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遺跡への再訪


 一人になった。

 いや、クリフとしての記憶を失いこの時代に来た時点で、俺はすでに一人ぼっちだったのだ。今更孤独を感じる必要はない。

 アルフレッドの件は衝撃だったが、もう終わったことだ。今はとりあえず忘れよう。


 さて、いよいよ考えなければならない。

 この後、どうするか?

 俺の目指すべき道はどこか。

 

 まず、俺はアリスを救いたい。

 しかしこの世界はアリスが生まれる数十年昔。今の俺がどう頑張っても直接影響を及ぼすことは難しいだろう。

 次に、大河や瑠奈も救いたい。

 これもアリスと同じく時代が違う。やはり何かを成すのは難しい。


 だが少し遠回りな話にはなるが、まったく関係がないわけではない。

 この時代と未来の時代の共通点。

 

 それは、魔王だ。

 

 魔王がいるから大河たちが召喚された。

 魔王に協力してるかもしれないからと亜人たちは虐待されていた。


 つまり魔王がいなければ、大河たちは村を襲う以前にこの世界に召喚されなくなる。そして女王も過度に亜人を虐げる口実を失う。

 そうすれば俺の村は滅びない可能性が高い。アリスも、そして俺も救われる。大河や瑠奈は危険にさらされることなく、日本で平穏に過ごすだろう。

 

 勇者アルフレッドは魔王を瀕死の重傷に追い込み封印した。でももし、この時代に殺せていたとしたら……俺の苦しみも存在しなかったはずだ。

 

 この時代でやるべきことは決まった。


 ――魔王シュタロストを討つ。

 

 アルフレッドと魔王を戦わせたあと、弱った魔王を俺自身の手で打ち取る。相打ちで終わった史実を、俺の助力で勝利へと導くんだ。

 ただ、アルフレッドがあの感じでは仲良く魔王を倒しましょうとはいかない。俺は奴を監視するだけに留め、最後の最後で助力すればいい。あんな奴だ。たとえ戦いの結果史実通り死んでしまっても……全く問題ない。


 さて……やるべきことは多い。

 どう見ても悪人にしか見えない、勇者アルフレッドの監視。

 この体の持ち主であるクリフについての調査。

 衣食住、そして生活基盤の確保。

 そして敵である魔王、そしてその傘下にある魔族たちの調査。

 

 そしてまず最初にやるべきことは……力を取り戻すこと。


 すべてのネックが俺の力不足。まずは前回の世界と同じように遺跡に向かい、〈古代樹の種〉を手に入れる。

 この計画のもと、俺は森をさ迷うことになった。

 

 戦闘は徹底的に避けた。

 強化されていない〈森林結界〉により、狭い範囲ではあるが敵の存在を感知できる。気は進まないが毒々しい木に登ったり、あるいはツタを使ってジャンプしてみたりして、自分の立ち位置を確認することができた。

 俺の知っている時代と森の雰囲気は大きく変わっていた。しかし川の流れや小さな道の配置までは変わっていない。あとはそれを参考にして、例の遺跡へと向えば良いだけだった。

 

 幸いなことに、アルフレッドたちと過ごしたあの小屋から遺跡までは近くはないが遠くもない距離だった。五時間程度歩くことを強いられたが、それだけの話だ。

 こうして、俺は例の遺跡にたどり着いた。

 森の中にある遺跡は、数十年前の過去となった今でも全く様変わりしていないように見える。

 そして、俺は遺跡の中で彼女を見つけた。青い髪で背中に白い翼の生えたその容姿は……そう……。


「あ……あなたは、あの時の亜人の少女」

「……誰?」


 驚いた。

 まさか、あの時遺跡であった亜人の少女がここにいるなんて。ここは数十年前の昔であり、老婆だった女王が少女になるほどの時を遡っている。それにもかかわらずあの時の少女がここにいて、しかも同じ容姿であることに衝撃を受けたのだった。


 落ち着け。

 俺はあの時と顔が違うし、そもそもここは過去の世界だ。彼女は俺のことを知らない。


「頼みがあるっ!」

「……?」

「俺には〈古代樹の種〉が必要なんだ。力を得て、この世界の魔王を倒すため助けとなりたいっ! 報酬ならなんでも払う! だから、あの種を俺に分けてくれ! 何でもする……だから頼む……」


 この世界に来たばかりの俺は、金も権力もアイテムも何もない。ただ頭を下げることしかできなかった。


「助ける……私、あなたを」


 そう言って、少女は再び〈古代樹の種〉を俺に授けてくれた。


「ありがとう、感謝する。お礼はどうすればいい? 言葉が難しいなら紙に書いてくれてもかまわないけど」

「いらない」

「いらない? タダでくれるってことか? そんな……」

「義務、仕事……私の」


 義務?

 なんだろう。人に尽くしましょう、って教えがある亜人なのだろうか? エルフ時代に搾取されてた俺からすると信じられない話なんだが……。

 ま、まあもらえるというなら貰っておこう。未来の世界では遺跡を破壊したせいで怒ってたようだが、普通に入ればこんなものだということだ。


 さて、この種を飲み込むぞ。

 当時、種を飲み込んだ後の焼けるような苦しみを今でも覚えている。だが、結果を知っていれば少しは楽になるというもの。

 ……気合を入れるぞ。

 

「ぐ……うう……グうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!」


 俺は……取り戻す。

 たとえ俺自身がこの世界に埋もれ、寿命を迎えて死んでいったとしても。未来の世界のアリスや……大河や瑠奈が幸せに過ごせる世界のために。

 俺は……。



 こうして、俺は〈古代樹の種〉によって力を取り戻した。


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