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緑神


 〈雷光神〉。

 大河が生み出した、雷の獣。

 その脅威が、今、俺の目の前に。


 森をなぎ倒した大河は、方向転換して再びこちらに迫ってくる。


「くそっ!」


 俺は即座に森の中に入った。

 ここは視界が悪く動きにくい。だが逆にそれが大河に対する目くらましになるはずだ。

 そして俺は植物の力で相手の動きを探ることができる。森というフィールドは俺にとって有利に働く。奴が森に入り込んだこのチャンスを逃す手はない。


 足場の悪い地面を跳躍しながら、森の隙間を縫うように駆けだす。

 植物の武器、そして身にまとう植物の装備を固め、全力で大河と戦うための算段を整える。

 このまま大河の背後に回って、奇襲という形であいつを傷つけることができれば……あるいは……。

 

 などと考えていた俺は、突然、肌に違和感を覚えた。


「……?」


 たいしたことのない話だ。

 冬に、ドアノブを触った時に感じるような、小さな静電気を感じた……ただそれだけのこと。俺は必死に走っているわけだから、何かの拍子に静電気が発生したとしてもおかしな話ではない。

 だが次の瞬間、俺は驚愕することになる。


 大河が……こちらを向いたのだ。

 

 まずいっ!


 俺はすぐさま、跳躍して森の上へと逃げた。

 するとその直後、俺のいた場所が〈雷光神〉の直撃を受ける。明らかに俺を狙った一撃。見えてないはずなのに……これは……。


 大河も……使えるのか? 

 俺の〈草々結界〉に相当する索敵のための技。おそらく空気に微弱な電気を流し、その抵抗をもって相手を探すのだろう。

 その範囲がどの程度広いのかは分からない。だが、こうして捕捉されてしまっている俺が……雷光の速さで動く大河から逃げることは不可能だろう。


 森の中に入っても無駄だった、ということか。

 いや、むしろこうして空に逃げた今が一番……。


 瞬間、地上から白い光が見えた。


「大河っ!」


 落雷と全く同じように地上から空へと駆け抜ける一本の光。それは全身に雷を纏った大河だった。


「こいつ……空まで……」


 少し考えれば分かる話。 

 雷は空気を伝って空からやってくる。ならば同じように空へ向かうことも可能なはずだ。


 あまりにも、絶望的な状況だ。

 こちらは空中で植物を生成するため、戦術が限られてくる。対する大河は俺の頭上を押え、落雷の速さで攻撃を加えることができる。

 この状況では、俺は空を舞う蝶のように弱々しい存在だ。ただ大河の攻撃が外れてくれることを、祈るしかない。


 おそらく、静止時間は二秒ほどだったのだろうか。自然落下し始める俺を、大河がそのまま見過ごすはずもなかった。


 雷光の速さで落下する大河が、俺と激突した。


「がっ…………!」


 激しい衝撃が、俺を揺さぶった。


 絶縁体となるようなゴム質の鎧を身にまとってはいた。だが、この程度の抵抗は雷にとってあってないようなもの。ゴム合羽を着て落雷を回避できるというなら誰も苦労はしない。

 それでも、当たり所が良かったのだろう。そして地面から生やしたツタが間に合ったのも幸いした。

 左足から入った電気が、ツタを伝って地面に流れたようだ。これが心臓や頭に流れていたとしたら、命の危険があったかもしれない。

 だが、死ななかったからといって無傷というわけでもなかった。

  

 ……痛い。

 痛い痛い痛い痛い。


 左足に激痛。

 植物の補助を受けて問題なく動くことはできる。だがこの体に感じる痛みまでは取り払うことができない。痛み止めの実か何かを生み出すことは可能だが、そんな無駄な動作をしている間に次は命を取れてしまうかもしれない。

 

 本来なら、休むべきだ。〈森羅操々〉を使えば適切な薬を生み出し、体を癒すこともできるだろう。

 だが……まだ戦いは終わっていない。


 〈雷光神〉。


 大河の最終奥義。

 この技をどうやって打ち破ればいい? この痛みを耐えながら、俺や奴を上回ることができるのか?

 対抗する技は……?


「…………」


 俺の知る限り、ない。

 だがないからといってそのまま納得できる話でもない。何もしなければそれは死を待つだけなのだから。

 

 ないなら、生み出すしかない。


 駆を倒した時のように、新たな力を創造して……大河を倒す。

 それしかない。

 だけどそんなことを簡単に思いつくなら、これまで試しているのだ。今、この場で新しく生み出すことなんて……今の俺には……。

 

 いや……ある。

 あるんだ。

 今だからこそ思いつくことのできた、新たな技の形が。


「上手くいってくれよ……。来いっ!」


 〈森羅操々〉を起動する。

 ツタ、葉、果実、根、あらゆる木の部位を一転に凝縮し、そして組み上げていく。

 手、足、頭、目、鼻、口、骨、毛、爪、歯。

 生き物のように、生き生きとした姿で。


 植物の、獣。

 

 緻密に組み上げられたその個体は、植物でありながらも獣の姿をしている。

 そう、それはまさしく大河が今跨っている〈雷光神〉を参考に組み上げた、俺の新たな技。 


「名前を付けるとしたら、〈緑神りょくしん〉と言ったところか」


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 〈緑神〉が吼えた。

 これは俺の操り人形ではない。世界に存在するとされる植物の精霊を宿した、まさに意思を持った生き物なのだ。


 大河との戦いが、俺に新たな力を目覚めさせてくれた。

 奴らが雷光に命を宿らせ使役したように、俺もまた植物の塊に意思を与え……そして使役する。

 これまで俺が体に身にまとっていた植物たちとは決定的に違う。体自体を補助するのではなく、そいつ自体に戦闘力を持たせ、俺自身の肉体をはるかに上回る戦闘力を生み出すことができる。


 植物にも意思がある。


 俺はこの新たな力で、大河を倒す。これで怪我のハンデを埋めることができるはずだ。




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