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緑神の秘策


 魔王と俺たちの戦い。

 俺一人で敵わなかったとしても、亜人のみんなの力を合わせれば……きっと。

 だから、俺たちは立ち向かう。


 オークはその強靭な肉体で果敢にも壁に立ち向かった。

 鬼族は〈鬼紋〉を使い強化した拳を叩きつけた。

 魚人族は水属性の魔法をぶつけた。

 ドワーフは強力な武器を叩きつけた。

 

 数多の種族が、それぞれの能力を生かした攻撃を加えていく。

 そして――


「これで、貫くっ!」


 クリームヒルトは手刀とブレスを重ねた。

 すると、わずかにひび割れた〈魔神刀〉の壁が、クリームヒルトの手刀を中心に完全に砕け散った。


「よしっ!」


 一人一人、それほど大きい力ではなかった。しかし一列に並んだ亜人たちが一斉に集中攻撃を加えたことによって、確かに……あの破壊の権化である〈魔神刀〉の力を砕いたのだ。

 

「無駄なことを……あと何度、この力に耐えられるかな?」


 魔王は全く怯まず、再び斬撃の壁を発生させた。

 奴が疲れているようには見えない。しかし、俺たちは何かをするたびに体力や耐久力を失い、確実に弱体化している。魔王のこの戦略は正しいのかもしれないが、だからといって俺たちが撤退するわけにもいかない。

 もし逃げるとすれば、少なくともそれは俺たちが力を出し切った後だ。どこかで奴に隙が生まれれば、その機を逃さない。無限の力なんて存在しないはず。どこかに……綻びがきっと……。

 そんな絶望的な希望に縋りながら四度目に壁を打ち破ったまさにその時、魔王側に重大な変化が生じた。


「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 〈魔神刀〉が、砕けた。

 強大な力を秘めていたその刀は、突如として砕け散ってしまった。俺たちの中であの刀自体に攻撃した者はいない。おそらく、斬撃の力を放出しすぎて刀自体が力尽きてしまったのだろう。

 犠牲を厭わず、何度も何度も奴の力を打ち砕いた俺たちは、奴との根競べに勝利したのだった。


「こ……こんな、ただの力押しに、我が力が……」

 

 失望の言葉を吐く魔王だが、まだ戦意は喪失していないようだった。再びその手を構え、魔物たちを集中させ始めている。おそらく第二の〈魔神刀〉を完成させようとしているのだ。

 だがあまりにも決定的でそして分かりやすいこの隙を、俺たちが見逃すはずもなかった。


「いまだあああああああああああああああああっ!」


 再び〈緑神〉に跨り高速移動。

 奴に〈魔神刀〉を生み出す隙を与えてはならない。また同じことを繰り返したら、今度

こそ俺たちは力尽きてしまうかもしれないのだから。

 〈魔神刀〉は魔物を生贄として召喚される最強の剣。なら、奴に魔物生成の隙を与えず全力で攻撃し続ければ……あの力を封印できるかもしれない。

 

 俺は即座に植物の針を放ち、魔王をけん制。

 そして――


「クリスっ!」


 さらに上空からクリームヒルトがブレスによる援護。

 魔王は俺の針やブレスをくらい少しだけ怯んだものの、まったくダメージを受けていなかった。やはり俺たちとは根本的に違う生き物なのだ。普通の攻撃は通用しない。


「クリス殿っ!」

「露払いは我らにお任せをっ!」

 

 地上からは亜人たちが再び接近し、新しく生まれた魔物たちを狩り始めていた。


「ぬうっ、またしても貴様か! ちょこまかと……」


 決死の突撃が功を奏し、召喚された魔物はすぐに葬られる。もはや俺たちの処理能力が召喚の速さを上回っている状態だ。

 そして俺は再び攻撃に移る。

 すなわち、最初の同じように〈寄生樹〉の種をもあいつに植え付ける。この力であればあいつにダメージを与えることができる。

 下準備は十分だった。

 〈緑神〉の脚力によって宙に舞った俺は、そのままの勢いで上から百近くの種をまき散らした。


「我を舐めるなっ! 同じ手が通用すると思ったか!」

 

 突如、魔王の周囲に炎が立ち込めた。その力で炎系の魔物を召喚し、〈寄生樹〉の種を焼き切ってしまおうという判断らしい。

 生み出した炎の結界は〈魔神刀〉よりはるかに劣るものの、少なくとも種の侵入を防ぐという意味では極めて効果的に作用したらしい。俺の放った種は完全に燃え尽きてしまった。


「…………」 


 それでも俺は前に進むのを止めない。今、ここで攻勢を緩めては敗北を意味するのだから。


「やれっ!」


 俺はこれまでずっと跨っていた〈緑神〉から飛びのいた。

 〈緑神〉はその脚力で炎の魔物を飛び越え、魔王に接近戦を挑む。硬い植物によって覆われたその身体と牙は、並の魔物よりもはるかに強力な力なのだが……。


「舐めるなと言っているっ!」


 迫りくる〈緑神〉を、魔王は手刀で両断した。素手で切り裂けるレベルの硬さではなかったはずなのだが、やはり魔族というのは俺たちと大きく身体構造が異なるらしい。

 だが――


「なっ……にっ……」


 ここに来て、魔王は驚愕した。

 そう、すべては俺の計画通り。

 奴の近くに〈緑神〉を送り込み、そしてそれが倒されてしまうことも完全に想定内。


「き、貴様っ! しょ、植物の獣の中に……種をっ!」


 魔王が切り裂いた〈緑神〉の中から、大量の〈寄生樹〉の種が現れた。

 そう、これが俺の計画だ。

 どれだけ魔王が油断しているといっても、ばらまかれた種にその身を晒すわけがない。何らかの方法で防ごうとするだろう。

 だから俺は別の方法で奴に種を届ける必要があった。〈緑神〉は俺の配下としてずっと戦ってきた道具だ。まさかその中に種を潜ませているとは思いもしなかったのだろう。


「ぐ……多い……」


 それでも体をひねって回避しようと試みたようだが、この至近距離ではどうすることもできなかったらしい。魔王は〈寄生樹〉の種を完全に受けてしまう。

 その数は、前回の十倍以上。100を超える種が魔王に食らいついた。

 そして、〈緑神〉の中に秘められていたのは、何も種だけではない。植物の袋に包まれた俺の血もまた、時間差で飛び散るように配置しておいた。

 そして今、その血が魔王へと接触し、〈寄生樹〉の休眠を覚ます。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 魔王に張り付いた〈寄生樹〉が活動を始める。

 体を裂き侵食していく〈寄生樹〉の根は、相当の痛みなのだろう。それをこの数なのだから、普通の人間ならショック死してもおかしくない。

 そしてその影響は目に見えて現れてきた。


 これまでずっと続いていた魔物の召喚が、完全にストップしたのだ。


 とうとう、俺たちはここまで来た。

 魔王を……追い詰めたんだ。

 


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