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魔神刀


 魔王城、玉座の間にて。

 俺とクリームヒルトは、魔王と戦い始めた。


 すでにクリームヒルトはブレスの準備をしている。ここから放てば魔王に当たり、建物の外は山だ。味方の巻き添えを心配する必要はないだろう。

 一方の俺は〈緑神〉に跨り、すでに手には〈枝剣〉を構えていた。これで勝てるとは思っていないが、まずは様子見といったところか。


「ほうっ、その勇ましさだけは褒めてやろう」


 魔王がその筋肉質な腕を前に突き出した。

 すると突然、魔王の足元にいた数十匹の魔物たちが、一斉に奴の手へと集まってきた。


 一瞬、飢えていて腕でも食いちぎったのかと思ったが、違う。奴の手に集まっていった魔物たちは、完全な個体としての形を崩壊させ、一つの塊としてその手に収束していった。

 その形は、剣。


「〈魔神刀〉っ!」


 〈魔神刀〉。

 どうやらこれが奴の武器らしい。

 だが武器一つ用意したところで何があるというのだろうか? 俺たちのやるべきことは変わらない。

 

 クリームヒルトが氷のブレスを放った。

 バロンの時と同じように、凍らせて動きを鈍らせる作戦らしい。少しでも隙ができれば、俺の〈枝剣〉で奴を突き刺すこともできるのだが。


「かつて天使を裂き英雄を屠った我が力。その目にしかと焼きつけよっ!」


 ブレスを前にして魔王は全く逃げる様子を見せなかった。怯えも不安もない。自らの力を信じている者の顔だった。

 

「――斬っ!」


 こ……こいつ。

 ブレスを……切った。

 物理法則を無視したその一撃は、クリームヒルトのブレスを完全に切り裂いて消失させた。おまけにその斬撃はまるで風の刃か何かのようにこちらに迫っている。

 俺とクリームヒルトは即座にその斬撃を避けた。 


 〈緑神〉の一部が斬撃によって切れた。 

 ただの風だとは思っていなかったが、あれを食らったら致命傷になるな……。


「――剣舞っ!」


 攻撃を避けて一息、とはいかなかったようだ。魔王はまるで踊るように剣を振り回し、その動きに従っていくつもの風の刃が発生する。

 何重にも折り重なる〈魔神刀〉の斬撃は、まるで漁網か何かのように絡み合い、俺たちの逃げ場を奪っていった。

 魚であればその隙間をすり抜けることができたかもしれないが、俺たち人間の大きさであの斬撃を避けることは無理。


「〈氷蔓草〉っ」


 即座に〈氷蔓草〉を発生させる。バロンの時と同じように氷の壁を生み出し、防ぎ切ろうとしたのだ。

 クリームヒルトも俺の意図を察してその上から氷のブレスを浴びせた。俺の生み出した氷の壁はさらに強化されていく。 

 しかし、それでも斬撃を防ぎきることはできなかったようだ。氷の壁をすり抜け、刃が俺たちの元へと迫ってくる。

 それでも氷の壁に多少効果はあったらしく、斬撃の網が絡まり、かなり大きな穴ができていた。俺たちはそれをすり抜け、なんとか回避することに成功する。


「大丈夫か? クリームヒルト!」

「うん、問題ないっ!」


 壁の向こうで、剣を構えた魔王が笑った。


 攻防一体。


 やはり、魔王シュタロストは強い。

 魔物を操れるから強いのではない。奴自身が力を持ち、他者を圧倒することができるのだ。

 魔物の王というだけならアルフレッドでも十分に倒せていたはずだ。史実で引き分けになっていたのであれば、それ相応の力を持っていたということ。

 魔王自身が雑魚であったなら、という甘い願望は木っ端みじんに砕け散った。やはり俺たちの苦戦は必死なようだ。

 

 そして、なにより……。

 こうして俺やクリームヒルトと争っている間にも、奴は延々と魔物を増やし続けている。その力は自動にして無限。魔王を殺す以外……この地に平和は訪れない。


 〈緑神〉の高速移動によって、魔王の斬撃を回避する俺。容易くはあるのだが、もし万が一あれをくらったら……間違いなく死んでしまう。一回のミスすらも許されない残機なしのクソゲーだ。

 正攻法で倒そうと考えない方がいい。剣や拳で直接戦闘なんてできる次元を超えている。

 ならば……絡め手を使うしかない。そしてそれができるのは、様々な植物を扱うことのできる俺だけだ。


「どうするクリス? あたしが接近戦で……」

「いやそれは危ない。とりあえず俺に任せてくれ」


 即座に動き始める俺。

 〈森羅操々〉を駆使し、望む植物を生み出していく。

 この手に集う、魔力の結晶。

 数百の、種。 

 

「〈寄生樹〉、奴にとりつけっ!」 


 〈寄生樹〉は相手に寄生し栄養を吸い取る。人間であれば相手をミイラ化してしまうほどに害悪だ。以前クリームヒルトを治療するときに使ったのはこれを改造品。そして今、魔王に放ったものは改造なしの原種だ。

 ただし、〈寄生樹〉の獲物はあくまで俺たち亜人や人間だ。魔物や魔族に取り付いていたという例は聞いたことがない。そのまま投げつけて上手くいく可能性もあるが、ここは俺が一工夫しておくことにしよう。


「何のつもりかは知らぬが、そのような小さな種程度で我を倒すと? 笑わせてくれる」

 

 魔王は即座に斬撃を放った。

 だが、この種は俺の小指よりも小さい。網目のようになっている斬撃ですべてを捕らえることは難しく、三分の一程度は貫通して魔王に迫っていく。


「…………」


 後方へ引き、手袋で種を払う魔王。恐れている様子ではないが、念には念をといったところだろうか。

 〈寄生樹〉の種はいくつか手袋や足元に張り付いた。だが、それだけだ。魔王を侵食する気配はない。


「不発のようだな」


 鼻で笑う魔王は、再びこちらへの攻撃を開始した。


 そして俺は次の手を打つ。右手に持つ〈枝剣〉で、左手の甲を少しだけ傷つけた。

 血だ。 

 〈寄生樹〉は人間の血に反応し寄生活動を開始する。魔王が傷ついていないなら、この起爆剤を俺自身の手で用意しなければならない。

 

 斬撃を放つ魔王と、回避する俺。〈緑神〉に乗っているとはいえ、少しでも気を抜けば死んでしまうかもしれない。

 その死闘の刹那。俺は左手を振ってその血を放った。 


「ぬぅ」


 俺の血が到達した〈寄生樹〉は、爆発的に成長していった。魔王の身体に根を這わせ、その皮膚から侵入を試みようとしている。

 右手と左足首。二つの箇所から〈寄生樹〉が侵入を開始した。魔王が苦悶の表情をしている。

 ……が、それだけだった。

 魔王は即座に〈魔神刀〉を振り、寄生樹を切り裂いた。


「貴様、小癪な手を使うな。気持ち悪い」


 傷口から血のような紫色の液体が流れている。これまでで、一番ダメージが入った様子だ。

 効いている。

 すぐに対処されてしまうが、効果はあるように見える。


 有効打が一つ。

 少しでも奴を追い詰め、倒してしまいたい。


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