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決着の果てに



 新たな力、〈緑神〉。

 植物の獣に跨り、大河と対峙する俺。


 空中戦の後、大河と俺は似たような森の中に着地した。二人の距離はおよそ5m。互いに視認はできるが、一歩二歩で済むような距離でもない。


 雷のように縦横無尽に動き回る大河の攻撃を避けきることなど不可能だ。逃げ回っていても勝機はない。

 だからこそ、攻め切るしかない。


 俺は〈緑神〉を突撃させた。

 さすがに大河の速度には及ばないものの、俺が脚を強化して走る時よりもはるかに素早い。光速には劣るが、平地であれば音速には迫っているかもしれない。


 俺の突撃に意表を突かれた様子の大河だったが、すぐさま防御体勢を取る。


 俺の身体が大河に近づくと、バチン、と何かの弾けるような音が聞こえた。これまでさんざん苦しめられてきた、大河を守る電気の防御結界だ。

 触れるだけで感電し、下手をすれば戦闘不能になってしまう仕掛け。だが俺とて何も考えずに突進したわけではない。


「よしっ!」


 〈緑神〉の受けた電撃は地面に伸びるツタからすべて放電され、俺の下へは訪れない。

 そして、放電した今の大河なら、これまであった雷の結界が弱まっているはず。


 つまり、決めるなら今っ!


「――〈枝剣〉っ!」


 バリアは解除した。 

 もう、余計な小細工などいらない。

 〈緑神〉によって強化されたこの速度が、今、俺の扱える魔法の中で一番速いのだから。


「大河ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 枝の剣。

 雷の槍。


 二つの力が交錯する。


「…………」

「…………」

 

 長い、静寂が続いた。

 俺は全力を出し切っていた。

 突撃の影響で〈緑神〉は雷撃に打たれ、見るも無残なほどに焦げてしまっていた。形を保っていることもできなくなり、ついには崩れ落ちてしまう。

 だが、こいつがすべてのダメージを負ってくれた。

 

 俺は、無傷だ。


 対して倒れたのは、大河。

 〈雷光神〉は……彼の墜落とともに空気に霧散してしまった。所詮、あいつのスキルで固めただけの存在。主が気を失えば消えるのは当然だった。


 新たな力、〈緑神〉。その力によって予想外の力を生み出し、大河の意表を突けたことが勝利へと繋がった。もし、俺と大河がずっと一緒に行動して、〈緑神〉や〈雷光神〉みたいな互いの奥の手を知り合っていたとしたら、この勝負は大河の勝利だったと思う。


 ともかく、勝利は勝利だ。


「大河……」


 傷つき、地面に倒れこんだ大河の前に俺は立った。


「……お前がいなかったら、俺はきっと女王や駆に殺されていた。味方のいないこの場所で、惨めに野垂れ死んでたかもしれない。大河……お前はこの世界にとっても、そして俺にとってもまさに英雄だった……」


 倒れこんだ大河はあまりにも弱々しく、まさしく敗者といった様相だった。


 今でも、信じることができない。

 こいつに勝つなんて、そんな夢物語のような話を。


 傷ついた大河は意識を失い地面に倒れこんでいる。呼吸はしているが随分と浅い。何よりこの出血だ。しばらくは起き上がれないだろう。


「ごめん。お前のこと……救わなきゃならないのに。俺はそれでも……アリスを、あの子を助けたいんだ」


 大河の怪我、そして洗脳。いろいろな問題はあるが……。

 アリスを探し出して、それから戻ってこよう。

 すべては、そこからだ。


 まずは〈草々結界〉を起動して、周囲にアリスがいないか確認を……。


 ――する。

 つもりだった。

 俺は……。


「……え?」


 その瞬間。

 大河に勝利し、アリスに思いを馳せ、未来に向かって走り始めた俺は……完全に油断していた。


「なん……で……?」


 ドスン、と体に衝撃を覚えたその時には……すべてが手遅れだった。

 俺の腹から生えていたそれは……ナイフの刃。

 背中から深々と突き刺さった凶刃は……、これまで大河と戦ってきて受けたどんな傷よりも深く……そして致命傷だった。

 

「瑠……奈……」


「あはっ」


 ナイフが抜かれた。 

 俺は地面に倒れながら……ゆっくりと背後を振り返った。

 ナイフを構えた瑠奈が……立っていた。


「そう……か……お前……」


 瑠奈のスキル――〈聖光〉。

 かつて隠れ家に引きこもっていた俺を監視していた結界魔法。もし、それと同じものがここに設置されていたとしたら?

 離れていても、俺という存在に気が付ける。

 大河とともに場所と移動したせいで、瑠奈の索敵範囲に引っかかってしまったのか。


「うふ……ははは……」


 しゃがみこんだ瑠奈が、俺の傷口にキスをした。

 口に染まった彼女の口元は、まるで吸血鬼か何かのようだった。


挿絵(By みてみん)

 

 ……狂ってる。

 おそらく、大河と同じように……。


「来栖、来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖来栖クルスクルスクルスクルスクルスクルスクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルクルススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススススス。ひっひひひひはははっはははハハハハハあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 瑠奈は数度俺の背中をナイフで突き刺すと、今度は自分自身の腹部を同じナイフで突き刺した。まるでサムライが切腹しているかのようなその光景に、俺は恐怖も驚きも感じることなく……ただ深い闇の中へと沈んでいく意識とともにぼんやりと眺めていることしかできなかった。


「…………」


 瑠奈。

 どうして……こんなことになったんだ?


 アリス……。

 アリスは、生きているのか?

 この世界の俺は、俺なのか?

 

 死ぬ……。

 

 死んだら、転生できるかな? 過去に戻って、アリスを救えたりするかな? 

 そんなの、無理だよな。

 三度目なんて、あるわけない。


 大河、瑠奈、アリス……ごめん。

 助けられなくて……ごめん。



 ……こうして、俺は三度目の人生を……終えたのだった。


ここでクラス転移編は終了となります。

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