれない。
そう思って配信はつけっぱなしにしている。
【ハルくん急いで】
【この子、もうやばそう】
【というかずっとヤバそう。弄ばれてるから、死んでないだけ。いつ死んでもおかしくない】
「わかってる!」
いつも読んでくれて、ありがとうございます!
ちょっとフラストレーションたまる展開でごめんなさい!
明日で反転、明後日からざまあ(?)とはちょっと違いますが、そんな感じで行きたいと思ってます!
悪いことにはならないよ!
応援よろしくお願いします!!
どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!!!
もちぱん太郎