再びスラガ村へ
2023/7/3 19:30
間違えてこの前の話を投稿し忘れていたため、割り込み投稿を行いました。
大河と来栖が話し合い、来栖が村に行くと言い出す話です。
俺たちは二人だけであのドワーフの村へと向かうことになった。
道中、多少の危険はあったものの難なく進むことができた。〈緑手〉のスキルによって多種の魔法を活用できるようになった俺は、いくつかの解決法を見出した。
〈草々結界〉……〈森羅操々〉の応用。周囲の雑草を用いた索敵魔法。地に足のついた動物であれば半径20m以内で感付くことができる。
〈臭悪草〉……悪臭を放つ草。魔法で足元に出現させ、猛獣を避けることができる。
〈強靭実〉……身体能力を強化することができる。
こうした能力を活用しながら、俺は村へと進んでいったのだった。
「ごめんな、いろは」
いろはには本当に申し訳ないことをしている。
彼女がいないとドワーフと会話できない、というのは建前だ。村の様子を確認するだけなら俺一人でもできなくもない。
だがエルガ村のエルフと話をしたい、というのが俺の隠された願望であり、そのためにいろはは必要不可欠だった。
「謝らなくていいよ来栖君。私ね、すごく嬉しんだ」
俺に気を使ってそう言ってるのかと、一瞬思った。しかしほほ笑む彼女の姿があまりにも自然で、どうやら本当にそう思ってるらしい。
「こんなに歩かされて、俺のこと恨んでたりしないか?」
「ピクニックみたいで楽しいもん。来栖君が木の実をくれたおかげで、疲れも吹き飛んじゃったから」
「それならいいんだけど、俺は……」
「それにね」
俺の言葉を遮るように、いろはがこちらを向いた。
「男の子と二人っきりで遠出するなんて、初めてだよ。これって私の初デートなの。来栖君みたいなかっこいい人と二人っきりで、私、とっても嬉しい」
「俺なんてかっこよくもなんともないよ。いろはレベルの可愛さなら、もっとかっこいい男を捕まえられると思うぞ」
「駄目だよ。私、緊張して話せなくなるから。こんな風に気兼ねなく話すことができるの、来栖君だけ。来栖君以外の人と二人っきりで外出なんて、考えただけで息が詰まっちゃう」
「……いろは。あの立て札を見てくれ。もうすぐスラガ村だ」
かつて大河たちとともに訪れた、ドワーフの村。村の前に立て札があったことを覚えている。
森で阻まれた道の角を回り、俺たちはついに村へとたどり着いた。
いや、訂正しよう。
ここは、もはや村ではなかった。
「こ……これは……」
ここには、確かに数日前までドワーフたちが住んでいたはずだ。あの日、大河とともにこの地を訪れ、激高する村長にいろはが詰め寄られていた記憶は、つい最近のもの。
だが、今俺の眼前にある光景は、あの時のものと全く異なっていた。
崩れ落ちた建物。
点在する死体。
腐った魚と木の実。
中でもドワーフの死体はあまりにもグロく、配信動画だったら一瞬映っただけでも運営に消されてしまいそうなほどだ。
死体はほとんど白骨化しているものの、所々に乾いた肉がこびり付いている。そのため完全な骨とは違い悪臭を放っており、周囲のハエも見苦しくそして気持ち悪いほどだった。
「うう……ううううう」
いろはが顔を真っ青にしながらしゃがみこんだ。口に手を当てて、今にも吐きそうな状態を堪えているようにも見える。
「いろは……」
彼女を介抱しながら、考える。
女王、なんてことしてくれたんだ。これは……あんまりだ。
魔法か何かなのか? こんな魔法……あるのか?
絶対ない、とは言い切れない。
しかし異世界で魔法を齧ったことのある俺としては、この規模はあまりにも規格外で……そして尋常でないように見えた。
それこそ、大河の〈白雷〉スキルのような……。
「…………」
次に俺は、壊れた建物に目線を移した。
見ているのは、壊れ方。
強い力で崩されたという感じではない。レンガの境界など全く関係なく、鋭利な刃物か何かで切断されたようになっている。ただ、この硬そうな建物を普通の刃物で切り刻めるはずもなく……。
この斬撃痕。
もし、魔法やスキルによるものだったとしたら?
炎系なら燃えた跡が残るはずだ、水系なら濡れた跡、俺の植物系ならツタや枯れた葉か何かが残っていてもおかしくない。
しかし、この傷跡にはそれらしきものがまるでない。
そう、まるで何もない……『空気』のような刃が切り裂いたかのような。
空気……大気を操る魔法……いや、スキル。
「まさか……駆が?」
「ご明察だよ、来栖」
その、声に。
俺は全力で振り返った。
「か……駆っ!」
森に木から、ゆらり、とその姿を現したメガネの男。
駆。
俺たちのクラスメイトであり、大気を操るスキルを持つ戦闘要員。
ま、まさか……つけられていたのか?
「女王からの命令でね、大河のことを監視していたのだが……。君たちが門の外に出たのを気づいてね。悪いが……つけさせてもらったよ」
「馬鹿な……つけてた? そんなはずは……」
植物を操る俺の魔法――〈森羅操々〉は応用が利く。
この魔法の範囲を広げて最大限に応用した植物の結界――〈草々結界〉を張り、野生動物や魔物の襲撃に備えていた。もちろん人間だって範囲内にいれば探知することができるはずだった。
だが、俺は奴に気が付かなかった。
なぜだ?
「私には、大気を操るスキルがある。例えば数10m離れた先に緩やかな風を吹かせ、鼻に直接その空気を持ってくることも可能だ」
「なんだと……」
「理解できるかね来栖。私のスキルさえあれば、たとえ目で見えなくとも、何メール離れていても尾行ができる。これが異世界人の持つスキルの力さ。君のような劣等スキル持ちには理解できないだろうがね」
なんて……ことだ。
テリトリー内の雑草で敵を探知する俺よりも、はるかに高性能で広範囲の索敵。大気の結界。遠くから監視していたのなら、俺が見つけられなかったのも当然のことだ。
兵士の一人や二人なら出し抜ける自身があった。だけど、スキル持ちのクラスメイトなんて……今の俺には……。
「くくくっ、だがしかし、君のスキルを侮りすぎたのも事実だ」
余裕綽々、といった様子で駆が笑っている。
「どうせここまでたどり着けないだろうと考えていたのだがね。よもや、獰猛な野獣を押しのけ……目的地まで到達してしまうとは。いやはや、私としたことが本当に残念な読み間違いだよ。おかげで……同郷の友を手にかけなければならないとはね……。ここならドワーフの死体と紛れて問題あるまい」
まずい……まずいぞ。
駆の奴。俺たちを殺すつもりなのか?
「お、落ち着けよ駆。俺はお前と敵対するつもりなんてない。話せば分かる。俺たちが女王と戦うことになったとしても、お前とまで争う必要はないはずだっ! 大河だって一応女王に従ってはいるだろ! 俺たちは危険人物でも犯罪者でもないっ! 早まるなっ!」
「くくく……女王に恩を売り、私はこの地で成り上がる。お前たちはそのための――贄だ」
瞬間、駆の背後に暴風が生まれる。
来る。
「――〈風龍刃〉っ!」
風の刃が、俺たちに迫った。