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鬼紋の脚

 アルフレッド、巨大化。

 クラーケンと化したアルフレッドは広大な魔王城を叩き潰し、そこで戦っていた多くの亜人と魔物たちをも巻き添えにしてしまった。

 もう、魔族だの魔物だの言っている余裕はなくなった。俺たちの敵は完全にアルフレッドとなってしまったのだ。


「くそっ!」

 

 俺はクラーケンの脚を切り裂いていた。

 クラーケンの脚自体はとても弱く、剣で切り裂くことは容易だった。だが小さな山以上のでかさのこいつにとって、剣で付けた傷などかすり傷のようなものだろう。


「栗栖、あたしが空からブレスでっ!」

「ま、待ってくれっ! まだ下には亜人たちが……」 

 

 本来であれば広域のブレスを使用して一気にアルフレッドの身体を攻撃してしまいたい。しかし周囲では亜人の仲間が戦っており、この下の瓦礫には多くの亜人たちが生き埋めになっているのだ。広域攻撃は瀕死の彼らを犠牲にしてしまうことになる。軽々しくは使えない。


「小さく対処していくしかない。クリームヒルトも上からじゃなくて下から上に放つブレスだったら上手く的を絞れるはずだ。そっちの方向でやってみてくれ」

「仕方ない」


 もっとも、この巨体で的を絞ってしまったら、範囲はかなり狭まってしまうんだけどな。

 もどかしいが、物理攻撃で少しずつ削っていくしかない。いくら奴が変身に長けているとはいっても、傷自体はダメージとして残るはずだ。


 いや待てよ……。この方法なら。

 新たな戦法を考えた俺は、即座に準備を開始する。


「――〈寄生樹〉」


 そう。

 この手の中に出現した種子は、ついさっき魔王を死に至らしめた植物――〈寄生樹〉。

 魔王を倒したこの〈寄生樹〉であれば、周囲を犠牲にすることなくクラーケンの身体だけを破壊できるはずだ。まさに今の事態にうってつけの兵器。どうしてもっと早く使うことを思いつかなかったのだろうか。


「やれっ!」


 クラーケンの脚に種を投げつけ、血を与えて活性化させる。かつて魔王は〈魔神刀〉でこの力に抵抗していたが、クラーケンではそんなものは何もなかった。こちらを見る目が不十分なのか、あるいは未知の攻撃を把握していないのか、どちらにしろこれはチャンスだ。

 〈寄生樹〉はすさまじい速度でクラーケンの脚を侵食していった。たとえ巨大な体であったとしても、中から浸食していく力に耐えられるか? 上手くいけば体全体を崩壊させることも可能かもしれない。


「な……に……」


 しかし、俺の目論見は失敗してしまった。

 突然、クラーケンの脚が硬化したのだ。

 皮膚を硬くした、というよりはまるで岩石か何かのようにその見た目を変化させたクラーケンの脚。おそらくは単純な強化などではなく、〈暴食〉によって岩の魔物か何かに一部を変化させたのだろう。

 〈寄生樹〉の根は硬化したクラーケンの脚にたどり着くと、行き場を失って地面に落ちてしまった。そこから活性化することなく、しぼんで枯れてしまう。 


 失敗だ。

 自らを鉱物に似た体に変えることによって、植物の侵入を防ぐ。〈暴食〉という技を持った奴にしかできない方法だ。

 だがこのやり方は〈寄生樹〉にとってあまりにも致命的だった。魔王の時のように体に根が侵入していかない。目の前の鉱物が生き物であると認識できていないのだ。


 やはり、しらみつぶしに潰していくしかないのか?

 もどかしい。

 

 俺は周囲の状況を確認しながら、近くの脚を傷つけていった。


「ああああああああああああああああっ!」


 突然、近くで亜人の悲鳴が聞こえた。アルフレッドの力に押されてしまっているのだろう。助けにいかなければ。


「大丈夫かっ!」


 苦しむオークをクラーケンの脚から引きはがし、距離を取る。


「これ……は……」


 クラーケンの脚から腕が生えていた。その腕には見覚えのある紋様が浮き出て、筋肉質に強化されている。


「これは……ナターシャの〈鬼紋〉」


 まさか、こんなところで出会えるなんて。奴にとってもこの戦いが総力戦だったということか。どこかにいるとは思ってたんだけどな。


「…………」


 本当なら、彼女の力は魔王を倒すために役立つはずだった。それをこんなことに……亜人を殺すために利用されるだなんて、絶対に許されることじゃないっ!

 怒りに任せ、俺は剣を腕へと向けた……のだが。 


「痛っ!」


 硬いっ!

 ナターシャの〈鬼紋〉は想像以上に強固で、俺の〈枝剣〉を完全にへし折ってしまった。

 こうして対峙するのは初めてということになるが、鬼族というのは本当に優秀な一族だったんだな。

 アルフレッドが取り込んだ亜人は多数。その能力は様々だ。俺が最初に相手をしたワーウルフは……それほど強い個体ではなかったのだろう。


 さて、感心してばかりもいられない。今は戦いのさなかなのだ。こいつを倒してしまわなければならない……。

 どうする?


「――〈爆炎草〉」


 俺は新たな植物を使用することにした。

 〈爆炎草〉。

 これは爆薬のように爆発する草だ。数を集めればかなりの威力を発揮できるのだが、普通の敵には上手く利用できない。出現から爆発まで時間がかかり、俊敏に動く生き物であれば、草から逃げれば良いのだから。

 だが、敵がこの鈍重な巨体であれば利用価値はあるだろう。爆破の範囲も限られているから周囲に被害が及ぶこともない。


 俺は少し離れて、爆炎草を爆発させた。

 ポン、と空気の弾ける音が響いた。わずかな熱と空気が周囲に拡散する。狭い範囲で威力が閉じ込められている証拠だ。


「…………」


 煙が晴れ、その威力が露わとなる。

 爆発は完全に〈鬼紋〉を凌駕していた。生えていた鬼族の腕と、そしてその周囲にあったクラーケンの脚をごっそりと爆散させている。


「立てるか?」


 俺は座り込んでいた亜人に手を差し出した。

 彼は俺の手を取ることなく、自分の力で立ち上がった。


「……まだ、戦えます」

「ありがとう、無理をしなくていいから 倒しやすい奴だけ相手をしてくれ。俺はこの先に向かう」

「……ご武運を」

 

 この分だと、まずいな。

 強い力に当たってしまった亜人は、命の危機に瀕しているかもしれない。この規模、この強さで全員を助けることは不可能だ。やはりアルフレッド自体に止めを刺してしまわなければ、いつまでもたっても終わらない。

 変身したアルフレッド自体を叩くために、どうすればいいのか? やはり、普通に考えるならクラーケンの頭部を狙うべきだ。脚の位置……建物の中心。あの時、変身したアルフレッド立っていた魔王城の玉座のあたり。

 

 俺は目標を定め、さらに移動を開始した。

 この戦いに終止符を打つため。邪魔が入っても、絶対に前に進んでみせる。


 俺はアルフレッドを殺す。

 必ず、だ。


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