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目覚めたアリス

 俺とクリームヒルトは、エルフやクラスメイトたちを助けるために森の中へ入った。

 すでに索敵を終えた彼らと接触するのは容易で、そこから簡単な戦闘となった。


 しかしその場にいるクラスメイトたちは大河や瑠奈よりも明らかに格落ちで、数の上でも質の上でも俺たちの戦闘力が圧倒していた。結果として一人も死なせることなく、植物や氷のブレスを使い簡単に拘束。あとは俺が〈森羅草々〉によって生み出した麻酔薬を嗅がせ、昏睡状態にした。

 生き残ったエルフ族の女性は俺が事情を説明し、クリームヒルトの切り開いた北東の拠点へと連れていくことになった。遠いが安全な場所だ。アルフレッドや女王の追っ手がかかる心配もないだろう。亜人の数人が道案内役として別れた。


 そして残った者で昏睡状態のクラスメイトを運び、例の遺跡へと連れていった。

 正直かなりの大人数だ。だけど、ラミエルは俺たちのことを特に文句を言うこともなく出迎えてくれた。


 こうして、俺は再び遺跡に戻ってきたのだった。


 遺跡の奥、〈古代樹〉に囲まれた場所。

 ついこの前俺が目を覚ましたこの場所に、大河や瑠奈や……他のクラスメイト達が並べられている。

 すでに治療は始まっているのだ。ちなみにアリスも〈災厄〉とは関係ないがここに眠らせている。ここしか人を寝かせるところがないからな。


 何十年もかかるあの治療法は、長寿の亜人向けの技術だ。エルフの力を継承した俺ならともかく、ただの人間であるクラスメイトたちにその歳月はあまりに辛い。でもそれでも正気を失って死んでしまうよりはましだ。

 ……またいつか、話ができると信じて。


「クリス、今後のことについて少し話をしたいんだ」

「ああ、うん、大丈夫だ。俺が特に何かできるわけじゃないからな」


 別に俺が治療をしているわけではないからな。時間だけはあるんだ。


「クリス、この人たちと知り合いなのか? 友達の子供とかじゃなくて? この人たち人間族だよな? 寿命と年齢が……」

「まあ、そこには深い事情があるんだ。また、落ち着いた時にでも話をするよ」


 今はまだ心が……落ち着かなかった。


「……そうだな、こいつら普通の人間なんだよな。これから〈災厄〉の治療をして、何十年もたったら、死んじゃうかもしれないんだよな。どうして……俺たちがこんなことに」

「ん? クリス。そんなに時間はかからないぞ?」


 と、不思議そうに言うクリームヒルト。

 どういうことだ? 俺は数十年かかったって話だったよな? 


「数十年かかったのはクリスの時の話だ。あれからこの〈災厄〉の力に対して研究が進んでて、もっと早く完治できるぞ。クリスだって最初は六十年とか言われてたんだからな」

「そ、そうなのかっ!」

「待ってろ、少しラミエルに聞いてくる。あたしはそういうこと全然分からないからな」


 ぴゅーん、と風のように飛んでいったクリームヒルト。無駄に元気が良くて微笑ましい。 

 とにかく、瑠奈や大河は思ったよりも早く目覚めるかもしれないらしい。数十年後、やっと老人になってから自由を取り戻した……なんて展開かとばかり思っていたのに。

 良かった。


 なんてぼんやりとしていたら、アリスが目を覚ました。


「クリ……ス?」


 目をこすりながら、寝ぼけた様子でこちらを見ている。〈災厄〉に支配されている様子もない。大きなけがも、変な意識障害もなさそうだ。

 つまり……俺はやっと、完全にアリスを取り戻したらしい。


「アリス……」


 俺は彼女の手を握りしめた。

 本当に、今日までいろいろなことがあったんだ。何もかも信じられなくて、まるで夢のようで……。アレンも、村長も、そして村のみんなも……。すべてが……懐かしい遠い過去だった。


「クリスなんだよね?」

「ああ、俺だよ。どうしたんだ急にそんなことを。ついこの前、一緒に結婚式を挙げただろ?」

「良かったっ! あの時、結婚式で火事になってるのを見て、クリスが死んだんじゃないかって、あたし……本当に……」

「……俺は大丈夫だ」


 本当は大丈夫じゃなかったんだけど。一度死んでしまったという事実を話さないわけにはいかないが、果たしてそれを知って彼女の精神が耐えられるのだろうか?

 いや、いつまでも先延ばしにしておくわけにはいかない。誤魔化せる話でもない。やはり……ある程度は真実を……。


「村の皆は? 確か……火事のあとに……人間が。あたしたちの村はどうなったの?」

「村は……兵士たちに襲われて……、もうなくなってたよ。建物が焼けてて……。女性たちは何とか助けられたけど、男性は……たぶん全員……」

「本当に……そうなのね」


 憔悴気味のアリスに、俺は困惑した。

 男は殺されて女は奴隷にされそうだった、なんて……アリスには言えなかった。あれから数年の時が流れている俺と違って、アリスにとってはつい昨日の出来事なのだから……。


「どうしよう、村がなくなったなんて。あたしたち、これからどうすれば……」

「な、泣くなって! 安心しろ、俺がこの後のことも考えてるから」

「ううう……か、考えてるって、あたしたち村の外に出たことないのよ。こんなところに放りだされたら、もう死ぬしかない。うううええええんん、クリスううううう、死ぬときはぁ……二人で……うう……抱き合って……ぐすん……死のうねぇ」

「大丈夫、大丈夫だから」


 そう……だよな。アリスの記憶の中では俺は村を出たことのない幼馴染なんだ。何を言っても机上の空論、と思われてしまっても仕方ない。


「クリス、どうしてそんなに強いの? 村がなくなって、怖くないの?」

「なあアリス。俺さ、ここに来るまで一緒にいた亜人の女の子と知り合いなんだ。村長にも大昔に会ったことがある。俺はアリスが知らないことをいっぱい知ってる。だから本当に大丈夫なんだ。俺に任せておけ」

「え? でもクリス。あたしたち村を出たことがないのに……」

「前世の記憶が蘇った、って言ったら信じるか?」


 お前の知り合いのクリスは死にました、なんて今のアリスには言えないよな……。埋葬した死体を見せるわけにもいかない。

 実際、俺としても自分がクリスだという自覚もあるから、間違った表現ではないと思うが……。


「前世の、記憶?」

「そうなんだ。村で死にかけた時に蘇ってな。だから俺はいろいろ知ってるんだ。あの亜人と女の子とも、一緒に連れてきた人間とも、それに村長のことだって」

「そっか、だから村長、クリスのことをクリフって呼んでたのね」

「あいつは前世で俺と戦った悪党なんだ。エルフに化けた恐ろしい人間。でもまさか、魔王の力を取り込んでるなんて……」

「クリス~、聞いてきたぞ~」


 クリームヒルトが戻ってきた。

 どうやら、彼女も交えて話をする必要がありそうだ。


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