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隠れ家


 

 俺は建物の裏に移動して、いろはに声をかけた。


「ここにいたのか? いろは」


 隠れ家の裏、小さな庭のような場所にいろはが立っている。


「あ、来栖君……だよね。その髪と耳は?」

「目を覚まさなくて心配したんだ。一声かけてくれればよかったのに」

「ごめんなさい。目を覚まして……来栖君のこと、探してて」


 窓の外にいる俺に気が付かなかったらしい。まあ、冷静に考えれば髪の色も耳の形も変わってしまったわけだから、遠くから見ても分からなかったのかもしれないな。


「あの種を食べて、俺はエルフになったみたいでさ。いろはも髪の色が変わってるよな。そんな副作用がらしいぞ」

「ここ、王都だよね? 来栖君が運んできてくれたの? 私、また迷惑をかけて……」

「いろはが考えてるほど難しい話じゃないさ。あの種を食べて俺の力は上がったからな」


 エルフに戻るなんて副作用は聞いていなかったが、力が上がったのだからよしとしよう。

 

「いろは、もう、体調は大丈夫なのか?」

「うん、今まで迷惑かけてごめんね。もう大丈夫だよ。体も全然大丈夫。髪の色、変わっちゃったけどね」


 そう言って、髪を撫でるいろは。


「私、髪なんて染めたことないから……恥ずかしいなぁ」

「黒く染めてみたらどうだ? この世界でも髪を染める程度ならできると思うけど。大河に頼めば」

「ねえ、来栖君はどんな髪の色の女の子が好き?」

「俺……は……」


 思い出したのはアリスの髪。


 と一瞬口に出そうとしたがすぐに留める。今時日本人で金髪が好きだなんて、ちょっと変わってると思われるかもしれない。


「どんな色でも好きかな」

「私も、来栖君と同じ髪の色にしようかなぁ」

 

 うーん、今より金髪の方が目立たないか? いや、どっちも変わらないとおもうけどな。


「そういえばさ、いろははどんな力が目覚めたんだ? 古代樹の種を食べて、スキルが強化されたんだろ?」

「うーん、よく分からないかな」


 そう言って笑ういろは。

 いろはの能力は言語の違う生き物と話しているときに真価を発揮する。ここにいる限りは……試すこともできないだろうな。

 例えば……エルフと話をしたりなんて。

 …………。

 …………。

 …………。


 アリス。


「なあ、いろは」


 気が付けば、そう声を上げていた。


「少し、頼みたいことがあるんだ」

「どうしたの?」

「俺は、これからどうしても行きたいところがあるんだ。そこに……一緒に来てくれないか?」

 

 駆から逃げるためにエルフの村を訪問する……という名目のつもりだった。

 だがいろはが体調不良を起こしたことによって、その大義名分が無理なものとなってしまった。

 俺が自由に王都を動き回れる日は……かなり先になりそうだ。そんなものを待っていたら村が滅ぼされてしまうかもしれない。


 仮に俺一人で外に出たとして……部屋は違うが同じ建物で生活しているいろはをごまかしきることは難しい。ここは事情を打ち明けて協力を頼むのがベストだろう。亜人語の理解のためにも……いろはは必要だ。

 

「今すぐってわけじゃない。一……二週間後を考えてる。亜人と話せるいろはの力がどうしても必要なんだ。報酬は……そうだな。俺の力でできることならなんでも一回だけやってみせるよ。世界一おいしい果物を作ることも、植物製の高価な繊維を用意することも、超特急で隣町に移動することも……俺にならできる」


 古代樹の種によって俺の移動技術は格段に向上した。徒歩で数日かかるエルガ村への旅路も、ひょっとすると日帰りで済むかもしれない。

 だが、それは運が良かったらの話だ。

 村のことしか知らない俺だから、村の外の道まではよく分からない。もし迷ったりすれば、たどり着くまでの時間は二日、三日と増えてしまうだろう。


「うん、いいよ」

「……ありがとう。なるべく時間をかけないようにするから……。時期はまた追って話をするよ」

「…………」

「いろは?」


 頭を押えるいろは。


「まだ体調が悪いのか? 必要なら痛み止めや解熱剤みたいなものを用意できるけど」

「う、ううん、気にしないで」


 病み上がりの彼女にこんな頼みごとをするなんて、少し自分勝手過ぎたか?

 アリスのこととなると、冷静な判断ができなくなるな、俺は……。

 落ち着けよ。




 ――二週間後。

 

 想像していた通り、俺たちの自由は制限されてしまった。

 駆と女王の考えなのだろう。俺たちは例の村が滅んだ件の重要参考人として、捜索願の張り紙があちこちに貼られているらしい。

 殺人犯扱いではないが指名手配扱いのこの状況。単純に探している、という名目だから大河も抗議しにくいみたいだ。

 

 この扱い、明らかに俺のことを馬鹿にした様子ではなく煩わしい敵として認識されている。かつて劣等スキル持ちとして馬鹿にされていた頃からは考えられない扱いだ。 

 村での駆との戦いが、俺の評価を上げてしまったようだ。


 こうなると、俺に取れる方法は二つ。

 一つ目は、大河や瑠奈に協力してもらってエルガ村へ向かう。

 二つ目は、二人に黙ってエルガ村へ向かう。


 俺が選んだのは、後者だった。 


 エルガ村の場所を大河には知られたくなかった。もちろん、あいつが好き好んであの村を滅ぼすようなことはしないとは思っているが、何かの間違いがあるかもしれない。村とあいつを関連付ける行動は避けるべきだ。

 それに……情けない話だが抗議してきそうな瑠奈を説得できるかどうかも分からない。


 深夜出発し、なるべく早くこの村に戻る。それがベストだろう。


 こうした計画をいろはに相談し、俺たち二人は今度こそ完全にエルガ村へと向かう決断をした。

 そう、俺はやっと帰るんだ。

 前世の故郷に。

 あの日、滅んでしまったあの村に。離れ離れになってしまった、俺の婚約者に。


 アリス……。 


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