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魔王シュタロスト


 しばらく、魔物たちとの戦いが続いた。

 倒しても倒しても湧いてくる魔物に霹靂しながらも、一歩ずつ確実に前に進んでいく俺たち。

 階段を上り、魔物を倒して倒して倒して倒して……そして、ついにそこへとたどり着いた。

 

 魔王城二階、最深部。

 玉座のある場所だ。部屋、といってもいいのだが壁で完全に隔離されているわけではなく、並ぶ柱によって区切られた区画だ。ゆえにドアや扉のような構造物が存在せず、三方から自由に中へ入ることができる。

 障害物がなければ、の話ではあるが。


「こ……これは……」


 なんという、魔物の数だ。

 床いっぱいに広がった魔物は、まるでそれ自体が地面か何かと錯覚してしまうほどだった。床下の黒い霧のような物質から湧き続けている。

 その数は……おそらく無限。

 こんなことでは、いくら魔物を倒してもまったく意味がない。


「ようこそ、我が玉座の間へ。魔物と魔族を除き、この地を訪れたのはお前たちが初めてだ」


 そこに、一人の魔族がいた。

 形としては人型。黒い刃の塊みたいな構造の鎧を身に着けている。鋭く赤く光るその目が、ギラリとこちらを向いている。

 

「魔王……」


挿絵(By みてみん)


 魔王シュタロスト。

 すべての元凶。

 亜人と人間の敵。領地を毒々しい植物で染め上げ、魔物の溢れる土地へ変貌させる恐るべき存在。

 その力は災害。俺たちにとって害悪でしかない。

 

 だが、自然災害と違ってどうやら会話はできるらしい。


「お前は……なんなんだ?」

 

 気が付けば、俺は自然と奴に語り掛けていた。


「どうして人間を攻撃するんだ? どうしてそんなにも魔物を召喚する? あの紫色の植物はなんだ? お前は一体……何をしたいんだ?」


 今更、話をして和解できるとは思っていない。仮に向こうがそう言ってきたとしても、全力で拒否して戦うことになるだろう。

 だけど俺は知りたかった。魔王という存在を。なぜこうも執拗に人類を脅かすのか。その答えを。


「我は……魔だ」


 そう、魔王は言った。


「かつて神話の時代、創世の神がこの地を創り、そして人と魔を分けて住まわせた。光と闇、表と裏、人と魔。我ら魔族はこの地の半分を支配し、残るは人が支配した。そういう取り決めだったのだ。創世の頃はな」

「人と……魔」

「だがお前たち人は増えすぎた。自らを生み出した神やその使いである天使のことなど忘れ、人はその数と領地を増やし続けた。一方、魔族は強力な力を持っていたものの……徐々に人類に駆逐されていった」


 どうやら、俺たち亜人も奴にとっては『人』のカテゴリーらしい。

 まあ確かに『人』だよ。けど実際のところ、対立も多くて住んでる場所も違うから、俺たちがこの地の支配者なんて言われてもいまいちピンとこないのだが。まあ、住んでる場所が紫の植物になってないだけ、魔族とは違う勢力なんだろうな。


「万、千、百、十、そしていまや我を含めて数人の魔族を残すのみ。そしてそのわずかな生き残りすら、今日の戦いで倒されてしまうのだろうな。お前たちが殺したバロンのように」

「お前たちが人を襲うから、俺たちだってここまで来たんだ。あまり……被害者面をするなよ」

「我はもうすぐ滅ぶのだろう。いつか……この日が来ると思っていた。生きとし生けるもの終着点。絶滅という名の最後」


 突然、魔王は拳を握りしめて叫んだ。


「だが我は諦めぬっ! 死んでいった同胞たちに報いるため、最後まで……この地の王として世界に抗ってみせるっ! さあ、もはや言葉は不要だ愚かな亜人たちよっ! お前たちを殺し、残りの亜人も殺し、森を魔の色に染め、人間を滅ぼし、すべての地を魔族の領地とするっ! たとえ魔族が……我一人になったとしてもなっ!」

 

 魔王の気勢に、俺たちは気圧される。


 部屋の外からは戦いの音が聞こえる。俺たち以外の亜人は未だに戦っているのだ。おそらく炎帝バロンを除いた他の魔族もいるのだろう。ここまで加勢しに来てくれるかどうかは……分からない。数が数だから負けることはないと思うが……。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 魔王の叫びとともに、部屋に変化が生じた。先ほどから延々と増殖し続けていた魔物が、その勢いを増してしまったのだ。

 なんて勢いだ。

 無限に溢れる魔物たちの動きはまさしく大波。溢れすぎて上の空間まで侵食し始めている。そのままではとても魔王本体に近づけそうになかった。


「クリス。ここはあたしがっ!」


 即座にクリームヒルトが氷のブレスを放った。すさまじい勢いのブレスは魔物を完全に凍らせる。

 だが当然魔王は無傷。薄皮一枚凍ることもなく、何か魔方陣のような障壁がブレスを完全に防ぎきってしまった。

 そして――


「……湧いて出てるな」


 凍り付かせた魔物たちの下から、さらに魔物たちが湧いている。奴らは上で凍った魔物たちを押しのけ、さらに外へと広がろうとしている。

 どうする? 魔物自体は弱くないが……無視して魔王には近づけないし、外に漏れたら他の亜人たちがやられる。大将を目の前にして雑魚狩りなんて……歯がゆいな。

 

「クリス様、クリームヒルト様っ! ここは我らにお任せをっ!」


 後ろに控えていた亜人たちが一斉に動き出した。彼らは部屋の周囲に集結し、あふれ出す魔物たちを次々と屠っていく。

 無限の魔物たち。だが数百人いる亜人たちの兵士が相手となっては、その数にも限りがある。


「すまないっ! しばらく魔物たちを狩っててくれっ! 魔王は俺とクリームヒルトが倒すっ!」


 魔物は未だ多い。だが亜人たちのおかげで足場は確保できる状況となった。

 クリームヒルトは翼で空中を、そして俺は凍った魔物たちを足場とし魔王に迫っていく。


「盟主殿、ご武運をっ!」

「クリス様もどうか、我らに勝利をっ!」

「亜人の未来は……あなた方の手にっ!」


 亜人たちの応援を背に、俺たちは前へと進んだ。

 

 いよいよ、魔王との戦いが始まる。


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