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大河の意思


 俺の故郷、エルガ村。

 人間に滅ぼされた、悲劇の村。

 俺とアリスが結ばれ、そして別れた村。

 

 その村を襲った犯人が……大河だったなんて。


「くそっ!」


 俺が、もっと冷徹に未来を予測できていれば。

 あの時、駆の話を聞いて結論を急いでしまった。あまりにも出来すぎた……未来をなぞるような計画を聞いて……そうだと、あいつのせいだと思い込んでしまった。


 俺はどこかで大河のことを疑いたくなかった。

 いや、今でも信じていない。理解できていない。

 偽物であったらどれだけ良かっただろうか。だけど、こんなにもスキルを扱える集団が……赤の他人であるはずがない。

 これは、異世界人の集団だ。

 そしてその集団を率いているのは……大河だった。


 顔を知るクラスメイトが数名。周囲に散っているせいか、全員というわけではないようだ。瑠奈の姿も見えない。

 瑠奈……お前もなのか? いや、今はそれよりも……。


「聞いてるのかっ! 大河っ!」


 俺の叫びなど全く聞こえないように、大河は死体に剣を突き刺したままだった。

 返り血が、大河の顔に飛ぶ。


挿絵(By みてみん)


 何度も、何度も何度も何度も。止めを刺すなんて次元を超えて、まるで穴を開けることに喜びを見出しているかのようだ。 


「お前ええええええええええっ! 何やってんだよ! ここはエルフの村、俺たちと同じように生きてる亜人の村なんだぞっ! 俺の声が聞こえないのか? なあ、何とか言ったらどうなんだよ大河っ!」

「……ス」

「何?」

「殺す、殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスころころころころころころすすすすすすすすすすすコロスコロスコロスすすすすすすすすすすすコロスコロスコロスすすすすすすすすすすすコロスコロスコロスすすすすすすコロスコロスコロスコロスころころころころころころコロスコロスコロスすすすすすすすすすコロスコロスコロロロッロロスすすすすすすすすすすすコロスコロスコロスすすすすすすすすすすすコロスコロスッコロスコロスころころころころころころすすすすすすすすコロスコロスコロスすスッスすすすすすすすコロスコロスコロスすすすすすすすすコロスコロスコロスすすススすす」


「た……大河?」


 狂気に染まったその声を聞き、俺は……気が付いた。


 大河は正気を……失っている?

 

 この大河は偽物ではなく本物。だが、自分の意思ではなく誰かに操れているのか?

 今までは頭に血が上ってそこまで至れなかったが、やはり……大河がエルフを虐殺するとは考えにくい。そう考える方が自然だろう。


 なら、誰が大河を……いや、大河たちを操ってるんだ?


 女王? 

 いや、そんなはずはない。そもそも女王は大河を煩わしく思っていたはずだ。人を操る力があるなら、初めから大河を意のままに操っていれば良いだけのこと。煩わしく思う必要などない。

 なら誰が?

 他にこの世界に悪人なんていたか? 俺たちと敵対するような奴が、駆と女王以外で……。


「…………」


 まさか……魔王が?


 この村は魔王の勢力圏とされる西の山脈に近い。自らに近づいてきた勇者を疎ましく思った魔王が、手を打ったとしたら?

 洗脳? 

 洗脳魔法か何かで大河を操り、亜人たちを虐殺した? 俺たちの村に魔王の信奉者はいなかったと思うから、魔王にしてみればエルフたちは勇者を称える王国の民だ。殺してしまいたくなるのも頷ける。


 ……落ち着け。


 確固たる証拠はない。

 全部空想の話だ。

 だけど確実に言えることは、今、大河たちがエルフを殺しているという真実。そして俺はアリスを探さなければならない。


 生き残っている村人がいるかもしれない。

 それは理解している。

 でも、俺はここにアリスを救いに来た。


 初志貫徹。


 たとえ生き残りを見捨ててでも、アリスを見つけ出すことが先決だ。今の俺なら〈森羅操々〉の力で広範囲を監視することができる。この圏内にアリスを捕らえることができれば、すぐにでも見つけ出すことができるはず。

 そう、難しい話じゃない。


 ――〈森羅操々〉。


 即座に植物を操り足元にツタを這わせる。補助された強力な脚力によって後方へ引き、退路を確保する。

 目指すは、この先。俺が来た方向とは真反対。

 アリスが連れていかれたとしたら……あちらに。


「……っ!」


 即座に後方へと退く。


 次の瞬間、ずどん、とすさまじい音と目のくらむような光が俺を襲った。

 

 抉れた地面。

 焦げ臭い。

 そして、剣をこちらに向ける大河。


 大河が、俺に雷を落としたのだ。


「コロコロ……殺ス」


 一瞬にして俺の近くに落ちた雷。

 もし、一歩でも前に進んでいれば、この身に受けてしまっていただろう。逃がすつもりはないらしい。

 どうやら、俺もエルフ扱いみたいだな。厳密には違うのだが、今の大河たちに話が通じるとも思えない。


 ……仕方ない。


「邪魔するな大河あああああああああああああああああああああああああああああっ! 俺は……」


 逃げることは不可能。

 ならば、ここで迎え撃つしかない。

 

 即座に避雷針となる大木を発生させる。

 植物は俺の力。攻撃となり防御にもなる。


 そう、俺は決意した。

 あの大河を……倒さなければならないと。


「大河……お前は、こんなこと本当は望んでないんだよな? 俺は知ってる。お前のやさしさ、亜人を思いやる心を。俺はエルフとして、お前のキラキラしたきれいごとが大好きだったんだぞ。なあ、大河……」

「…………」

「俺がお前を止めてやるよ。ケガさせるかもしれないし、殺しちゃうかもしれないけど……必ず、お前を止めてみせるっ!」


 剣に雷をほとばしらせる大河。

 足元のツタを触手のように這わせる俺。


 どちらも、臨戦態勢。


「大河あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

「ク……ククッ来栖ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」

 

 こうして。

 俺と大河の戦いが始まったのだった。


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