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そして結婚へ……


 俺は決闘に勝利した。


「ば……馬鹿な、アレンが……負けてしまうじゃと。こんなことが……し、信じられぬ」


 まるで自分が負けてしまったかのようにショックを受けながら、村長は両膝を付いて天を仰いでいる。そんなに俺のことが気に入らなかったのか?

 だけど俺は勝利した。そして周りにはそれを証明してくれる観客たちがいる。

 もう、村長は逃げることができないのだ。いかに権力者といえど、これだけの人数を敵に回すことはできないはずだ。


「これでいいだろう村長さん。俺たちの婚約……いや……」


 婚約だと言って先延ばしにしたら、またアレンの奴が良からぬことを考えるかもしれない。ここは……。


「俺たちの結婚、認めてくれるよな? すぐに式を挙げたいんだが」


 村のみんなに祝福されて、式を挙げればもうアレンは絶対に手出しできないだろう。

 俺は勝利したんだ。この程度のわがままは許されて欲しい。


 村長は歯軋りの音が聞こえるほどに悔しがっていたが、やがて……ゆっくりと顔を上げた。


「よ、よかろう。では二週間後、婚礼の儀を行うこととしよう」


 よし!


 俺は思わずガッツポーズを決めた。


「クリスっ!」


 観衆をかき分け、アリスが走ってきた。目には涙を浮かべている。


「アリスっ! 俺、やったぞ! 見てたか!」

「すごいわクリス! まさか、あのアレンに勝つなんて。あたし、もう絶対ダメだって思ってた」

「はははっ、少しは俺のこと信用しろよ。俺の愛の力がそんなに信じられなかったか?」

「だって……だってぇ……あたし……」


 そこから先は、言葉になっていなかった。

 泣いているアリスを抱きしめながら、俺は仲間たちの祝福を受ける。俺の望んだ、完璧な形での勝利だ。


 座り込む村長、そしてこの場にいないアレンを除き、すべての村人から祝福をされながら、俺たちは広場を抜ける。 


 ああ……いいな、これ。

 前世のことを思い出しながら、俺はつくづくとそう思う。

 高校を卒業して、地方の大学を出て、気が付いたら底辺社畜になっていた。誰かに頭を下げて、残業して、叱られて脅されて、なんでこんな風に人生歩んでるんだろうなって思った。

 高校の時に付き合ってた彼女や友人とは疎遠になり、仕事でしか話すこともなくなった。なんでこんな人生を歩んでいるんだろうかと、ふと、物思いに耽ることも多かった。

 でも、この世界は違う。


 俺は生まれ変わった。

 人生が変わった。

 勝利をつかみ取ったんだ。



 二週間後。

 

 俺たちの結婚式が開かれた。

 正式な決闘という形で結婚を決めた俺たちに、もはや障害など何もなかった。アレンはもとより、村長でさえも口を挟むことができない様子で、スムーズに話が進んでいった。

 そして、今日を迎えた。

 

 結婚式というのはこの小さな村においても一大イベントだ。

 俺たちはそれらしく着飾るため、新郎新婦部屋に分かれて準備をしている。どこかの原始人みたいに入れ墨したり動物の羽を身に着けたりといった感じではなく、適当に服を着てメイクをしてといった様子だ。派手さはないが、奇抜さもない。俺としては十分に許される範囲だった。


 やがて、準備を終えた俺は建物の外に出た。


 太陽が、見えない。

 少し天気が悪いようだ。できれば快晴の日が良かったのだが、段取りを決めた以上日付を変えるわけにもいかない。ここは我慢するとしよう。


 俺はゆっくりと、広場まで歩いていった。

 

 広場の中央には大きな焚き木、そして周囲は綺麗な花とツルによって装飾されている。決闘の時みたいに、周囲には観客となる村人たちが座っている。

 そして、広場の入り口にアリスがいた。


 アリスはウェディングドレス風の衣装を身に着けていた。

 自分で作ったのだろうか、この村では見たことのないほどに洗練された煌びやかな衣装だ。適当に綺麗な服を着ている俺が申し訳なく感じてしまうレベルだ。


挿絵(By みてみん)


 俺のことを見つけたアリスが、照れくさそうにそう言った。


「クリス、かっこいい」

「アリスも……綺麗だ」


 …………。

 俺たち、緊張しすぎてちょっとおかしくなってるかもしれないな。

 ええい、やめようやめよう。このままじゃあ恥ずかしがってた思い出しかなくなっちゃうぞ! せっかくの記念日じゃないか俺! 正気を取り戻せっ! 


「幸せになろうなアリスっ!」

「うんっ!」


 迷いは、振り切れた。


「じゃあ行こうかアリス」


 俺はアリスと手をつなぎ、広場の中央へと歩いてく。


 みんなが俺を祝福してくれる。

 

 拍手と温かい言葉が、まるで紙吹雪のように降り注いでいる。


「みんな、ありがとう!」


 手を振りながら、俺は周囲を見渡した。


 少し離れた家の影にアレンを見つけた。あまり俺たちを祝福してくれているようには見えないが、もう文句を言ったりこの式を邪魔したりする気力もない様子だ。


 村長がいない。

 まあ、あいつは明らかにアレンを応援してたからな。面目丸つぶれってやつだ。俺の顔を見たくもないだろうし、ましてや結婚を祝福なんてしたくもないだろう。

 でも、同じ村にいる以上は無視できないよな。ほとぼりが冷めたら話をして、仲直りできないか考えておこう……。


 曇り空というのは少し残念だが、そんな細かいことは関係ない。雨が降っても、雪が降っても、嵐が来ても雹が降っても、俺の心は澄んだ青空のように暖かく落ち着いていた。


「森の精霊の名のもとに、汝ら二人に永遠の祝福を」


 神父役の老エルフが、祝福の言葉を授けてくれた。


「永遠の誓いをここに」


 永遠の誓い。

 ずっと夫婦でいるという精霊の誓い――要するにキスしろということだ。

 

「アリス」

「クリス」


 みんなの祝福を受けて、俺たちは……今日、結ばれる。


 そして、俺とアリスの唇が触れ合う……その瞬間。


 ――世界が爆ぜた。


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