我が名はアルフレッド! 魔王を討つ者っ!
前回の話、少しだけ投稿すべきところが抜けてました。
主人公がちょっと悩んでできればアルフレッドを止めたいなぁと思う描写です。
なんだかいきなりアルフレッドを止めようとしている展開になってて違和感ありましたね。
申し訳ない。
村長に招かれた俺は、彼の家へと入った。
岩を抉って作られた、洞窟のような住まいだった。
煌びやかな家具は少なく、座る場所などは岩をくりぬいただけの武骨なもの。しかし元が岩だと言うだけあって質素ながらも頑丈な造りをしており、質実剛健な印象を受ける。
「改めて自己紹介をしよう。この村の村長であり、龍人族の族長でもある、我の名はフランツ。誇り高き一族を代表し、先ほどの共闘を感謝しよう」
「俺の名はクリスといいます。エルフであり、人間でもあります」
岩の椅子に座った俺と族長。テーブル越しに握手を交わす。
「ふむ……、人間でもある? ハーフという意味か? それにしては随分でエルフそのもののような……」
「そのように捉えてもらって間違いありません。説明しにくい複雑な事情があります」
まあ、そのあたりの認識はどうでもいい。
「では先ほどの話を聞かせていただきたい。脅威、というのはどのような意味か?」
「あなたは勇者アルフレッドの名を知っていますか?」
「アルフレッド? 確か、魔王を倒すために活躍している人間の名であったな。すでに何体か魔族を倒したと聞いている」
「やはりご存じでしたか」
孤立した村だと思っていたが、それなりに情報は伝わっているみたいだな。
「あの男の強さの根源、スキルが問題なのです。呪われたその力は、必ずや龍人族の災いとなります」
「スキルだと? 勇者にそのような特殊な力があるとは聞いたことがないが……」
「〈暴食〉というスキルです。相手を殺し、吸収して力を奪います。あの男はそうやって亜人を食って力を得ているのです。最強と名高い龍人族の身体能力やブレスや、奴にとって喉から手が出るほど欲しい力なのです」
「……にわかに、信じられない話だな」
族長のフランツはほとんど信じていない様子で、まるで他人事のようにそう呟いた。
まあ、口で言って分かるわけないよな。
「あいつは必ずここに来て、誰か手ごろな龍人族を連れ出そうとするでしょう。『仲間になろうっ』とでも言うかもしれません。ですがその誘いに乗らないでください。これは罠ですっ!」
「ふむ……ふむ。客人のそなたの言葉は聞こう。だが、ただの人間にそんなことを言われても……そもそも誰もついてゆかぬのでは? 言われるまでもないことだと思うが」
「そう……なのですか?」
「確かに我らはアルフレッドの名は知っている。英雄、勇者だと呼ばれている話もな。しかしそれは人間の間での話。その実力、龍人族の上を行くはずもあるまい。その男が我らの配下になりたい、と申すなら考えなくもないが」
「…………」
どうやら、アルフレッドの名声は亜人の間ではそれほど届いていないらしい。ましてやこの龍人族は最強との自負があるだけにプライドが高そうだ。
つまり放っておいても誰かがホイホイとアルフレッドについていくことはない? ここまで来たのは俺の杞憂だったか?
「そ、それなら問題ないのです。ですがあの男は龍人族を狙っています。この村を離れ一人になった龍人族の誰かが、狙われてしまう危険も……」
「はははっ、心配なさるな。我ら龍人族が人間ごときに負けはせぬよ。皆に警告だけ発しておこう。それで良いかな?」
「……はい」
確かに、龍人族は強そうだ。あの魔族だって見事撃退してみせた。
しかし本当に大丈夫なのか? あの底知れないアルフレッドに、果たして勝つことができるのか? でも『龍人族が負けるかも』なんて言ったら、あまりいい顔はしないだろうな。
最低限のことはやった。あとは俺がどれだけ龍人族のために骨を折ることができるかだ。
こんな渓谷の里に潜んでずっと監視するなんてあまりに無謀だ。それにこだわればこだわるほど俺がアルフレッドに捕捉される危険が高まる。奴との敵対は、亜人の外見を持つ俺にとって命を賭けた戦いを意味する。
確かにアルフレッドは悪だ。奴の願望は邪だ。だが俺は……そこまで奴を止めたい正義の味方なのか? 魔王を倒すには奴を利用した方が効率がいいのは事実。
「族長、少しよろしいでしょうか」
突如この部屋に現れたのは、龍人族の青年だった。
「さきほど突然、人間の男がこの村にやってきました。アルフレッドと名乗るその男は、族長との対談を求めています」
「なんだって!」
「ほう……」
族長フランツは少しだけ口元に笑みを浮かべ、そして俺はただただ驚くばかりだった。
あまりにも……速すぎる。
もうここにやってきたのか? 人間の奴がここまでやってくるのには、いろいろと準備が必要なはずなのだが……。
驚く俺の耳に聞こえてきたは、遥か遠くから聞こえてくるアルフレッドの声だった。
「我が名はアルフレッドっ! 魔王を討つ者っ! 誇り高き龍人たちよ、どうか我が願いを聞いてくれっ!」
は?
俺は……その声に驚くことしかできなかった。
その声は間違いなくアルフレッドのものだった。ただし、俺がいつも聞いていた『人間語』ではなく、『亜人語』での言葉だったのだ。
どういうことだ? 奴も亜人語が使えたのか? あれだけ亜人を馬鹿にしたのに、勉強して身に着けた? 本当に?
……いや、待て。
そうだ。
奴はスキルや能力を奪うことができる。今まで食ってきた亜人の誰かに、いろはのような翻訳系スキルを持つ者がいたのかもしれない。だから学ばずとも言葉を話せた。そう考えるのが自然だ。
奴が亜人語を話せるとなると話は変わってくる。通訳を用意する必要もなく、ただその身一つでここまでやってこれるなら準備もそれほど必要ない。だからこの短期間でここまでやってこれたんだ。
その上、通訳越しではなく自分自身で言葉を話せるなら信頼度も段違いだろう。会話をできるということは、それだけ相手を騙しやすいということ。奴の口車に乗せられる被害者が出てこないことを祈ろう。
「ともに戦おうっ! 魔王は人類の……そして亜人の敵っ! 俺とあなた方の力が合わされば、必ず奴を打ち倒すことができるっ! 我はと思う者は名乗りをあげてくれっ! 俺の仲間となり、この世界に平和をもたらした英雄となろうっ!」
やはり、仲間の勧誘。
だがこれは嘘だ。
アルフレッドの望みは最強の亜人である龍人族を手に入れること。ここから一人だけ引きはがし、ナターシャの時みたいに〈暴食〉で食らうことが目的だ。
頼んだぞフランツさん。話はつけたんだ。騙されないでくれよ。