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村長への警告


 かつて故郷であった村の近くを歩き回ることは、俺にとって散歩のようなものだ。

 もちろん迷うことなく、エルガ村へとたどり着く。


 俺はフードを被って耳と顔を隠し、いろはが前に出て村へと歩みを進めていく。

 入口の近くまで来ると、ざわざわとエルフたちが騒ぎ始めた。

 

 あまり大事にする気はないんだがな。

 まあ、来訪者というのは珍しいがない話ではない。人間の、というのは俺の記憶にある限り存在しないが。聞いてないだけかもしれないが……。

 

「あ……あの、私たちは……」


 亜人語ではなく普通の人間語で話を始めるいろは。自分たちが人間であることを伝えるためだろう。


 その効果はてきめんだった。俺たちが人間であることを理解したエルフは、すぐに対応できそうな人物を呼びに行った。


「ほっほっほっ、******************************************」


 ……村長!


 当然と言えば当然だ。人間とまともに話ができるのは、唯一村の外で徴税官と話をする役目を持つ権力者……すなわち村長のみ。

 

 だが亜人語で話しかけてくるところをみると、通訳を介さないと人間と会話できないのか?

 あるいは、向こうも同じようにこちらを試している?

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。こっちにはいろはがいる。亜人語であろうが問題ない。


「*****************」

「***************」

「******************」


 すぐに亜人語による会話が始まった。

 やはり普通に話されるとまともに単語を拾えないな。何を言ってるのか全く分からない。

方言でもあるのか?


 まあ、事前にいろはとは話をしてある。


 俺はこの村が滅び去る未来を知っている。しかしそれをそのまま話して、なおかつ信じてもらうことは難しい。

 だから、別の話題を伝える。

 

 駆がドワーフの村を滅ぼした一件だ。


 こんな事件があったから気を付けろ。誰かが襲ってくるかもしれないぞ。そういう話を伝えておくのだ。

 実際に起こった出来事なのだがら、嘘でもないんでもない。この話を聞いてこの村が見張りを立てたりして警戒するようになれば御の字だ。

  

 つまり、いろはも村長も未来を知る俺の本当の意思を知らないまま、警戒に当たってくれるということだ。

 これで例の雷の魔法を使った術者を見つけ出せれば最良。そうでもなくとも見張りで村の外に出ている住人がいれば、雷が落とされたあと俺やアリスを助けてくれるかもしれない。

 

 まあ、これはあくまで保険だ。本命は俺。必ず敵を見つけ出し……この手で倒してみせる。


「*********************」

「*************」

「*********************」

「************************」


 理解しがたい言葉の羅列が続いていく。


 村長の表情が強張った。

 無理もない。強力な異世界人に、一瞬で殺されてしまうかもしれないという恐怖は相当のものだろう。

 

 やがて、あの傲慢だった村長からは信じられないようにお辞儀をし、震えながら立ち去って行った。


「警戒するようにするって。これできっと大丈夫だよ」


 あの怯えようなら当然だな。

 っていうか少し怯えすぎだろ村長。心にやましいことがあるからそうなるんだぞ! 反省しろっ!

 

 こうして、俺は村に危機を伝え、過去の俺に会わず、懐かしいアリスの姿に満足して……首都へと戻っていったのだった。



 深夜。

 俺は再び隠れ家へと戻ったの……だが。


「……っ!」

 

 肌の焼けるこの感触。

 なんだ?

 まるで魔法か何かに触れたような……。


 魔法陣が、浮き出て……。


「来栖っ!」

「瑠奈……」


 魔法陣の近くから現れたのは、瑠奈だった。


挿絵(By みてみん)


「…………」


 運がなかったな……。

 日帰りで行けば何とかなると思っていたが、こうもタイミング悪く見つかってしまうとは。

 ここ数日、瑠奈がこのセーフハウスに来なかったから油断していた。大河にばれた程度ならごまかしもきいたかもしれないが……。


「ここには今、結界を張ってあるの。誰かが出入りしたら……気が付けるように」


 スキル名、〈聖光〉。

 かつて聖女が使っていた神聖魔法を自在に操ることのできるスキル。その力は回復、バフデバフ、攻撃等幅広い分野に対応しており、攻撃特化な駆のスキルには一歩及ばないものの、総合的な力はこちらの方が上だ。

 俺の出入りを監視する程度なの、瑠奈にとって簡単だということだ。


「ねえ来栖。どこに行ってたの? 外に出て、もし兵士に見つかったら殺されちゃうかもしれないんだよ。分かってるんでしょ?」

「分かってるさ。でも、俺だって人間だ。やりたいこともあるし、ずっとじっとしてたら頭がおかしくなりそうでな、悪いと思ってたけど、少し遠くに行ってただけだ。夜にはすぐ戻るつもりだったから問題ないだろ。誰にも見つかってないはずだ」

「また、無理しようとしてるんでしょ?」

「…………」


 どうやら、本当の意味で俺が何をしようとしているかについては……気が付いていないらしい。ただ、俺が外に出て危険な目にあうことを嫌がっているのだ。


 ここで瑠奈を論破したり結界を突破したりすることは簡単だ。今の俺にはそれだけの力がある。

 だが、そこまでする必要はない。

 アリスを救うためにも、今、俺は王都にいるべきなのだから。


「黙って出て行ったことは悪かったよ、瑠奈。せっかく家まで用意してもらったのにな。俺も……自分のことだけしか考えなかった。もしこんなことがあったら、今度はお前や大河に相談するよ。もちろん外に出ないように心がける。だからもう心配しなくていい。俺は……」

「そうじゃなくてっ!」

「……瑠奈?」

「どうして、私を連れていってくれなかったのって……それで……」

「…………」

「何でもない。今日はもう帰るから……」


 そう言い残して、瑠奈は立ち去ってしまった。


 瑠奈……。

 お前の気持ちは……すごく嬉しいよ。俺のことを心配して、大切に思ってくれてるんだってことは……ひしひしと伝わってくる。

 けど、許してくれ。

 ここにいる俺は、もう、昔の俺じゃないんだ。社会人になってから10年、この世界に転生して15年。もうあれから25年もたったんだ。お前との関係を引きずって、会えなくても会いたくて愛していたあの時の俺は……もう、死んだ。

 

 死んだんだ。


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