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前世の魂



「う……うう……」

 

 ゆっくりと、目を開く。

 俺の力を強化してくれるはずの古代樹の種。飲んだとたんに体に異常をきたしてしまい、気を失ってしまったようだ。

 だが、これだけ苦しかったのなら、効果も期待できるというものだ。さあ、この種は一体俺にどれだけの力を……。


「……ん?」


 おかしい。

 何か、違和感がある。

 目の前に映る光景。否、その上が側に常に張り付いている俺の前髪。

 その色が……黒から金色へ。

 これじゃあ……まるで。


「え?」


 エルフだ。

 エルフの耳だ。

 気になって耳を触ってみたら、確かにそこにはエルフだった頃のように尖り気味の耳が存在した。

 髪も金髪になってる。


 俺は、前世の姿に戻ってしまったのか?

 

「あなた……は……」


 青髪の少女が驚いたように声を上げた。これまで無表情だったその顔に、わずかながらの驚きと困惑が見て取れる。

 手も震えていた。


「クリ……フ?」


 クリフ?

 一瞬、前世の俺のことかと思ったがすぐに否定する。今の俺の名前は『くるす』、そしてエルフだったころの俺の名前は『くりす』。クリフなどという名前は知らない。

 しかしエルフだった頃の名前に似ているのは事実だ。親戚か、あるいはよく似た知り合いか誰かと勘違いしているのかもしれない。


「クリフ……あなたは……」

「残念だけど俺はクリフって名前を知らない。人違いじゃないか?」

「………………」


 よほど俺と似てたんだろうな。でも勘違いされたままだと話は進まないから、ここは否定しておかなければ。


「俺の姿がエルフになってるのは……一体」

「効果……古代樹の種。前世……あなた……エルフ……きっと」

「…………」


 そうだったんだよな。

 前世の姿に反応して、こうなってしまったということか。


「うう……うう……」

「……いろは、大丈夫か?」


 自らの変化に動揺し、いろはのことに気が回らなかった。

 

 いろはは、俺の後ろにいた。

 俺と同じように髪の色を変化させたいろはは、苦しそうにうめき声をあげている。意識がある様子はない。


「いろはは……どうなってるんだ?」

「元に……時間が……過ぎれば。副作用……強く」

「…………」


 俺よりも副作用が強かったってことか。 

 

 いろはの力は〈多重言語〉。異種族と通訳なしで会話ができるという非戦闘系の能力。

 この能力が強化されたらどうなるんだ? 魔物使いみたいに魔物を操れるようになるのだろうか?


 エルフの村には戻りたい。

 だけど、このままいろはを連れていくのは良くない。いつ体調が戻るのかも分からないうえ、ここにいては満足に休むこともできないだろう。

 

 やはり、いったん戻るべきか。


 俺は力を手に入れた。

 この力があれば、一人でも……十分に村まで戻ってくることができるかもしれない。

 もう、恐れるものはなにもない……はず。

 だから今は、こんなことに巻き込んでしまったいろはを大河たちのもとへと送り届けよう。


 強化されたこの力。

 そしていまだ健在なスキル。


 俺の頭には、すでに王都まで戻るための方程式が組みあがっていた。



 青髪の少女と別れた俺は、すぐさま王都へと戻ることにした。

 距離はかなりあったが、今の俺には日帰りできる程度だ。

 

 〈森羅操々〉を利用した、移動術。


 これはゴムのように伸縮する蔦を利用して、空を滑空するやり方だ。

 二つの木に蔓を固定し、弓を射るように上空へと体を投げ飛ばす。空気抵抗を避けるため、木から生み出した小さな飛行機のような構造体に体を納める。


 このように複雑な構造体を生み出したり、伸縮自在をツタを生み出すことは、これまでの俺にはできない芸当だった。古代樹の種によって能力が強化された結果だ。

   

 こうして王都の近くへと着地した俺は、深夜になる時間帯を見計らって都市の中に侵入した。


「……大河、いるか?」


 夜。

 俺は部屋の窓をノックするように叩き、大河を呼び寄せた。

 寝てしまっていたら上手くはいかなかったかもしれないが、幸運なことに……大河は起きていたようだ。


「来栖? 来栖なのか? その姿は……」

 

 大河が驚くのも無理はない。今の俺は髪が金色になり、エルフの容姿をしている。


「いろいろと話すことが多い。とりあえず、部屋の中に入らせてもらえないか?」

「あ……ああ」


 俺と、そしていろはは窓から部屋の中に滑り込む。


「来栖、一体今まで何してたんだ? 魔物にでも襲われたのか?」

「実はな……あの後」


 俺は大河にすべてを説明した。

 二人でドワーフの村を目指したこと。駆につけられたこと。逃げ出した先の遺跡で、古代樹の種を食べたこと。

 

「それでお前はエルフみたいに、いろはさんは髪の色が変わって……」

「ああ……なんでも俺の前世はエルフだったみたいなんだ。そのせいだって聞いてる」


 前世の記憶も鮮明なんだが、そこまで深く話す必要もないだろう。

 それよりも……。


「村は……ひどい有様だったよ。誰も生きてなかった。やったのは……たぶん駆だ」

「そうか、覚悟はしてたんだけどな……。辛いな……」


 深くため息をつき、俯く大河。

 目を瞑っている。死んでいったあのドワーフたちに、鎮魂の歌を捧げているのだろうか?


「悪いな、二人には本当に迷惑をかけた。まさか……命を狙われることになるなんて……」

「俺も油断してたよ大河。植物の魔法を使ってうまくつけられないようにしたつもりだったけど……駆のスキルが上だった」

 

 だが今の俺なら……あるいは……。


「話した通り、俺たちは駆に殺されそうになった。このままのこのこ帰ってきたら……本当に死んでしまうかもしれない。俺だけなら逃げ出しても良かったんだけど……いろはが」

「うう…………」


 いろはは本当に調子が悪そうだった。

 

 俺は古代樹の種を食べて髪の色が変わった。容姿も少しエルフ寄りになった。だけど元の顔立ちはそう変わっていない。知り合いである大河が見たら、俺だと認知されてしまうほどに。

 このまま別人に成りすまして過ごすのは難しいということだ。俺と違って髪を染めただけに見えるいろはならなおさらだ。


「俺に考えがある」


 そう、大河が言った。


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