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王国会談



 俺はクリームヒルトたちのもとへと戻り、戦いを始めた。

 俺たちは集団で防壁を構築し、魔物たちの侵入を防ぐことに成功した。クリームヒルトのブレスと、俺の植物の魔法を合わせた強固な防壁だ。

 防壁の上から大河が〈白雷〉のスキルを使い、敵を大いに激減させた。遮るもののない平地というのは、守りにくくはあるが攻撃のしやすい場所だ。それが効果的に作用した。


 大パステラ王国の兵士たちも良く戦っていた。彼らは高度な魔法と強力な武器で、多くの魔物たちを葬っていた。

 思えば人間の兵士の戦いを見るのは、これが初めてかもしれない。過去、魔王の時代に魔物たちに蹂躙されていたとは考えられないような活躍だった。この点は、アルフレッドも誤算しているのかもしれないと思った。奴の人間に関する知識は過去のままで止まっているだろうからな。


 とにかく、そうして俺たち全員の力で魔物を撃退した。

 といっても、奴らは無限に湧いてくる。防壁の上から定期的に掃討していく必要がある。最初はクリームヒルトや大河が大規模攻撃で対応していた。

 しかし今は少し状況が異なる。〈グランランド〉からの援軍がこちらにやってきたのだ。クリームヒルトの命を受けた彼らは、主に森側から魔物を攻撃し、大いに大打撃を与えた。その分こちら側への魔物の流入が減り、大規模な掃討が必要なくなった。

 

 そして、余裕の生まれた俺たちは、改めて今後の行動を考えることとなった。

 もちろん、王国側も含めての作戦会議だ。


 首都近郊、平原にて。

 首都の外壁の外には小さな平原が広がっている。そこからしばらく行くと森になるのだが、今は魔物たちによって埋め尽くされている危険地帯だ。

 ここには魔物の侵攻を食い止めるために兵士たちが集まっており、テントを張って将軍たちが指揮を執っている。現場の最前線だ。一時はかなり混乱した様子だったが、今は少し落ち着いている。

 そこに、俺たちは集まっていた。

 

「初めまして、〈グランランド〉の盟主殿。このような品のない場所での会談となってすまない。緊急時ということで理解してしたまえ」

 

 そう言って、大将軍と名乗ったアルバートは俺たちを出迎えた。

 俺と会ってからまだ三日しかたっていないのだが、まさかこんなに早く面談できるとは思ってなかった。


「初めまして、〈グランランド〉盟主、クリームヒルトだ。あなたがこの国の王、という理解でいいのか?」

「亡くなった女王陛下は後継者を定めていなかった。従って今、我々王位継承候補一同が合議によって国の方針を決めることとしている。そして今は国家の一大事なので、私が一時的に全権を握る形で、国王代理の任に着いたのだよ」


 つまりは、実質的に国王と言うことらしい。有事の際には軍人の発言力が上がる。王位継承候補であることを考えても、彼との交渉は国王との交渉に等しいはずだ。


「さて、お互い忙しい身である。面倒な儀礼は省いて本題から入らせてもらおう」


 鎧を着て現場に出てきているだけあって、あまり礼儀作法にこだわる人物ではないらしい。その方が話しやすくていい。


「我々は自分たちを守ることに全力であった。従って伝令など出していない。つまりこの魔物の大侵攻は、おそらく周囲の国も我が国の他の都市も知らぬ状況であろう。このまま魔物との戦いになれば、大混乱になり国が崩壊してしまう」

「…………」

「まずはこの緊急事態を我が国の、そして他の国のすべてに伝える必要がある」

 確かに、このままじゃあ一大事だからな。

「翼を持つ亜人がいれば協力してもらいたい。私が国王代理として証書を用意し、国家の正式な使者として亜人を任命しよう」

「それはあたしたちに命令しているということか? 危険な仕事を、何の対価もなしに?」

「空を飛べるとはいえ危険な任務には変わるまい。後日、相応の報酬を支払うと約束しよう。また先王が定めた亜人に対する懲罰的な税については改めても良い。そしてこの戦いが終わった暁には、〈グランランド〉を国家として承認すると約束しよう」

「…………」


 承認、か。

 そんなものはなくてもすでにあの国は独立した国だ。それを後から認めるとか、上から目線で言ってくるのははっきり言って失礼なのではないかと思う。

 まあ、それでもあの女王のことを思い出したら随分とましになったものだと思わざるを得ない。一切の妥協を許さないあの人であれば、承認どころか軍を派遣して攻撃してきてもおかしくない。実際、魔物がいなかったらそうしてたんじゃないだろうか。


 あんな人が上に立っていたんだ。国内には亜人のことを叩きたくて仕方ない人も多いのだろう。そんな状態で亜人を敬います認めますなんて何の下準備もなく言いまわれば、それこそ余計な反発を生み出しかねない。

 使者に任命して証書も用意するんだ。ここは信頼してもいいだろう、と俺は思うのだが。

 

「……我ら〈グランランド〉としては、貴国との平和な友好関係を望んでいる。従ってこのたびの一大事に対して、協力を惜しまないつもりだ」

「おお、助かるぞ盟主殿っ!」


 どうやら、クリームヒルトも俺と同じく冷静に判断したらしい。

 彼女は本当に大人になったと痛感する。かつて出会ったばかりの頃は、まだ幼さが抜けず指導者としては致命的なまでに向こう見ずなところもあった。しかし時の流れと経験が、彼女を王としてふさわしい者にした。

 今の彼女であれば、亡き父であるフランツさんも認めざるを得ないだろう。


「この国の、そして他国の援助を得て今度こそ魔王を滅ぼすっ! 我らは西の森に進行するが、協力的な亜人は殺さないよう厳命しよう。魔王に協力している愚か者はその限りではないが……」

「あたしたちもすでに軍をこちらに派遣している。名目上、魔王領は貴国の領地ということになるが、こちらには侵略の意図はない。ただ、この世界の亜人が平和で過ごせる世界を作るため……。どうかご理解いただきたい」

「頼もしいっ! では我らの力で世界を救うとしようっ!」


 二人は固く握手をして、お互いの信頼を深めた。


 そして、最後の戦いが始まる。


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