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アルフレッドの本体


 多くの亜人が戦っていた。

 アルフレッドの生み出した巨大な脚は、周囲を巻き込み戦争のような状態を生み出していた。

 それは魔王との戦いで疲弊した俺たちにとって、明らかに過酷な試練であった。


 俺がアルフレッドを殺す。そしてこの争いに、終止符を打ってみせる。

 そう思い、俺はたどり着いた。


「ここか……」


 俺は今、『空』にいる。

 いつか滑空して空を移動したのとは違い、鳥のように空を飛んでいる状態だ。もちろんクリームヒルトに抱えてもらって飛んでいるわけではない。自分の力で、今、俺はこの場にたどり着いた。


 〈緑神〉を参考に生み出した、新たな力。

 植物の翼……名付けるとすれば〈緑翼〉だろうか。


 乾燥し質量の低い枯れ枝や枯れ葉を身に着け、骨格や外皮を作成。そこから枯れ枝の中心に生きた植物のツタを通し、これを伸縮させることによってはばたかせる。

 ツタを筋肉や神経のように使った、まさに生き物のような構成をしたパーツ。感覚こそ通っていないものの、自由自在に動かすことのできる俺の新たな力だった。


「すごいな、クリス。まさか本当に翼を作りあげるなんて。お前はどこまで強くなれるんだ?」

「あいつを殺すためなら、どこまでも強くなってみせるさ」

「はぁ、かっこいい……。さすがあたしのクリス。この戦いが終わったら、あたしたち……」

「あれは……」

「ん?」

「見てくれ」


 クラーケンの中心。

 ちょうど頭の頂点になる部分には、脚と同じように別種族の身体が生えていた。腕ではなく、体そのものだ。生えているというよりは、下半身が埋まった状態でそこにいると言った方が適切かもしれない。

 その上半身は、見覚えのある人間のものだった。


「アルフ……レッドか」


 あの見た目。

 間違えるはずがない。

 この事件を起こした張本人。俺たち亜人の天敵。亜人に……そして世界の未来に災いをもたらす最強の邪悪。俺たちにとっては魔王にすら等しい、その男。


「こちらには……気が付いてないみたいだな」


 上空よりも、足元の方が気になるんだろうな。

 クラーケンの足元では未だ多くの亜人たちが戦っている。必死に、そして傷つきながらも一歩一歩前に踏み出そうとしている。

 アルフレッドはその巨体で亜人たちを踏みつぶし、戦いを楽しんでいるようだった。


 あからさまに本体であり弱点。あのアルフレッドの体を叩き潰すことができれば、おそらく……この戦いは終わる。

 とはいえそう簡単にはいかないだろう。俺たちは今奇襲のチャンスではあるが、だからといって奴の耐久力がそう低いとは思えない。


「あたしがブレスで攻撃してみる。ここからなら下に被害は出ないと思うから」


 なるほど、これだけ高い場所にいれば、周囲の被害を気にしなくてもすむな。


「そうだな、それでいい。俺はブレスの側方から奴に突撃して、肉弾戦に持ち込んでみるよ」


 おそらくブレスだけで倒しきることは不可能だ。だから俺が追撃で止めを刺す形にしていきたい。 

 〈枝剣〉、〈寄生樹〉、〈爆炎草〉……。ありとあらゆる力を奴に叩きこんで、何としてもこの戦いを終わらせてみせる。仮にそこまでいかなかったとしても、重大なダメージを与えるレベルまでは持っていきたい。


「じゃあ、いくぞ! クリスっ!」


 クリームヒルトが大きく息を吸い、ブレスの構えを取った。俺もまた彼女に呼応するように、少し離れた東の位置に陣取る。


 クリームヒルトが炎のブレスを放った。威力を殺さず全力で放ったその力は、まさしく自然災害級の規模だった。小さな山であれば一瞬で禿山になってしまうほどに……恐ろしく高出力の炎。しかしそれでもこの空中における戦いでは、地表にまで及ぶことはない。

 続いて俺は側方から全力で叩く。

 出し惜しみはない。すべての力を……あいつにぶつけるんだ。


 タイミングは完璧だった。

 俺の力も、惜しみになく注がれた。

 だが……。


「痛ぇじゃねーか、クリフ」

「アルフレッド……」


 それでも奴には届かなかった。

 当然のようにクリームヒルトのブレスを受けたあいつは、それに全く怯むことなく俺の攻撃を受け入れた。〈枝剣〉は折れ、〈寄生樹〉は硬化で防がれ、〈爆炎草〉も〈枝針〉も……すべてが無力だった。

 ここまで、奴は強いと言うのか? 本当に……史実で奴は魔王と相打ちだったのか? 俺にはこいつの方が……よほど化け物じみた魔王的な存在のように思えた。


「くくくっ、お前も飛んでここまで来れるようになっちまったか。まあ、それでいい、それでいいぜ。そうでなきゃならねぇ。お前はこの勇者アルフレッドの冒険譚における最後にして最大の障害だ。この特等席で、よーく拝んでおくんだな」

 

 折れた剣を向ける俺のことなど、全く敵として認識していないらしい。呆然とする俺たちを前に、アルフレッドはただ……言葉を向けるだけだった。


「見ろ」


 視線の先は下。すなわち、地上。

 地上を見ると、多くの亜人たちが戦っていた。ここから見る彼らはまるで虫か何かのように小さく、それが巨大な脚によって潰されている様子はあまりにも現実感のない光景だった。


「今も亜人が死んでいる。俺の〈暴食〉で体を痛めつけられ、そのあと虫みてぇにプチプチと潰れてな。ははっ、かわいそうな奴らだ。余計なことをせず村の中で慎ましく過ごしていれば、こんなことにはなんなかったのによぉ。クリフ、お前が悪いんだぜ? お前があいつらを唆してここまで連れてきたからだ。弱いなら大人しくしていればよかったものを……」

「アルフレッド……お前……」


 こいつは、本当に亜人のことを人だと思っていないんだな。こんなにも殺しておいて……全く心を痛めていないなんて……。


「よくも……よくも亜人たちを。絶対に許さないぞアルフレッド。殺す……殺す殺す殺す殺してやるっ!」

「おいおい、クリフ。どうしちまったんだ。俺が憎いか? 殺したいか? ははっ、こいつは愉快だっ! お前に殺意を向けられるのは悪くないっ!」

「俺がお前を殺してやるっ! 絶対にっ!」

「……くくく、威勢だけはいいな。だがお前の殺意は無意味……そして無念に終わる。まあ、お前とはいろいろあったが、ここで終いにしようや」

 

 そんな言葉を吐くと、アルフレッドはその手に力を籠め……炎の塊を出現させた。ブレスを圧縮したようなその球体は、まるでマグマか何かのように高熱と光を放出し続けている。


「死ね、クリフ」


 アルフレッドの放つ球体が、こちらに迫ってきた。


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